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麦本三歩の好きなもの

2019.03.28 公開 ポスト

『麦本三歩の好きなもの』刊行記念対談

小さな幸せを大切にしながら生きていく住野よる/モモコグミカンパニー

3月7日に刊行になった住野よるさん待望の新刊『麦本三歩の好きなもの』。「三歩かわいすぎる!」「こんな風に生きてみたい」「元気をもらった」等々たくさんの感想が届いています。そんな本書の魅力の1つは、主人公の「麦本三歩役」をBiSHのモモコグミカンパニーさんに演じて頂いたカバー。発売前の2月中旬、住野さんがツイッターでカバー写真を発表した途端、「このかわいい女の子は一体だれ!?」と騒然となりました。そんなカバー撮影の様子も含め、「小説幻冬」最新号では麦本三歩特集を掲載。そちらからお二人の対談をお楽しみ下さい。ちなみに「小説幻冬」の三歩特集、モモコグミカンパニーファンにはたまらない内容となっていますので、ぜひ本誌もお読みいただけたら幸いです!(構成・文:吉田大助)

 

 

―住野さんのツイッターがきっかけで、B‌i‌S‌Hというグループの存在を知ったという人も少なくないのではと思います。楽曲の感想ツイートのみならず、ライブにも足しげく通って“レポ”されていますよね。住野さんがB‌i‌S‌Hと出会ったきっかけは?

住野 モモコさんが「ホンシェルジュ」という書評サイトで僕の本を取り上げてくださって、そのことを清掃員(※B‌i‌S‌Hファンの名称)の方からツイッター経由で教えてもらったんです。
記事もすごく嬉しかったですし、その後に、『オーケストラ』(※B‌i‌S‌Hの代表曲の1つ)を聴いたんですよ。めちゃくちゃかっこいい曲だなと思って、グループについて調べたり遡って曲を聴いていくうちに、自分もファンになっていました(笑)。

モモコ    私が最初に読んだ住野さんの作品は、『また、同じ夢を見ていた』(2016年2月刊行の第2作)でした。1ページ目を読んだ瞬間、「え、これ自分じゃないの!?」って思っちゃったんですよ。小学生の奈ノ花が担任の先生に、「頭がおかしくなっちゃったので、今日の体育を休ませてください」って言うじゃないですか。私もそういう小学生だったんです。

一同 (笑)

モモコ    先生に怒られても自分が納得できなかったら悪びれる様子もないし、自分に自信があって、自分のことを大人だと思っている。「あの頃の自分じゃん!」となって、ものすごく感情移入して読みました。

住野 ありがとうございます。嬉しいです。

モモコ 住野さんの作品が好きな理由のひとつは、小さな幸せを大切にしているところ。『また、同じ夢を見ていた』でも、「幸せって何だろう?」っていう問いが何度も出てきますよね。それって漠然としているけど、みんな心の中で結局は分かっていないことじゃないですか。
そういう部分を突き詰めようとするお話が書ける人って、本当にきれいな心を持った人なんだろうなって思って……。

住野 申し訳ないことに、そんなことはないんです(キッパリ)。

一同 (笑)

住野 でも、すごく嬉しいです。

モモコ 住野さんがB‌i‌S‌Hについてツイートしてくださっているのを見た時は、信じられないって感じでした。もともと大好きだった作家さんが、自分たちの曲を聴いてライブにも来てくださっているなんて、と。

住野 B‌i‌S‌Hはメンバーの6人がみなさん魅力的ですけど、自分の中で「モモコグミカンパニーさんを推したい」となった明確なきっかけは、モモコさんが作詞した『Nothing.』と『JAM』という曲を聴いたことと、モモコさんが書いた『目を合わせるということ』という本を読んだことなんです。あの本を読んだ時に、「モモコグミカンパニーという物語」が好きだと思ったんです。

