「期待しすぎずに、楽観でいこう」元・東レ経営研究所社長の佐々木常夫さんが晩年について語った『人生は理不尽』(小社刊)。発売即重版の話題作です。佐々木さんは東レ時代、肝臓病とうつ病を患い自殺未遂を繰り返した奥さまと自閉症のご長男を支えながら、必死に取締役にまで上りつめるも突然、左遷人事を言い渡されてしまいます。なぜ私が…そんなやりきれない想いに悩みますが、「なんとかなるさ」と前を向き『ビッグツリー』『そうか、君は課長になったのか。』とベストセラーを著しました。そんな佐々木さんも74歳。死を意識するようになった今、何を想うのか。人生の暗夜に苦しむ全ての方に贈るメッセージです。
「コレクション」はしない
私は所帯を持って以後、転勤などで引っ越しを繰り返しました。
荷物が多いとたいへんなので、引っ越しのたびに不要なモノを捨て、よけいなモノを買わないようにもなりました。私がモノに執着しないのは、度重なる引っ越しのおかげもあるかもしれません。
唯一本だけは捨てなかったためかなりの分量になりましたが、これも次の引っ越しでは半分以上捨てるつもりです。今は古本も安く手軽に入手できる。必要になったらまた買えばいい。そう思うことにしたのです。
もっとも、何でもかんでも使い捨てればいいと思っているわけではありません。家具や電化製品など毎日長く使うものは、耐用性や機能性を重視して買います。使い捨てにしろ長く使うにしろ、モノは実用性を考えるのが第一です。
ところが、人は得てしてモノに実用以外の価値を見出しがちです。思い出、思い入れ、ステイタス……などです。
たとえば私の亡くなった叔母は、よくモノを通して思い出を語っていました。「これはあのときもらったもの」「あれを買ったときは確かこういうことがあって」など、過ぎ去りし過去を細かく振り返るのです。
正直、私はこういう気持ちがあまりよくわかりません。
なぜそんなに過去の話ばかりするのか。どうして昔のモノをそこまで懐かしむのか。それよりも今を考えたほうが有意義ではないか。これから何をするかを話したほうが楽しいではないか。
年をとっても、人は過去ではなく未来を向いて生きるべき。過去のモノや思い出にとらわれてばかりいてはいけない。そう思うのです。
何も思い出が無意味だとは言いません。誰しも捨てられない思い出の品の一つや二つはあって当たり前です。でも思い出を懐かしむあまり、使いもしなくなった昔のモノをあれこれとっておくのはいかがなものでしょうか。
モノは使ってこそ価値があるのです。使わなくなったモノに思いだけを残してみてもなんの意味もありません。
だから私はコレクションもしません。集めて楽しむという気持ちも皆無です。高価な品物を集めることで心が満たされる人もいるのかもしれませんが、「それの何が楽しいのだろう」と思ってしまいます。
モノはステイタスではなくいかに使いこなすかが肝心。実用第一と心得ていちいちよけいな思いを残さない。
そのほうが残された時間を有意義に使えるのではないでしょうか。
人生は理不尽の記事をもっと読む
人生は理不尽
「期待しすぎずに、楽観でいこう」元東レ経営研究所所長の佐々木常夫さんが、壮絶な半生から学んだ人生晩年の哲学『人生は理不尽』(1月25日、小社刊)より一部公開。人生の暗夜は本書で照らせ!
~うつ病の妻、自閉症の長男を支えながら死に者狂いで辿り着いた東レ取締役。しかし、妻が2か月後自殺未遂。そして突然の左遷――。会社のために頑張ったのに、なぜ報われないのか。なぜ自分や家族が、こんな目に遭わねばならないのか。苦悩の中で、私は物事を客観的に見るコツを身につけました。それが「期待するのをやめる」ことです。人生は時に理不尽です。しかし理不尽から学ぶものも決して少なくないのです。~