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美しい暮らし

2019.05.05 公開 ポスト

弁当男子やってみた件矢吹透

最近、なんだか世の中が、ぎすぎすしている、という印象がございます。

ちょっとしたことで、誰かや何かを寄ってたかって、袋叩きにするような、そんなあれこれを見聞きするたびに思うのは、人々が心に余裕を失くしているのではないか、ということです。

高齢少子化の流れの中で、経済の状況も芳しくなく、先行きの見通しに楽観できる要素の少ない現在のこの国にあって、心や気持ちに余裕を持て、というのは、無理な話なのかもしれません。


今の世の中には、糊代の部分が少なくなって来ているような気がいたします。

見方によっては、無駄に見えるような、しかし、とても必要な何か。

糊代、というのは、そういうものです。


私が子供の頃、大抵の家庭には必ず、閑(ひま)そうに見える人が、一人くらい居たことを、思い出します。

隠居した祖父母であったり、ちょいと道を外れて、人生を生きる叔父や叔母であったり、毎日、主に何をして暮らしているのか、よくわからない人の存在が、多くの家庭に当たり前のようにあった覚えがあります。

そういう人たちの存在が、家庭内に争議をもたらすこともままあるのですが、そういったあれこれも引っくるめ、世の中は回って行っていた、という印象があります。

そういう人たちが存在することを許し、内包して行く余裕が、人々の心にあったとも言えますし、逆に言えば、そういった人たちが、クッションや潤滑剤のようにいろいろなものを吸収し、皆の気持ちに余裕を与えていた、という面もあったのではないでしょうか。

子供の時分、一番よく遊んでもらったり、いろいろなことを教えてもらったのは、家庭の中のそういう、閑そうな人たちからだった、という印象があります。


数年前に、定職を辞し、細々と文章を書きながら、のんべんだらりと暮らす現在の私は、傍から見て、何をして生きているのかわからない、不可思議な存在、と映るようです。

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矢吹透『美しい暮らし』

味覚の記憶は、いつも大切な人たちと結びつく——。 冬の午後に訪ねてきた後輩のために作る冬のほうれんそうの一品。苦味に春を感じる、ふきのとうのピッツア。少年の心細い気持ちを救った香港のキュウリのサンドイッチ。海の家のようなレストランで出会った白いサングリア。仕事と恋の思い出が詰まったベーカリーの閉店……。 人生の喜びも哀しみもたっぷり味わせてくれる、繊細で胸にしみいる文章とレシピ。

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美しい暮らし

 日々を丁寧に慈しみながら暮らすこと。食事がおいしくいただけること、友人と楽しく語らうこと、その貴重さ、ありがたさを見つめ直すために。

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矢吹透

東京生まれ。 慶應義塾大学在学中に第47回小説現代新人賞(講談社主催)を受賞。 大学を卒業後、テレビ局に勤務するが、早期退職制度に応募し、退社。 第二の人生を模索する日々。

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