モモコ    あの本は、自分としてはB‌i‌S‌Hに入ってからの道のりを正直に書いた日記っていう感覚に近いんですけど、それが物語になっているのかもしれないです。

住野 その物語の主人公であるモモコさんは、見えないところで普通の女性として実在しているわけじゃないですか。
今回の『麦本三歩の好きなもの』という本で、どうしてモモコさんにカバーモデルをお願いしたかという話に繋がるんですけど、僕は自分が書いた物語の登場人物たちって、「この世界のどこかに生きていて、会ったことがないだけなんだ」と思っているんですね。三歩に関しては特にそう感じるし、読者さんにも三歩のことを「隣りにいるかもしれない誰か」だと感じてほしかった。
だから、実在するモモコさんが三歩を演じてくれたら、「三歩は本当にいるんだ」というメッセージにも繋がるんじゃないかと思ったんです。

モモコ    原稿を読ませていただいたんですが、三歩ちゃんが発する言葉って、一つ一つはふわふわしているけど、読んでいると自分というものをしっかり持った、芯のある女の人なんだなって感じるんです。三歩ちゃんは本当にいるなあって、私も思いますね。

カバーモデルを依頼した理由は
ビンタされた時の顔!?

住野 僕のツイッターのフォロワーさんには絶対信じてもらえないと思うんですけど、“推し”だからカバーモデルをお願いしたわけじゃないんです。

一同 (笑)

住野 そもそものきっかけは、担当さんから「今回の表紙は過去5作のようにイラストではなく、写真でいきたい」というご提案をいただいたんです。「だとしたら、三歩役をどなたかにお願いする必要がありますよねえ」という話になり、正直に言うと、自分が好きな方達は、選択肢から除外しようと思っていたんですよ。「三歩っぽさ」という観点だけで選べなくなる気がしたんです。

モモコ 私情が入っちゃうのは良くないってことですか(笑)。

住野 そうなんですよ。でも、担当さんと色んな方の写真を見てて、どなたも三歩っぽくはないなあと。
どうしようかなあと思っていた時期に、B‌i‌S‌Hのライブを見に行ったんです。『SMACK baby SMACK』って曲があるじゃないですか。あの曲の途中で、メンバーにビンタされているモモコさんの顔を見て、「あれっ、ちょっと三歩っぽくない?」って。

一同 (笑)

モモコ 『SMACK baby SMACK』のサビで、4人は普通の振りを踊ってるんですけど、私だけなぜかもう1人のメンバーにビンタされるんです。

住野 その時のちょっとむっとしてる顔が、三歩っぽかったんですよ。

―三歩は職場でポカをすると、「怖い先輩」にちょこちょこチョップされていますよね。

住野 そのイメージと重なりました。その頃に『目を合わせるということ』を読んで、「モモコグミカンパニーという名前を与えられた、この世界のどこかにいる、普通の女の子」というモモコさんのイメージと、「麦本三歩という名前を与えられた、この世界のどこかにいる、普通の女の子」という三歩のイメージがぴったりだなと思ったんです。
担当さん(女性)に「候補に挙げていなかったんですけど、モモコグミカンパニーっていう方がいまして……」とスマホで写真を送ったら、「私、この子の顔タイプです!」って(笑)。

モモコ  嬉しいです。今住野さんが言ってくれた「モモコグミカンパニーという名前を与えられた普通の女の子」という言葉は、自分でもしっくりくるんです。
素の私って、本当に普通なんです。B‌i‌S‌Hに入った当初は特に、他のメンバーはみんなアイドル経験があったりアーティストをやっていたり、強烈な個性があるなかで、私だけが普通というか普通以下で、周りから「素人臭い」っていっぱい言われてきました。それがずっとコンプレックスだったんです。
でも、『目を合わせるということ』を書き出した頃からは、普通だしどこにでもいそう、というところは自分の取り柄でもあるのかなってプラスの方向に考えられるようになったんです。

住野 その部分に惹かれて、モモコさんが好きっていう人はかなりおられるんじゃないかなと思います。

モモコ 三歩ちゃんも、普通の女の子ですもんね。普通の女の子の日常を、本当にありのままに書いている小説って、あんまりない気がします。今回の小説を読んだ時、「住野さんってこういうお話も書くんだ!」と今までとまったく違う一面を見た感じがしたんです。これまでの住野よる像がちょっと崩れたなって思いました。

