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私がオバさんになったよ

2021.08.26 公開 ポスト

よくいる「ダメな夫」と同じことをしている自分【文庫化再掲】ジェーン・スー

どうやら、人生は折り返してからの方が楽しいらしい。ジェーン・スーと、わが道を歩く8人が語り尽くした本『私がオバさんになったよ』が文庫になりましたみ。最終回のお相手は能町みね子さん。二人に共通する意外な点とは。あらためて、その一部を公開します。

ジェーン 今はお引っ越しされて、サムソン高橋さんと一緒にお住まいですね。

能町 そのあたりの話をスーさんとしてみたかったです。スーさんは未婚のプロを名乗ってますけど、特定のお相手はいるじゃないですか。めっちゃ聞かれていると思いますけど……別にするべきとは思わないですけど、なんで結婚しないんですか? 

ジェーン 私もだんだんわからなくなってきたんですよ。非婚イデオロギーがあるわけでもなく、ただ結婚することによってなにが変わるのかわからんなーと言ってたらこの歳になりました。35くらいまではちゃんと結婚しないと人として欠陥商品だという思い込みがあったんですけど、それを超えたら、糸の切れた凧ですよ。メリット・デメリットで考えている時点でダメなんでしょうね。

能町 私はサムソンさんと最初から結婚する気だったんですよ。……なんですけど、聞いてみたら向こうはあまりしたくないらしくて。したくないものを無理強いするつもりもないので、このまま結婚せずにいくんだろうというのが今の感じです。

ジェーン ルームシェアとは違うんですよね。

能町 違いますね。向こうが主夫という感じです。

ジェーン うちと一緒です。結婚してないから、主夫とは言え相手は未婚の無職ということになってしまって申し訳なくもある。

能町「未婚の無職」。その言い方はパンチありますね(笑)。サムソンさんはライターもちょっとやってて、パートもしてるので、専業主夫ではないんですけど。でも私がお金を入れるからと言って、料理、洗濯、掃除、家事のほぼ全部をやってもらってます。

ジェーン 最高ですね。

能町 最高ですよね。付き合ってどのくらいですか? 

ジェーン 今年で7年目です。会社で言ったら6期が終わって、7期目です。

能町 最初からそういう感じですか? 

ジェーン 40?代で「彼氏」と言うとちょっと酸っぱいものがこみ上げてくるので、相手のことを「おじさん」と呼んでるんですけど。「おじさん」が諸事情で休職した時、この人にこのまま家にいてもらった方がよいのでは? と。先方は私より家事が上手なので、じゃあ家の方をメインで、とお願いすることになりました。

このスタイルにしてから、役割や立場が発言を作るということがよくわかりました。女ってこういうことを言いがちだよなって言われていることがあるじゃないですか。ところが役割とか立場が変わってみると、そういうことって性別と全然関係してないということがよくわかる。付き合いが長くなってくると、「おじさん」の方がアラサーOLみたいなことを言い出すわけですよ。「このまま結婚しないような付き合いを大人が続けていいと思うの?」みたいな。

能町 向こうは結婚したいんですね! 

ジェーン そうみたいです。それを私がのらりくらりかわしてしまっている。よくないですね。結婚したくないわけではないのに、リアリティが出てきた途端及び腰になるアラサー男子のようです。

能町 私も同じようなこと、あります。仕事場でダラダラ仕事しちゃって「今日は外でご飯食べるからいいや」ってLINEすると、「食材が腐る~」って文句言われたり。それって思いっ切り昭和のサラリーマンと主婦のやりとりじゃないですか。まさか自分がそれを男女逆の立場でやるとは。

ジェーン わかります、わかります。私も「夕方五時以降に『今日は夕飯食べない』って言ってくるのはすごく迷惑」とか、「急に家で食べるって言われても食材の用意がない」と言われます。

