つ
三重県に津(つ)という市があります。もちろん、「つ」は地名ですが、その地名は船着き場を表す大和言葉です。したがって、大和言葉の「つ」は、港のことと考えればよいのです。「つ」は、かつてこの地域の重要な港でした。
さて、漢語で「つ」にあたるものは何かといえば「津(しん)」です。そのために「津」という漢字に、大和言葉の「つ」を対応させて読んでいるのです。北朝鮮に清津(せいしん、チョンジン)という津があり、中国に天津(てんしん、ティエンジン)という都があることを思い出している読者も多いことでしょう。
こう考えてゆくと、滋賀県の大津の意味もよくわかります。大きな「つ」ですが、ここは、朝廷の津ということです。万葉集に出てくる「なにはづ」は、難波にある津ということになります。
日常生活のなかで使っている言葉に目を向けると、いろいろなことが見えてきます。この本は、言葉遣いの本なのですが、うまく遣うためには、まず言葉に興味を持つことが大切だと思います。
「令和」の心がわかる万葉集のことば
万葉集の巻五から採られた新元号の「令和」。そこに込められた万葉ことばの心、おだやかな日を寿(ことほ)ぐ1300年前の先祖たちの思い……。8世紀のことばの文化財・万葉集に使われている「万葉ことば」(古き日本語)を学び、心を磨く日本語練習帳。
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