住野 三歩は、実はデビュー前からいたんですよ。僕はネットに『君の膵臓をたべたい』をアップして、それを編集さんに見つけてもらってデビューしているんですけど、その頃同時に三歩の短編もアップしていたんです。デビューして「住野よる」になる前に書いた小説なので、それがちょっと違うのかなと思いますね。僕が三歩の生活を見て、書き留める感覚で書いている。

モモコ  住野さんの素が出ている感じがします。

住野 ナレーションの部分は完全に僕目線なんです。ナレーションで「哀れ三歩」とか言っているのは、僕の気持ちです(笑)。

何者でもない自分を肯定する
麦本三歩は僕の憧れです

―三歩は普通の日常の中に埋もれている、さきほどモモコさんがおっしゃった言葉を使うと「小さな幸せ」を見つける名人ですよね。

モモコ 三歩ちゃんって、朝の紅茶のひと時とかを大切にしているじゃないですか。私も同じで、朝は起きるのが大変だけど、そういうちょっとした幸せは大切にしているし、朝ご飯もすんごい食べるんですよ。ちょっと似てるなって思いました(笑)。

住野 憧れます。僕は仕事が立て込んでつらかった時期に、「三歩になりきって寝る」ってことをやっていました。寝る瞬間に、そんなことは普段一切思わないですけど、頭の中で「あ~、お布団ふかふかだー」とか、「明日何食べようー」とか思いながら寝るんです。そうすると、すっごいよく眠れるんですよ。

モモコ 三歩ちゃんっぽい!

―『麦本三歩の好きなもの』は、前半で三歩の普通の日常をドキュメントし、読者が三歩に対する理解を深めたところで、後半で「三歩らしさ」「自分らしさ」にまつわる問題が提示されていきます。

住野 あのあたりは、僕自身の感覚も入ってきているのかなと思います。デビュー作が想像もできない数の人に読んでもらえたことで、「住野よる」が自分のことだとはまったく思えなくなっていったんですよ。「住野よる」という怪物を横に飼っているような気持ちだったんです。

モモコ 私もモモコグミカンパニーとして観られている自分と、素の自分との距離感に悩むことが多いので、すごく共感するところがありました。私みたいな表に出る職業だけじゃなくて、他の方たちもこういう思いを感じるのって、一緒なんだろうなって気がします。

住野 「求められている自分」と「本当の自分」が違うのは、世の中の人たちは大なり小なりみんな抱えている問題だとは思うんですけど、「他の名前を持つ」ということで可視化されるんですよね。それが見えてしまうのは難しい部分もあるなぁ、と。
例えば住野よるがいいことを言われると、「住野よるが褒められてるなあ」って人ごとに思うんですよ。でも、悪口を言われると、「住野よるが言われている」とは思わないんですよね。称賛は住野よるで止まるんですよ。だけど、悪口は僕まで届くんです。

モモコ  それ、すっごい分かりますね。悪いことを言われると、自分を責めちゃう。いいことを言われてもモモコグミカンパニーが言われているだけで、「おまえではない」と思っちゃう(笑)。

住野 三歩というキャラクターに関しては、「自分もこうありたかったな」って気持ちが大きいんですよ。僕にとって、一番理想の生き方をしてるんですよね。
自分は何者かになりたいから小説を書いて、書いたら住野よるになれた。でも、楽しいことも苦しいこともたくさんあって今の状況が完璧に幸せかって言われたら、全然そんなことないなって思う部分もあるんです。
だけど、三歩は何者でもない自分をちゃんと自己肯定して、ちょっと姑息だったりもするけど(笑)、根が誠実だからみんなに愛されるんですよ。そんな人間に自分もなりたかったなぁ、と思う存在なんです。

B‌i‌S‌Hも好きだし小説も好き
好きなものは増やしていけばいい

―カバー撮影で三歩を演じてみて、いかがでした?

