辛いことや苦しいことがあっても私たちは生き続ける。人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。20年の時を経て名著『人生の目的』が新書版に再編集され復刊。いまの時代に再び響く予言的メッセージ。
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なぜ自殺者が劇的に急増したか
ちがう面で気になることもある。私はこの国が、長寿大国という結果だけを強調されることに、ずっと疑問を抱(いだ)きつづけてきた。そして、この世界に冠(かん)たる長寿大国が同時に世界有数の自殺大国であることを、ことあるごとに言いつづけてきた。
平成三年に一万九千八百七十五人だった自殺者の数は、年々増えつづけ、ついに平成九年には二万四千三百九十一人と、二万四千人台に達した。このことをふまえて、平成十年には必ずや二万五千人台に突入するだろうと、勝手に予想して、あちこちで書いたり、しゃべったりしてきたのだ。
ところが、私のその予想は、まったく当たらなかった。驚いたことに、平成十年の自殺者数は、一挙(いっきょ)に三万人の大台を超(こ)えたのである。一九九九年九月二十八日の朝日新聞の記事によれば、警察庁調べとして、平成十年の自殺者数を三万二千八百六十三人、と報じている。前年とくらべて三十四・七パーセントの増で、過去最悪の数字、と紹介してあった。二万五千人を超えるだろうという私の予測など、たちまち吹きとばしてしまったすごい数字である。
それにしても前年比三十四・七パーセント増というのはただごとではない。ことに五十代では四十五・七パーセントの増加である。三、四十代でも三十パーセント前後の増えかただという。
これを「長引く不況が中高年を直撃した」と、解説するのは簡単だ。どの新聞でも、もっぱらそういう言いかたがされている。しかし、平成十年以前にもっとも多くの自殺者を記録したのは、じつは一九八六年のことなのだ。この年、警察庁の調べでは、二万五千五百二十四人と、過去最悪の数字を示している。一九八六年といえば高度成長がさらに加熱して、いわゆるバブル経済の上り坂へ向けて助走しつつあった時期である。世間は豊かさを謳歌(おうか)していた。その年から数年のあいだ、日本じゅうが好景気に沸いた時期に、自殺者の数は連続して二万人を超えていたのである。
これを見ると、不況イコール自殺の増加、という分析は、どうも当たっていないような気がする。景気さえ回復すれば、自殺も自然に少なくなる、とは思えないのだ。人がみずから死を選ぶのは、経済や政治の問題だけではない。公共投資や、福祉政策の充実によって自殺が目に見えて減ると考えるのは、あまりにも人間の心を知らなすぎる見かただろう。
だからこそ、いま、あらためて「人生の目的」などという野暮(やぼ)なことを考えてみたいと思うのである。
人生の目的
人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。お金も家族も健康も、支えにもなるが苦悩にもなる。人生はそもそもままならぬもの。ならば私たちは何のために生きるのか。
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