1. Home
  2. 生き方
  3. 眩しがりやが見た光
  4. ただ、三月は目をこすっている

眩しがりやが見た光

2019.03.14 公開 ポスト

ただ、三月は目をこすっているマヒトゥ・ザ・ピーポー

(photography:吉本真大)

毎日マスクをして、花粉から身を守るワタシに春の匂いなど感じられるはずもなく、強いていうならこのガーゼの匂いがワタシに春を思い起こさせる。

小さい頃はもっと花粉症がひどく、こすり尽くした朝には目を開けるのも困難なほどに目やにがまつ毛とまつ毛をつなぎ、まばゆい光の中を盲目にふらつきながら洗面所にいき、蛇口をひねり、目やにを水でゆっくり溶かすのが日課だった。だから、わたしは風邪をひき、マスクをつけると、胸の奥がきゅうんと締め付けられるのだ。

春は何故だか、死んだ人を思い出す。充血した目を瞑(つむ)り、もう会えなくなった人のことをこめかみの奥に思う。生きていると、どんどんとその数が増えていく。そのたびに特別な記念日は増えていく。そのうち、365日、全てが祝日のようになるから、じいさんになるのが楽しみだ。

ここから先は会員限定のコンテンツです

無料!
今すぐ会員登録して続きを読む
会員の方はログインして続きをお楽しみください ログイン

マヒトゥ・ザ・ピーポー『ひかりぼっち

いつ、どの部分を遺書として 切り取ってくれても構わない。 あなたがあなた自身である限り、誰にも負けることはない。 オリジナルでもフェイクでもいい。ただわたしであればそれだけでいい。 GEZANマヒト、時代のフロントマン。眩しいだけじゃない光の記録。本連載に加え、書き下ろしを収録。(写真 佐内正史)

関連書籍

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

海外に行ったことのない英会話講師のゆうき。長いあいだ新しい曲を作ることができないでいるミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自分を責める、シングルマザーのましろ。 決めるのはいつも自分じゃない誰か。孤独と鬱屈はいつも身近にあった。だから、こんな世界に未練なんてない、ずっとそう思っていたのに、あの「通達」ですべて変わってしまった。 タイムリミットが来る前に、私たちは、「答え」を探さなければならない――。 孤独で不器用な人々の輝きを切なく鮮やかに切り取る、ずっと忘れられない物語。アンダーグラウンド界の鬼才が放つ、珠玉のデビュー小説。

{ この記事をシェアする }

眩しがりやが見た光

GEZAN・マヒトの見た、光、幸福、人生。

バックナンバー

マヒトゥ・ザ・ピーポー

ミュージシャン。2009年に大阪にて結成されたバンド・GEZANの作詞作曲を行いボーカルとして音楽活動開始。
2014年からは、完全手作りの投げ銭制野外フェス「全感覚祭」も主催。自由に境界をまたぎながらも個であることを貫くスタイルと、幅広い楽曲、独自の世界を打ち出す歌詞への評価は高く、日本のカルチャーシーンを牽引する。
著書『銀河で一番静かな革命』『ひかりぼっち』、絵本『みんなたいぽ』(絵:荒井良二)。映画監督作品『i ai』がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP