辛いことや苦しいことがあっても私たちは生き続ける。人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。20年の時を経て名著『人生の目的』が新書版に再編集され復刊。いまの時代に再び響く予言的メッセージ。
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人生の目的を考える必要のなかった時代
ふたたび考えてみる。人生にはたして目的はあるのだろうか。私は、ないのではないか、と、前に書いた。つまりそれは、すべての人間に上から押しつけられるような、一定の目的などないということである。
人間はこうあるべきだ、と人が自分で思うのは勝手である。自分自身がその目的を信じて生きればよい。しかし、それを他の人間に押しつけることはできない。義務として強制(きょうせい)することも、まちがっていると思う。私は他人から、これが人生の目的だぞ、それをめざして生きろ、などと言われれば、すぐに反対の方角へ向けて走りだすだろう。
それほどひねくれてはいなくとも、人は人生の目的を既成(きせい)のものとして受け入れることに抵抗をおぼえるものだ。
私が子供のころは、この国は激(はげ)しい戦争の渦(うず)のなかにあった。私たちはすべて国家の一員として扱われ、逆らうことのできない義務を背負っていた。国に忠誠をつくすというのが、国民の義務であり、国家のために働き、必要なときには命を捧(ささ)げることが当然とされていたのである。
そんな時代だったから、なにも人生の目的などということをあらためて考える必要はほとんどなかった。
もちろん大人や青年たちのなかには、真剣に悩んだ人びとも多くいたことだろう。まれにではあるが、軍隊にとられることを命がけで拒否した青年もいたのである。彼らは自分の信念にしたがって徴兵を拒否し、非国民(ひこくみん)として苦しい人生をあゆんだ。なかには精神障害者として扱われた例もあった。
しかし、私のような戦時下の少年は、ごく自然に「お国のため」につくすことを、上から定められた運命のように感じていたのだ。それがいやでも仕方がないような気がしていた。いまふり返ってみると、つくづく奇妙な時代だったんだなあ、と思わないわけにはいかない。
幼いころの私は、大きくなったら軍事探偵か、戦闘機の操縦士(そうじゅうし)になりたいと思っていた。たぶん当時の少年読物の読みすぎだろう。しかし、どちらも実際は命がけの仕事である。スパイとして銃殺される場合もあろうし、敵艦に体当たりしなければならないときもある。そんな場面で、本当に「天皇陛下万歳!」と叫んで死ねるかどうか、あれこれ想像してドキドキしながら真剣に悩んだものだった。特攻隊に選ばれて出撃したとして、アメリカの航空母艦に向かって、はたしてまっすぐに操縦桿(そうじゅうかん)を押せるだろうか。恐ろしくなって途中で思わず逃げたりはしないのだろうか。
死ぬ、ということは、当時の私にとっては、かなり現実味をおびた問題だったのである。
しかし、そこでは「いかに死ぬか」は大問題であったけれども、「何のために死ぬか」ということで悩むことはなかったように思う。答えははじめからあたえられていたからだ。
国民は「お国のために」死ぬものらしい。頭からそう信じて疑うことがなかったのである。ものごころついたときからすでに戦争のなかに暮らした世代としては、仕方のないことだったのかもしれない。
しかし、いまは戦争の時代ではない。何のために生き、何のために死ぬかは、各人の自由である。兵役の義務はなく、義務教育さえも放棄(ほうき)する子供たちがいる。残された国民の大きな義務は納税ぐらいだが、これも税金のがれを生甲斐(いきがい)にしているような人たちもいる。つまり、私たちは自由なのだ。しかし、自由でありながら、現実には自由ではない。そこが最大の問題なのではあるまいか。
人生の目的
人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。お金も家族も健康も、支えにもなるが苦悩にもなる。人生はそもそもままならぬもの。ならば私たちは何のために生きるのか。
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