能町「せっかく作ったのに……」とかね。

ジェーン 冗談で「米くらい炊いといてよ」って言ったら怒っちゃって、それから一回もお米を炊いてくれない。デリカシーのない夫の発言にぶち切れる妻、みたいな。「未婚の主夫って、その期間のことが履歴書に書けないんだよ」と言われた時も、責任重大だと思いました。

地位が人を作る

ジェーン 人生に大きなゴールがない人がいてもいいと思うんですよね。あえてキャリアの道を諦めて専業主夫になった男性ばかりが注目を浴びがちですけど、もっとずるっこずるっこした人たちがいてもいいような。

能町 「ヒモ」みたいに言われるのは私が嫌なんですよね。その点は否定したい。

ジェーン 2ちゃんにヒモって書かれたっておじさん言ってました。

能町 ヒモはやめてほしいって思います。

ジェーン ヒモは仕事として家のことをやらないですもんね。

能町 主夫という仕事をしてますからね。

ジェーン 暮らし始めて、さんざんリベラルなことを言いながら、結局は単に昭和のおっさん化したなと思います。

能町 それはそう思います。家事の分担とか全然しないし。

ジェーン なんやかんや言って、責め立てていたおっさんと私は同じだな、と。

能町 そうそう。自分に関して言うと、よくいる「ダメな夫」と全く同じことをしてますね。ちょっと家事をやろうかと思ってシンクに行ったけど、普段やってないからスポンジがどこにあるかわからない。聞く前に探そうと思っても見つからなくて、スポンジどこ? って結局聞いちゃって、「いいよ、やるよ」って言われてすぐ引き下がって。

ジェーン すごいわかる。私も全くそれ。すぐ引き下がる。ゴミ箱がパンパンになった時も、一人暮らしだったらまとめて玄関に持っていくとか、次に外に出る際に持ち出すとかやるのに、今だと「まだいける」ってゴミを詰め込んでる自分に気づいて最悪だなと。

能町 どんどん甘やかされてます。

ジェーン 自分ってこんな人だったっけ? と思います。性別だけの話ではないんですよね。あんなに血気盛んに上司に歯向かっていた先輩が、昇進して肩書きがついた途端にのらりくらりした人になるのと同じ話で。

能町 地位が人を作る、ってことですかね。

ジェーン 本当に気をつけなきゃ。この話がわかってくれる人が見つかってよかったです。

能町 この生活の報告はお互いこれからできますね。

ジェーン また報告会やれたら嬉しいです。

関連書籍

ジェーン・スー『私がオバさんになったよ』

「40代女の生き方のバリエーションが増えている」「女の敵は女じゃない」「人間は役に立つことのために生きているわけじゃない」……。もう一度会いたかった8人と語り合い見えてきた生きる姿勢は、考えることをやめない、変わることをおそれない、間違えたときにふてくされない。オバさんも悪くないね。このあとの人生が楽しみになる対談集。

ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』

「女子会には二種類あってだな」「ていねいな暮らしオブセッション」「私はオバさんになったが森高はどうだ」……誰もが見て見ぬふりをしてきた女にまつわる諸問題(女子問題、カワイイ問題、ブスとババア問題……etc.)から、恋愛、結婚、家族、老後まで――話題の著者が笑いと毒で切り込む。“未婚のプロ”の真骨頂。講談社エッセイ賞受賞作。

ジェーン・スー/野宮真貴『人生もお洒落も自分の舵を手放さない。』

野宮真貴/ジェーン・スー『美人になることに照れてはいけない。 口紅美人と甲冑女が、「モテ」「加齢」「友情」を語る』

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私がオバさんになったよ

私がオバさんになったよ』刊行記念。ジェーン・スー×光浦靖子 山内マリコ 田中俊之 中野信子 海野つなみ 宇多丸 酒井順子 能町みね子……ジェーン・スーとわが道を歩く8人が語り尽くす「いま」。

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ジェーン・スー

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家/ラジオパーソナリティー/コラムニスト。音楽クリエイター集団agehaspringsでの作詞家としての活動に加え、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」をはじめとするラジオ番組でパーソナリティーとして活躍中。

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