なでしこ
「なでしこ」は、万葉集に二十六例登場しますが、うち十一例は大伴家持の歌です。その大伴家持は、早逝した恋人のことをなでしこの花にたとえています。なでしこは、家持が自ら庭に植えた花でもあり、家持が愛してやまなかった花です。
とすると、なでしこをもって、美しくやさしい女性のたとえとすることは、千三百年前からあるということになりますね。私は、なでしこが、「やまとなでしこ」と日本人の女性の美を代表することになったのは、ひとりの歌人の力によるのだと思うと不思議な感じがしてなりません。しかし、言葉というものは、おもしろいもので、日本の女子サッカーチームが「なでしこジャパン」と名づけられると、今度は「なでしこ」という言葉を、最初にサッカーチームから知る子供たちも出てきます。
(四〇七〇)
一本(ひともと)の なでしこ植ゑし その心 誰(たれ)に見せむと 思(おも)ひそめけむ
一本の なでしこを植えた その気持ち…… 誰に見せようと 思ってのことか
「令和」の心がわかる万葉集のことば
万葉集の巻五から採られた新元号の「令和」。そこに込められた万葉ことばの心、おだやかな日を寿(ことほ)ぐ1300年前の先祖たちの思い……。8世紀のことばの文化財・万葉集に使われている「万葉ことば」(古き日本語)を学び、心を磨く日本語練習帳。
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