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おっさんだって、やりたいよ!

2025.04.05 公開 ポスト

客が酒を仕入れてマスターに上納? 東大阪の珍居酒屋「食笑」が32年も続くワケスギム(クリトリック・リス)

もう20年も通ってる食笑(しょくしょう)という居酒屋がある。

JR住道駅から徒歩10分、大阪府道21号八尾枚方線沿いの府営住宅が立ち並ぶ一角に、マスターが自ら建てた掘っ立て小屋。水道が通ってないため毎日水を運び込み、トイレがないため近くのコンビニなどで借りないといけない。まるで山小屋のような環境で食笑は営業している。

 

ドヤ街などの居酒屋に何軒も行ったことがあるけど、ここを超える衝撃には未だ出会っていない。某グルメ情報サイトの口コミを見ると「21時過ぎ頃に伺い、営業時間を伺うと『適当』とのこと。 大体の時間わかりませんか?とお聞きするも『大体もクソもあるか!』とのことでした」との書き込み。

入り口の扉には「中では食べれません」との張り紙。実際は7名程が入れて座って食べられるのに、新規のお客さんを警戒して貼っているそう。

62歳のマスターはとにかく頑固。「品のない客はいらん、来るな!」と追い返すこともしばしば。厄介な客に定着されることを嫌い、顔見知りには優しく新規のお客さんには厳しい。

こんな店がよく存続できてるなと思うけど、実は32年も続いてる老舗なのです。

 

我が最初に訪れた20年前は「袋ラーメン専門居酒屋」という特殊な業態だった。最初、扉を開けるのに凄く勇気が要ったけど、入ってみるとマスターは気さくで優しかった。店内の棚には袋ラーメンがずらっと並んでいて好きなのを選ぶと作ってくれ、麺を食べ終わると残ったスープでおじや。フードメニューはラーメンコースのみで500円だった。

袋ラーメンなんて誰でも作れるし、お酒にも合わないし真夏に袋ラーメン専門はキツイなぁ。と思ってたら夏には素麺専門居酒屋になり、その秋に焼きそばやイカ焼き、つまみを出す今のスタイルとなった。

店内の様子

珍メニューもたくさんあった。「フルーツポンチ焼酎」、「シャケの皮カリカリ」など。その中でも一番印象に残っているのが「もどりイカ」。これはスルメを水で薄めた重曹に漬けておくと生っぽく戻る、それを刺身もどきの「もどりイカ」として提供していたのだ。

おでんのこんにゃくにカラシをつけて食べようとすると、「うちのは塩で食うてくれ!」と怒る。格安スーパーで仕入れたこんにゃくをこだわりの岩塩じゃなく、瓶に入ったアジシオで食べさせられるのである。

イラスト:スギム

ライスの価格設定も無茶苦茶だった。タッパに入ってる茶碗1杯分のご飯をレンジでチンして150円。おにぎりを頼むとそのタッパのご飯をチンして具材を入れて握って海苔をまいて100円。

「おにぎりの方が手間がかかってるのにご飯より安いのはおかしい!」と指摘すると「ラーメン屋でライスを頼むと150円で、コンビニでおにぎりを買うと100円。他店に値段を合わせてるんでこれでええ」。

こういった小ネタは山ほどあってキリが無いのでこの辺にしとく。

久しぶりに来た常連客を歓迎するマスター

15年ほど前の話だけど、食笑の前は近所のリトルリーグの少年達の帰り道となっていた。野球帽にユニフォーム姿の好奇心旺盛な少年達は、掘っ立て小屋から聞こえる奇声や笑い声に興味を持ち、食笑の前にある信号に引っ掛かるたびに扉の小窓から中を覗くようになった。

それが次第にエスカレートしていき、いつしか少年達は店に向かって「酒飲み!酔っ払い!」と大声でからかうようになった。最初は無視していたマスターだったけど、壁をバットで叩いたりゴミを捨てるようになったので、ある日突然ブチ切れて「お前らしばくぞー!」と出て行って追いかけ回したことがあった。

以降、少年達はビビって別の道で帰るようになったんだけど、あれから10年ぐらいが経ったある日、「あの時はすいませんでした。僕ら二十歳になりました」と若者2人が飲みに来て謝ったそう。

 

食笑の前を小さな子供を連れて通ると子供が「お化け屋敷、怖い!」と泣き叫ぶし、近所の人たちからは「選ばれし変人が集まるヤバい場所」と囁かれ避けられてる。いい店なんだけどね。

子供が「お化け屋敷、怖い!」と泣く所以

近年我は、東京滞在が増え、大阪に居てもなかなか都合がつかず、食笑にここ1年まともに通えてなかった。

ライブに来た常連さんに最近の様子を聞いてみたら、「お客さんが少なく、コンロに火が点くことは無し、お酒はほとんど仕入れてないためすぐ在庫切れ。釣り銭無し、やる気無し」との事。

