辛いことや苦しいことがあっても私たちは生き続ける。人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。20年の時を経て名著『人生の目的』が新書版に再編集され復刊。いまの時代に再び響く予言的メッセージ。
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希望や努力で克服できない「宿命」をどうするか
「人生は苦である」というブッダ的なものの考えかたは、すなわち「人は思うとおりには生きられない」という現実を示している。思うままにならないのが人生なのだ。自由であるといわれても、実際にはこの世に生まれてくる条件からして不自由、かつ不公平なのである。「こんなふうに生まれたかった」と一度でも思わなかった者が、世の中にはたしているだろうか。
くり返して言うが、「勇気」や「努力」、また「意志」や「忍耐力」なども、その気になって真剣に鍛(きた)えさえすれば、必ずしも身につくというわけではない。たゆまぬ努力をして鍛える、ということそれ自体が、つよい意志力と苦しい忍耐を必要とするものなのだ。体を鍛える、ということもそうである。たゆまずトレーニングをくり返し、鍛えることで体力は驚くほど向上する。熱心にボディビルをつづければ、体力だけでなく体型すら劇的に変わるのだ。それはたしかなことだろう。もしも休まずに精進(しょうじん)する努力が、つづきさえすれば。
しかし、トレーニングや練習が楽しくてたまらないタイプの人たちも、世の中には少なからずいる。幸せなことに彼らにとって鍛えることは、自然なよろこびなのである。そしてまた反対に、そんな努力が大嫌いな性格に生まれついた者がいる。私など典型的なそのタイプだ。これをやろう、あれをやりたい、と意気ごんではじめるものの、すぐに面倒くさくなって放(ほう)りだしてしまう。
ジムに通(かよ)ってがんばってトレーニングしたところで、身長まで飛躍的にのびるわけじゃないじゃないか、などと、つい考えてしまうのだ。熱心なボディビルで、彫刻のような見事な筋肉をつくりあげた人が、横幅だけはあるのに、意外に身長が低かったりするのを見ると、「人間というのは、いくらがんばっても、すべて思いどおりにはいかないものなんだなあ」としみじみ考えてしまうのだから困ったものである。
人間には無限の可能性がある、というような言いかたには、どこか嘘(うそ)があると思う。人間にはできることと、そして、できないことがある。気持ちのもちかたひとつで、年をとっても若々しく見られることは、もちろんできるだろう。しかし、そういう人に限って、努力がもちこたえられなくなった時点で、ガクッと老けこみやすいものだ。老いや死を先へのばすことはできても、この世に不老不死はない。それが真実だ。
人には生まれつき背負ってきたものがある。それは変えることができない。こんな人を親にもちたくなかったと思っても、どうしようもないのである。努力や、向上心や、忍耐や、希望などによって、それを克服することは絶対に不可能だ。親子のあいだの関係を望ましいものに改善することはできても、その関係を消し去ってしまうことはできない。良くも悪くも親子は親子なのだ。世間ではそういうものを、宿命、と呼んだりする。そこには運命という言葉とはどこかちがった、どうしようもない重い気配(けはい)があるようだ。
昔は星まわりの良し悪(あ)しを言う人が、ずいぶん多かった。いまでも少なからずいるらしい。若い人たちのあいだでも、星占いや、血液型による判断などに惹(ひ)かれる流行があるようだが、ひょっとすると遊びでおもしろがっているだけかもしれない。しかし、興味本位のお遊びではあっても、その心理のどこかに、星まわり、すなわち宿命というものへの隠された意識がひそんでいることは否定できないのではないか。
そういえば高見順(たかみじゅん)という作家に『如何(いか)なる星の下(もと)に』という題の作品があった。この小説にも宿命という、どうにもならない人間が背負った重いものへの、やりきれないため息が流れているように思う。
人生の目的
人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。お金も家族も健康も、支えにもなるが苦悩にもなる。人生はそもそもままならぬもの。ならば私たちは何のために生きるのか。
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