50人が死亡したニュージーランドの銃乱射テロからもうすぐ1カ月。日本での報道は、もっぱら事件の残虐さに集中したが、海外メディアではそれだけでなく、38歳の若き女性首相ジャシンダ・アーダーン氏のリーダーシップが称賛された。右翼テロ、ヘイトクライムに屈してはならないと、敢然と「多様性」の旗を掲げるアーダーン首相に対し、トランプ大統領、そして日本は……。
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Let’s get the party started!(さあ、パーティーが始まるぜ)――。こうつぶやいて男は車のギアを入れ、近くのイスラム礼拝所(モスク)に向かった。約5分後、車を駐車場に止め、徒歩でモスクに向かい、礼拝者を銃撃し始めた。しかも、男は犯行の模様をフェイスブック(FB)でライブ配信していた。それがツイッターなど他のSNSで繰り返し共有され、FBや当局が削除しても、惨劇があっという間に世界中に拡散することは織り込み済みだったのだろう。
白人右翼VS.イスラム過激派、激化する対立
ニュージーランド南部クライストチャーチのモスク2カ所で計50人が犠牲になった銃乱射事件は、デジタル空間を悪用した「劇場型テロ」の典型だ。捕まった豪州出身の男(28)の詳しい動機は今後の捜査を待つしかない。しかし、男が犯行前にネットに投稿した74頁に及ぶ犯行声明「大いなる交代(The Great Replacement)」を一瞥する限り、男が反移民の白人至上主義者で、大勢の「観客」に衝撃を与え、怒りと反発の感情を掻き立てることを企図したことは明らかだ。
白人右翼の過激派とイスラム過激派との紛争を拡大・エスカレートさせることが狙いだ。テロの主な目的は、「政敵を行動に駆り立てて介入させ、やがて反動を体験させること」、「暴力と報復を煽り、ヨーロッパ人と欧州の土地を占領している侵略者との更なる分断を図ること」などにある。ニュージーランドを惨劇の「上演」場所に選んだのは、「世界のどこでも、移民を多く受け入れる場所に安全はないと示せる」と考えたからだ。自爆テロではなく、逮捕されることを望んだのも、生き残れば裁判などで自分の主張を滔々とアピールできると踏んだからだ。
では、これまでのところ、ことは自分の思惑通りに進んでいる、と犯人は見ているのだろうか。
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トランプ時代の地政学
「世界の警察官を辞める」だけでは収まらず、いまや世界秩序の攪乱要因になりつつあるトランプ大統領のアメリカ。海外取材経験の豊富なジャーナリストであり、国際政治研究も続ける著者がトランプ大統領・アメリカの本音を読み解き、日本とのかかわりを考察する。