これが本当ならばもう末期だ!真偽を確かめるため無理やり時間を作って、仲間と一緒に行ってみた。

 

残念なことに実際は、聞いていたよりもっと悲惨な状況だった。

客が来ないのでお酒や食材を全く仕入れておらず、客が近くのコンビニやスーパーで買ってきたものを店に上納。それをマスターが商品として一律300円で客に提供。支払いの際、釣り銭が無かった場合はお釣りはマスターへのチップとなる。そんな無茶苦茶なシステムが出来上がっていた。

 

それでも誰も怒らず、文句を言わないのはマスターの人柄と食笑が愛されているからだ。頑固だけど、天然で毎回笑いと驚きを提供してくれるマスターには老若男女を問わずファンが居て、府外からわざわざ訪れる人もいる。それなのに、こんな営業をしていたら先は無い。

缶酎ハイを片手に「そろそろちゃんとせないけんとは思っとるよ」と言うマスターに「今すぐやって!」と厳しく叱って店を出た。

「ちゃんとする」と約束するマスター

大阪万博が開幕する今月半ばには活気溢れる昔の食笑に戻ってる事でしょう。戻ってないと困る。

府外の人も大阪に来たら覗いてみて欲しい。東大阪市の片隅で、メールもネットもしないマスターのワンオペによる食笑は、ガラパゴス的進化を今も続けているおもしろパビリオンなのです。こんな店は日本全国探してもほかに無いぞ!

食笑

住所:大阪府東大阪市加納 8-370-13
営業時間:火~金曜17:00~22:00 、土曜12:00~22:00、 日曜12:00~19:00
定休日:月曜日

*   *   *

ライブ情報

◯ 4/4(金) 大阪・味園ユニバース【今、生きてることに祝杯を。】
◯ 4/5(土) 兵庫・三宮太陽と虎【シコシコ万博】
◯ 4/17(木) 東京・青山月見ル君想フ【松永天馬2マン】
◯ 4/19(土) 東京・吉祥寺SHUFFLE
◯ 4/20(日) 愛知・名古屋ちくさ座『鑪ら場まつり2』
◯ 4/24(木) 大阪・心斎橋新神楽
◯ 4/25(金・深夜) 東京・新宿ロフトバー
◯ 4/26(土) 群馬・高崎ジャマーズ
◯ 4/27(日) 愛知・大須toys
◯ 4/29(火・祝) 東京・渋谷FOWS【piggs 2マン】
◯ 5/3(土) 東京・西永福JAM
◯ 5/10(土) 東京・青山・月見ル君想フ
◯ 5/11(日) 埼玉・熊谷モルタルレコード
◯ 5/12(月) 大阪・梅田BANGBOO【天下一不毛会】
◯ 5/16(金) 大阪・梅田ムジカジャポニカ
◯ 5/18(日) 兵庫・三宮フェス【カミングコーベ】
◯ 5/20(火) 大阪・堺ファンダンゴ【SCUM EXPLOsion】
◯ 5/25(日) 東京・西永福JAM【※スギム55.5祭 5時間ライブ】
◯ 5/31(土) 岡山・伊原市【hoshioto】
◯ 6/3(火) 東京・初台WALL
◯ 6/14(土) 新潟・糸魚川市山楽【クリトリ宴会ライブ】予約山楽まで TEL:070-3517-7106(8~22時) 
◯ 6/21(土) 東京・渋谷サーキット【やついフェス】
◯ 6/26(木) 東京・西永福JAM

チケット:フォーム予約

メディア出演

茨城放送ミッドナイトクレイジーラジオ 毎週土曜日22~23時 放送中

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おっさんだって、やりたいよ!

中年サラリーマンが酔った勢いで初ライブ、その後脱サラし各地のライブハウスやフェスのサブステージを湧かして回る。パンツ一丁で人生を歌う「サブステージの王様」、クリトリック・リスことスギムのエッセイ連載スタート!

バックナンバー

スギム(クリトリック・リス)

ソロ音楽ユニット「クリトリック・リス」として活動中。

音楽経験のまったくなかった中年サラリーマンが酔った勢いで、行きつけのバーの常連客達とバンドを組むが、初ライブ当日に他のメンバー全員がドタキャン。やけくそになりパンツ一丁で楽器を持たずに行った即興パフォーマンスが、コミカルでありながらなぜか感動してしまうと話題となる。42歳で脱サラして以降は、全国のライブハウスをドサ回りしながら生活している。

X(Twitter): @sugi_mu
ライブスケジュール&予約: クリトリック・リス ライブ 前売り予約フォーム

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