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胃腸を最速で強くする

2019.04.10 公開 ポスト

十二指腸潰瘍になりやすい血液型がある!?奥田昌子

通勤電車でお腹が痛くなる、逆流性食道炎がなかなか治らない、若い頃より便秘がちになってきた……。口から肛門まで、体を貫く消化管トラブルに悩む人への最新バイブル『胃腸を最速で強くする 体内の管から考える日本人の健康』(奥田昌子氏著・幻冬舎新書)が発売2週間で3刷となる大反響です。
今回は本書の内容から、「最新研究でわかった〈十二指腸潰瘍と血液型〉〈胃潰瘍と痛み止め〉」の密接な関係」についてご紹介します。消化管にできる潰瘍の原因には意外なものもあるようです。

*   *   *

(写真:iStock.com/Photobuay)

十二指腸潰瘍になりやすい血液型がある? 

近年、興味深い発見がありました。十二指腸潰瘍を起こした日本人と、そうでない日本人の遺伝子を比較したところ、十二指腸潰瘍のなりやすさと関連する遺伝子が二つ見つかりました。


一つは以前からわかっていた遺伝子で、タイプが二つあり、どちらを持つかで十二指腸潰瘍になりやすいか、胃がんになりやすいか決まります。
そしてもう一つが、なんと、血液型を決めるABO遺伝子でした。O型の人はA型の人とくらべて十二指腸潰瘍の危険が1.4倍高いのです。
血液型といっても占いではなく、厳密な医学研究から得られた結論です。
血液型が胃がんと十二指腸潰瘍に関係するらしいことは、これまでにも指摘されており、たとえば、A型の人はO型の人より胃がんを発症しやすいことなどが報告されています。まとめると、O型の人は十二指腸潰瘍になりやすい代わりに、胃がんになりにくいようです。


研究者らは、以前から知られていた遺伝子のタイプと、A型、O型の遺伝子を持つ人の割合を、日本人を含む11の人種で調べました。
すると、十二指腸潰瘍になりにくく、胃がんになりやすい組み合わせの遺伝子を持つ人がもっとも多いのが日本人でした。
日本で胃がんが多い背景には、東アジア型のピロリ菌に感染することだけでなく、日本人が持つ遺伝子の特徴も関係しているということです。


血液型を決める遺伝子は、血液の中の赤血球だけでなく、十二指腸を含めて、体内の多くの組織で働いているため、なんらかの形で病気の発症とかかわっていてもおかしくありません。
十二指腸潰瘍と胃がんの他には、B型の人は膵臓がんになる危険がO型の約1.7倍高いとか、AB型はO型とくらべて脳卒中の危険が約1.8倍高いなどの報告があります。がんや脳卒中とくらべると、十二指腸潰瘍は命にかかわるおそれの低い病気です。こうして見るとO型は無敵のようですね。
ただし、研究者らが口をそろえて言っているのが、病気の発生には生活習慣のほうが大きく影響するということです。あくまで参考にとどめ、心配も油断もし過ぎないでください。

日本人は痛み止めで胃潰瘍になりやすい

「胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因は?」と聞けば、即座に「ストレスでしょう? 」という答えが返ってきそうです。以前はそう考えられていましたが、もっとも大きな原因はピロリ菌感染と、痛み止めをはじめとする飲み薬の影響です。
この二つが全体の約98パーセントを占めており、これに対してストレスは潰瘍の症状を悪化させるように働くようです。

(写真:iStock.com/okskaz)

飲み薬のなかで問題が起きやすいのが、風邪のときに飲む解熱鎮痛薬、関節痛や腰痛に対する痛み止め、血をサラサラにする薬などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs[エヌセイズ])と呼ばれるグループです。
出血をともなう潰瘍ができる確率は、ピロリ菌に感染しておらず、問題となる薬も飲んでいない人を1とすると、ピロリ菌感染者は5.4、薬を飲んでいる人は4.1、そしてピロリ菌+薬では10.4にもなります。


それにしても、なぜ痛み止めで胃潰瘍になるのでしょうか? 
炎症が起きた場所は赤く腫れて熱を持ち、痛みます。ここには体を守る免疫のしくみがかかわっており、免疫細胞をはじめとする多くの組織と細胞が、いろいろな物質を作って体をもとの状態に戻そうと悪戦苦闘しています。これが行き過ぎると強い痛みが起きるのです。
NSAIDsはこのときできる物質の一つを働かないようにすることで、炎症をやわらげています。
ところが、この物質には他にも仕事があって、胃での粘液の分泌を高め、胃酸を減らし、粘膜の血のめぐりをよくして胃の粘膜を守っています。そのため、薬を飲んで炎症をおさえると、胃の粘膜を守る力が低下して、胃が荒れやすくなります
胃が痛いからといって、うっかりNSAIDsを飲もうものなら、とんでもない逆効果になるおそれがあります。自己判断せず、薬局か病院で相談してください。


NSAIDsで潰瘍ができやすい場所にはお国柄があります。
NSAIDsによる十二指腸潰瘍の発症率を1としたときに、欧米人は胃潰瘍の発症率が最大で3であるのに対し、日本人は最大で8にもなります。日本人は痛み止めで胃潰瘍になりやすいということです。
痛み止めの影響は個人差が非常に大きく、症状がまったく起きない人もいます。


しかし、ご用心。薬による胃潰瘍はピロリ菌による胃潰瘍とくらべて痛みが少なく、そのかげで潰瘍が進行して、いきなり大出血を招いたり、胃の壁に穴があいて胃液がお腹の中にもれたりして、危険な状態におちいることがあります。痛くないからといって安心はできません。
それどころか、こういう薬のせいで小腸や大腸に潰瘍ができることもあります
怖いなあ、と思ったかもしれませんが、だからといって、痛み止めを飲まなければよいというものではありません。痛み止めは単なるその場しのぎではなく、回復を早める効果があります。
必要であればきちんと飲み、飲んでいるあいだは定期的に受診して、消化管の状態を確認してもらいましょう。

 

 

関連書籍

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胃腸を最速で強くする

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『胃腸を最速で強くする 体内の管から考える日本人の健康』とは……

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奥田昌子

京都大学大学院医学研究科修了。内科医。京都大学博士(医学)。愛知県出身。博士課程にて基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関で30万人近くの診察にあたる。航空会社産業医を兼務。著書に最新刊『血圧を最速で下げる』のほか、10万部を突破した『内臓脂肪を最速で落とす』や、胃腸を最速で強くする欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』『日本人の病気と食の歴史などがある。

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