◎今回取り上げる古典:『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(マックス・ヴェーバー)
ひたすら雑談し社長に刺激を与え続ける奇妙な仕事
いま私は奇妙な仕事をしている。私の本業はコンサルタントだから、その派生といってもいい。奇妙な仕事というのは、企業の社長を相手に、一日じゅう会話するものだ。いわゆる顧問業ともちがい、特定のテーマについて解決するものではない。コーチングとも異なる。そもそも題材がない。ほんとうに、さまざまなことを話し、相手の発した内容を深掘りしたり、横に広げたりする。
そのうちに、社長は「なるほど、思いついた」とつぶやく。ビジネスの新たな仕組みや、方法論を思いつくと、さっと社員に指示をする。一つでも有効な発想ができれば、すぐに私へ支払う費用ぶんは回収できるというわけだ。必要なのは、かならずしも私ではなく、広範囲の知識を有していて、なんでも打ち返してくれる相手。
たとえば、社長が「この前、スーパーにいったら年配のひとばかりだった」という。私は「最近は15日あたりに特売日を設定するんですよね。年金の受給日だから」と返す。「おー。それなら、ウチでやっているセミナーは、24日前がいいね」と社長が思いつく。
社長のなかでは、日にちと購買行動が結びつく、と理解した。それならば、自社で開催しているセミナーは金融知識の大切さを説くものだから、多くのビジネスパーソンが金欠状態にある給料日前=24日あたりがいい。そう発想したのだった。私は意図したわけではなかった。ただ、どう活用してもいい。この社長は、新たなビジネスを思いつく、という営利的な目標のなかで、雑談という非営利的な行為を楽しんでいる。
この逆説。
考えてみるに、王道は誰もがやっている。発想も似たようになる。それであれば、もっとも営利から遠い箇所に自分を連れて行って、そこから発想を練り直すこと。
もしかすると、読書という経験もそうかもしれない。純粋に物語や、文章を楽しむやり方もある。しかし、いっぽうで、あえて自分が取り組む領域と乖離しているような書籍と対話してみること。すべてをビジネスと関連付ける必要はない。
私はずっと、役に立たいことがなんらかの役に立つのではないかと考えてきた。誰しもが前述社長のようにコンサルタントを雇えるわけではない。しかし、書籍を使えば、未知なる著者と対話が楽しめる。
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