通勤電車でお腹が痛くなる、逆流性食道炎がなかなか治らない、若い頃より便秘がちになってきた……。口から肛門まで、体を貫く消化管トラブルに悩む人への最新バイブル『胃腸を最速で強くする 体内の管から考える日本人の健康』(奥田昌子氏著・幻冬舎新書)が発売2週間で3刷となる大反響です。
今回は本書の内容から「お腹にガスがたまって苦しいと感じる病気」についてご紹介します。お腹のガスの正体は実は大部分が水素で、市販の水素水で体に入る量よりも自分の体内でできる水素のほうがよほど多いというのです!
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ガスがたまっているように感じる理由
過敏性腸症候群は、少し前まで、便秘型、下痢型、そして下痢と便秘を繰り返す交互型に加えて、ガスがたまってお腹が張るガス型の四つに分類されていました。現在ではガス型は過敏性腸症候群の仲間からはずれ、機能性腹部膨満(ぼうまん)症に分類されています。機能性の名のとおり、調べても異常がないのにお腹がふくれる病気という意味です。
医学的な分類はともかく、過敏性腸症候群では下痢型、便秘型をとわず、「ガスが大量に発生してお腹が苦しい」と感じる人が少なくありません。ガスのことを人に指摘されたらと思うと不安がつのり、これがストレスになって症状がさらに強まる悪循環にはまることもあります。
「そんなにガスがたまるなんて気の毒だな」と思うかもしれませんが、じつは、この人たちの大腸で発生するガスの量は健康な人とほとんど変わらないようです。
過敏性腸症候群の人は腸の粘膜が敏感になっているため、ほんの少しガスがあるだけでお腹が張ったような気がして、実際以上にたまっているように感じてしまうのです。
水素水を飲むよりご飯を食べよう
さて、「大腸で発生したガス」と書きましたが、正確にいうと、ガスは食事のときに口から飲み込んだ空気と、腸内細菌の活動によって発生したガスが混じってできています。大腸で発生するのは大部分が水素です。
水素といえば、ひところ水素水ブームがありました。じつは水素水をわざわざ飲まなくても、水素は腸でどんどん作られています。
とくに食後に大量に発生し、吐く息に含まれる水素の濃度がとりわけ高くなるのがご飯を食べたあと、次いで牛乳を飲んだあとでした。この他に、食物繊維をしっかり摂っている人は日ごろから水素がたくさん出ているというデータもあります。
これとくらべると、市販の水素水を飲んでも、水素は飲んだ直後に口からほとんど出てしまいます。そのあとで出てくる水素の量はごくわずかで、ご飯ないし牛乳摂取後のざっと7分の1~10分の1です。人の体にそなわった高性能の水素発生器にはとうていかないません。
水素にはにおいはなく、よく聞くメタンガスも無臭です。飲み込んだ空気にももちろんにおいはありません。と、なると、ガスににおいがつくのはなぜでしょう?
答えは腸内細菌です。いわゆる善玉菌はにおいのもとをあまり作りませんが、悪玉菌が蛋白(たんぱく)質を分解すると、硫化水素(りゅうかすいそ)をはじめとする、いやなにおいの物質が作られます。肉の脂が犯人だという人がいますが、これは濡れ衣で、真犯人は蛋白質です。
硫化水素は火山の噴煙や、硫黄(いおう)を含む温泉でも発生していますし、ゆで卵にもほんの少し含まれています。
固ゆで卵の黄身のまわりが、くすんだ緑色になることがありますね。あれは卵白に含まれる蛋白質が熱によって分解されて、発生した硫化水素が黄身の中の鉄と結びついてできた色です。食べても問題ありませんが、卵をゆでたらすぐに水で冷やすと、黄身がきれいに仕上がるそうです。
大腸で発生したガスはかなりの部分が血液に溶けて体をめぐり、肺から気道を通って、口から外に出ていきます。そうです。「おならを我慢すると、血液に吸収されて口から出てくる」という噂は真実です。
でも大丈夫、善玉菌が多ければ悪臭にはならないので、心配するより腸内環境を整えることを考えましょう。
まずは「心の疲れ」を受け入れる
過敏性腸症候群の発症には、腸内細菌の変化が深くかかわっていると考えられています。
その根拠となったのが、細菌やウイルスを原因とする感染性腸炎にかかると、回復してから過敏性腸症候群になる人がいることでした。外からやってきた細菌やウイルスの影響で、もとから住んでいた腸内細菌の顔ぶれが変わるのが原因のようです。
過敏性腸症候群の人の大腸を調べたところ、実際に、健康な人とは異なる細菌が増えていて、しかも、下痢型、便秘型などのタイプごとに細菌の種類が違うことがわかりました。
この研究が進めば、これまで検査で異常が見つからず、診断が難しかった過敏性腸症候群を、腸内細菌を調べることで正確に診断できるようになる可能性があります。
また、過敏性腸症候群の人で増えている腸内細菌が病気を引き起こしているということであれば、その細菌だけを殺すことで、過敏性腸症候群を治療する道が開けるかもしれません。
しかし、心の問題が背景にあるとなると、かりに腸内環境を健康な状態に戻したとしても、いずれ再発する確率が高いでしょう。過敏性腸症候群は蠕動(ぜんどう)運動が強くなり過ぎる病気ですが、蠕動運動をしずめる薬があまり効かず、むしろ、不安や、うつを軽くする薬のほうが、お腹の症状に効くことがあるほどなのです。
ここで理解してほしいのは、「それなら、うつの薬を飲めばいい」ということではなく、根っこのところにある心の問題に目を向けなければ意味がないということです。
検査で異常がないのに、つらい症状が続いている現実を受け入れて、自分の心が疲れていることに気がついてもらえればと思います。
最近は、一般の消化器内科の先生も機能性消化管障害や心身症について研究されることが増えていますし、心身症であることがはっきりした場合は、心療内科を受診するのも手です。
うつ病、統合失調症などの精神疾患を治療する精神科と異なり、心療内科は心身症を中心に、ストレスを原因とする体の病気を専門にしています。
この他に神経内科という科もありますが、こちらは心の問題ではなく、脳梗塞や認知症をはじめとする脳と神経の病気をあつかいます。まったく別なので気をつけてください。
胃腸を最速で強くする
奥田昌子氏著『胃腸を最速で強くする 体内の管から考える日本人の健康』の最新情報をお知らせします。
『胃腸を最速で強くする 体内の管から考える日本人の健康』とは……
口、喉、食道、胃、小腸、大腸、肛門。私たちの体は巨大な一本の管=消化管でできている。食べたものを運び、消化し、吸収する消化管は生命活動に欠かせない高度な機能を担うが、繊細で不調をきたすことも多く、消化管の病気を抱える日本人は1010万人にのぼる。最も多いがんも消化管のがんだ。ところが軽い胃もたれや下痢は「そのうちよくなるだろう」と見過ごされ、その陰でがんをはじめ重大な病気が進行する。最新の研究をもとに、強い消化管をつくるために欠かせない食事や生活習慣、ストレス対処法を解説。「管」のすべてが腑に落ちる。