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私がオバさんになったよ

2021.08.13 公開 ポスト

女同士いがみ合いたくない【文庫化再掲】ジェーン・スー

どうやら、人生は折り返してからの方が楽しいらしい。ジェーン・スーと、わが道を歩く8人が語り尽くした本『私がオバさんになったよ』が文庫になりました。あらためて、その一部を公開します。今回は山内マリコさんとのお話。

イラストレーション 牛久保雅美

ジェーン 「女の人生は楽でいいよな」みたいなことを言う男性もいるけど、彼らは彼らで世間体を気にして自分のフェミニンな部分を解放できなかったり、男らしさを押し付けられてきたりでちょっとかわいそうでもあるんですよね。地方における男女となると、地域のギャップと、男と女のギャップの掛け合わせで……。

山内 たしかに地方には、心の中のジェンダーギャップ指数が五十年遅れてるっていう人はざらにいますね。年齢に関係なく。なにしろ年寄りが提示してくるそういう価値観って、完璧に仕上がってるから(笑)、そのループから抜け出して、旧弊の考え方を打ち崩すのはかなり難しい。打ち崩すというと闘ってるみたいで聞こえはいいけど、要は大多数の人間からバカにされる生き方を貫くってことなので。

ジェーン 女性の地位みたいなものは地域によってかなり差があるんでしょうね。地元のしきたりに則って生きる人たちから見たら、好き勝手にやってる東京の女に腹が立つのも当然かも。でもそこで分断されたらいけなくて。踏みとどまらないといけない。それって私たちがそうしたわけじゃなくて、システムの問題でしょうって。ここで私たちがいがみ合うのは筋が違くない? と。

山内 まさにシステム、構造の問題なんです! 女性同士がいがみ合うようにプログラミングされてる。ここら辺の仕組み、田嶋陽子さんの『愛という名の支配』という本にすごくわかりやすく書いてありました。女の人の頭のなかが男性化してしまうことも、システムの一部という感じ。

ジェーン おじさんからの言葉が必要以上に深く刺さっちゃう、おじさん受信機みたいな女の人いますからね。結局お金を持ってる持ってない、結婚してるしてない、モテるモテないとかいろんなところでジャッジされる厳しさが東京と地方ではそれぞれ違うんでしょうね。スクールカーストはどこにでもあるものだけど、それとは違う世界。

山内 お受験して私立に行ってる東京の人たちのスクールカーストはどういう感じですか。

ジェーン 私は国立の附属幼小中高大がついてるところの幼小中まで行ったんです。えぐい話だけど、そういう小学校に入れる親は金銭的にも余裕があって教育意識が高い。今じゃ信じられないけど、名簿に親の職業が記載された欄があって、医師の子供がめちゃくちゃ多かったです。そういう家は子供もたいてい医者になりましたね。小学校の同級生だけで、頭のてっぺんからつま先までの医者が間に合うほど。父親の職業がオーケストラの指揮者だったり、家が文化なんとか財に指定されたりしている子もいたな。

山内 えっ!? それは想像以上かも!

ジェーン 私は傍観者。うちは近所にそういう学校があったからって、日大中退と高卒の親が玉入れみたいな感じで私を投げ入れちゃったんですよ。受験もくじ引きだし。中学からばっきばきに、ちょっともう尋常じゃないレベルで頭のいい連中が入ってきて、私みたいな学力カースト最下層は附属高校には進学できないんです。足切りされちゃうから高校受験をせざるを得ない。しかも周りがみんな頭いいので、必然的に内申点が悪くなる。私の内申点で都立高校を受験しようと思っても、願書を提出しにきた私たちに在校生が二階の窓から空き缶を投げつけてくるようなヤンキー校しか選べない。だから私立に行くしか選択肢がないんです。特殊ですね。

山内 特殊すぎて、外から来るとわからない。

ジェーン 私立は私立で事情が違って。塾で知り合った私立女子中に通う友達から大学生のパーティーに誘われたり。男子大学生と遊ぶマセた女子中学生ってのがいたんですよ。当日は待ち合わせ場所に大人みたいな革ジャン、ジーンズに化粧の彼女たちがいて、面喰らいました。私はラルフローレンのセーターとチェックのスカート、膝上靴下とローファーでおしゃれしたつもりだったんだけど「ああそんな格好で来ちゃったんだ」ってがっかりされちゃって。私みたいにボーッとしたのは彼女たちの周りにはいなかったんでしょうね。同じ東京生まれ東京育ちでも、環境格差が大きい。だからこそ味わう疎外感があります。東京に生まれたから得をしてるところはあるけど、思ってるほどではないよって言いたくなることもある。

山内 想像よりだいぶ苛酷だ……。

ジェーン 高校は埼玉の女子校だったんで平和でしたけどね。誰かからの伝手で事務所が原宿にあるようなところでモニターのバイトをしたことがあるんですけど、オリーブやセブンティーンで読者モデルをやってるような男の子たちが働いててびっくりしました。でもかわいい子優遇だから私には全然仕事が来なかったなぁ。

山内 うう、聞いてるだけで傷つく(笑)。そういう学校事情に比べると、田舎の公立の学校は、すごく平等で平和な場所だったんだなぁと思います。

東京の人が東京に抱く疎外感

ジェーン 選ばれた人だけが座る桟敷は桟敷でえぐいんでしょうけどね。摩擦熱が高いから。大学では逆に、地方から出てきた子たちがどんどんきれいになっていくのを目の当たりにしました。右も左もわからない状態から、バイタリティだけで自分の場所を作り出していく。そういう人たちが、東京っぽいパーティーを作るんだと思います。外から来た人が、みんなで一生懸命東京を作る。

山内 東京の人の方が、そういう東京っぽさに馴染めなかったりする?

