2012年頃だったと思う。身のまわりにインスタグラムの利用者が増えると共に、フェイスブックに登録する人も増えてゆき、それぞれ日常的に写真を撮っては投稿するようになっていった。当時私の働いていたバーに飲みに来てくれたお客さんや友達とは、「こんなに楽しく営業中!」という宣伝をするために、とにかくよくインスタグラムで記念写真を撮っては投稿していた。
なかには、断りなく突然撮った写真を勝手にSNSに載せてしまう人もいた。たいてい、そういう写真に写っている私はあまりにも「自然」で、見ていると嫌な気分になるものだった。自然な姿がなぜ嫌な気分になるかって? 私には「キメ顔」があったからだ。
いまも大して変わらないが、その頃の私は、特にアイメイクに必死になっていた。目尻のハネの角度を理想に近づけるために血まなこになり、まつ毛の一本一本を毛先まで慎重にカールさせ、だけども「ナチュラルメイク」であることに励み、わざとらしくない色のリップを塗って、鏡の前で顔の上下と両サイドをチェック。「自然なキメ顔」を作っては、「よし、これならいい感じだわ」と、ひとりひっそり思ってから外出していた。
猛チェック済みの「自然なキメ顔」という、まったく自然でないものが自分の顔の基準になっていたから、無意識のうちに自然な姿を他人に撮られると、それがまぎれもない現実で、むしろ自分以外の他人にはそっちのほうが見慣れられている顔なのに、容易に受け入れることができず、「なんでこんな顔載せるの……」と気分を害してしまうのだ。ああ、女の哀しさよ。もともと自分の顔なんて、鏡で反転したものしか見られないのに!
そしてこの「猛チェックした自分のキメ顔」へのこだわりが、「自撮りインスタ」という魔の手を引き寄せた。
インスタ自撮り地獄のはじまり
なんでこんな間抜けな顔をしているんだ。手元のスマホでなんとなく自分の顔を写してみると、あまりに油断した顔つきに目をそむけたくなる。鼻が低くて全体にメリハリもないし、レンズに近すぎて顔が膨張して写っており、しかも解像度が高すぎるために肌の小じわまでもがバッチリ写ってしまっている。うーむ、これは決して人に見せてはならぬ。メリハリをつけるために、ためしに陰影が深くなるフィルターをかけてみると、今度は目の下の隈が強調されて深くなり、見られたものではなくなってしまった。
これはいかん。まずは顔に照明をあびせて小じわ等の現実は光の反射で飛ばす。そして顔に角度をつけねば。押し出すべきは目だ、目。必死でメイクしている目だ。黒目が大きいほうがかわいいはず! 頭上にスマホを構え、あごを引いて、遠近法で目が大きく撮れる角度を探って――いい年こいて露骨な上目遣いもヤラシイな。ヤラシくない範囲に調整して、ちょっと顔を横に傾けて、いろんな輪郭を出しながら、パシャッ、パシャッ、パシャッ。とにかくがんばってメイクしたこの目を中心にパシャパシャパシャ!
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嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。
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