モモコ  撮影した場所が、本で読んでいた三歩ちゃんの部屋っぽかったんですよ。「あっ、物語の中に入った」と感じて、嬉しかったです。
撮られている自分を意識しすぎてしまうのかなんなのか、撮影っていつもは苦手なんですけど、今回は自分の部屋にいる時みたいな感じで、素の自分でのびのびとしていられました。

住野 僕も撮影を見学させていただいたんですけど、めっちゃ三歩でした。
表紙をモモコさんがやってくださると分かった後に書いた話がいくつかあるんです。それらに関しては、僕の脳内の三歩の外見が、モモコさんに寄った状態で書いている。モモコさんの存在が、三歩に影響を与え始めたんですよね。

モモコ 嬉しいです。

住野 清掃員の方たちがこの本を読んでくださることがあれば、きっとモモコさんを三歩として想像してくださるんじゃないかなと思うんですよね。それって文字だけの小説だからこそできる脳内の遊びですよね。
例えば、作中に怖い先輩、優しい先輩、おかしな先輩って出てくるんですけど、「W‌A‌C‌K(※B‌i‌S‌Hが所属する事務所)の方たちの中で3人を当てはめるなら誰かな?」とか、もちろんそれ以外の方たちでもいいんですが、そういう風に遊んでくれたら嬉しい。僕の中でもちょっと遊んでたりして。

モモコ   面白ーい。

住野 優しい先輩がトリアエズ・ハナさんです。

モモコ    B‌i‌Sの?

住野 B‌i‌Sの。怖い先輩がG‌A‌N‌G P‌A‌R‌A‌D‌Eのキャン・G‌P・マイカさんで。おかしな先輩がB‌i‌S‌Hのハシヤスメ・アツコさんです。

モモコ それは確かに!

住野 モモコさんにお願いするとなった時に、B‌i‌S‌Hは好きだけど小説は普段あまり読まないという方が、モモコさんをきっかけに、僕の本を読んでくれたらいいなぁと思ったんです。それと同時に、僕の本を読んでくれてる方たちが全員モモコグミカンパニー推しになればいいのになとも思っています(笑)。
小説を好きな方たちも、B‌i‌SHを好きな方たちも、この本をきっかけに世界がちょっと広がる感覚を楽しんでもらえたらなって。

モモコ 私も住野さんの本をホンシェルジュで紹介した時、同じような気持ちがあったんです。私の大切な一部でもある住野さんの本のことを、ファンのみなさんに知ってほしいなと思いつつ、B‌i‌S‌Hが好きな気持ちと音楽が好きな気持ち、小説が好きな気持ちがもっとみんなの中で交わればいいなって。

住野 僕はバンドがずっと好きだったので、ある時期までアイドルの曲は、自分が聴く音楽じゃないって思っていたんです。
でも、そうじゃないって気づいて、アイドルさんたちの曲も聴くようになってからは、めっちゃ楽しい世界が待っていた。
ジャンルを越境していくチャンスが、もっと世の中にたくさんあればいいなって思います。

モモコ  自分はこれが好き、だから他は好きじゃないって決めつけちゃうのは絶対もったいないですよね。自分で自分の世界を狭めちゃっている。好きなものって、どんどん増やしていけばいいと思うんです。

住野 ちなみに、僕は三歩の小説をライフワークにするつもりなんです。続刊も出したいなと思っているんですけど、もしよかったらその時も表紙を演じていただけないかなって……。

モモコ ぜひ!! めっちゃ嬉しいです。

住野 三歩にはまだ描かれてない部分がたくさんあるなと思っているんです。三歩のことをちゃんと幸せにしてあげたいです。

モモコ   B‌i‌S‌Hとして、モモコグミカンパニーとして、頑張ってきてよかったなって、こういうお話をもらえたりするとすごく思います。
三歩ちゃんは、きっとこれからもいろいろありながらも、毎日を頑張っていく。しんどい時は三歩ちゃんのことを思い出して、「自分も頑張ろう!」って自分を勇気付けていきたいです。

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住野よる

高校時代より執筆活動を開始。デビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、2016年の本屋大賞第2位にランクイン。他の著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』がある。天下一品が好き。

モモコグミカンパニー

2015年3月に結成された、大ブレイク中の“楽器を持たないパンクバンド"BiSHのメンバー。作詞を手掛けるほか、BiSHが誕生してからの歩みを描いた自伝的著書『目を合わせるということ』を出版するなど、多方面で活躍中。

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