ジェーン なかなかつらいもんですよ、自分の地元に疎外感を覚えるってのは。

山内 自分の地元に疎外感を覚えるのはすごくわかります(笑)。けど、東京では地方出身者がマジョリティで地元民の方がマイノリティ、そういう意味での疎外感というのは知らなかった。東京の人はそういうつらさをあんまり言わないから……。言うとしても、町がどんどん作り替えられることへのノスタルジーとか。それはよくわかるんです。地元が再開発されるたびに私のなかの一部が死ぬ、みたいな感覚。東京の人はずっとそういう目に遭い続けているんだろうと。

ジェーン 東京出身なんだから、再開発されたあとのことも知ってて当然と思われるのもキツいですね。外資系ホテル特有のはったりめいた豪華さ、あんなものは私が子供の時代にはなかったから、気軽に乗っかれないですよ。一部のハイブロウな東京人か、他のところから東京に出てきた人の方が乗っかれる。やっかみ半分で「東京には他所から人が入ってくる」みたいなことをブログに書いたら、「俺たちの地元からあれだけ人を吸い出しておいて、なにを言ってるんだ」って言う人がいて、ああそうか、向こうの視点で見ると、人材が吸われていってるように見えるんだって。

山内 そこは本当に表裏一体ですね。人口比を見たら一目瞭然で、昔は地方の人口がそこそこ多かった。人口が多いとおのずと活気もあったみたいで、何十年も前につくられてそのまま朽ちてる建物がすごく多いんです。地方のガラガラの商店街を見ると悲しくなるし、その一方で、東京の人の多さも疲れる。両極端でアンバランス。20代の頃、居場所を求めて東京にたどり着いたけど、30代後半になって、またちょっと違うスタンスで地方と東京を見てます。ゆくゆくは二拠点生活かなーとか。

ジェーン そこにいるだけでは居場所なんてできないことが、この歳になるとよくわかります。居場所は作るもの。地面に生えてる草と一緒で、自分自身が根を張って居場所を作らないと、どこにいたってふらふら飛んでいっちゃう。

山内 場所じゃなくて人……となると、地方と東京の差も微妙なラインですよね。東京って次々に商業ビルがオープンするけど、逆にそこにしかない店みたいなものは減ってる。私が上京したのは、カルチャーの発信地とされていたショップが次々潰れて、全国展開のチェーン店に変わっていった時期でもあって。結局、憧れていた東京には一度もたどり着けていない(笑)。

山内マリコ『あたしたちよくやってる』

「“女の子らしく”の呪いを解くことができるのは、“自分らしく”しかないのだから」(「ライク・ア・ガール」より)。だけど世の中、自分らしくあろうとするだけで、なにかと闘うことになる。年齢、結婚、ファッション、女ともだち――いつの間にか自分を縛っている女性たちの日々の葛藤を、短編とスケッチ、そしてエッセイで思索する34編。

関連書籍

ジェーン・スー『私がオバさんになったよ』

「40代女の生き方のバリエーションが増えている」「女の敵は女じゃない」「人間は役に立つことのために生きているわけじゃない」……。もう一度会いたかった8人と語り合い見えてきた生きる姿勢は、考えることをやめない、変わることをおそれない、間違えたときにふてくされない。オバさんも悪くないね。このあとの人生が楽しみになる対談集。

ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』

「女子会には二種類あってだな」「ていねいな暮らしオブセッション」「私はオバさんになったが森高はどうだ」……誰もが見て見ぬふりをしてきた女にまつわる諸問題(女子問題、カワイイ問題、ブスとババア問題……etc.)から、恋愛、結婚、家族、老後まで――話題の著者が笑いと毒で切り込む。“未婚のプロ”の真骨頂。講談社エッセイ賞受賞作。

ジェーン・スー/野宮真貴『人生もお洒落も自分の舵を手放さない。』

野宮真貴/ジェーン・スー『美人になることに照れてはいけない。 口紅美人と甲冑女が、「モテ」「加齢」「友情」を語る』

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私がオバさんになったよ

私がオバさんになったよ』刊行記念。ジェーン・スー×光浦靖子 山内マリコ 田中俊之 中野信子 海野つなみ 宇多丸 酒井順子 能町みね子……ジェーン・スーとわが道を歩く8人が語り尽くす「いま」。

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ジェーン・スー

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家/ラジオパーソナリティー/コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」をはじめとするラジオ番組でパーソナリティーとして活躍中。

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