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病的に自分が好きな人

2019.05.13 公開 ポスト

極度に傷つきやすい「自分大好き人間」とどうつき合うか?榎本博明

根拠のない自信がありすぎる。相手の都合や気持ちは眼中にない。プライドが傷つきやすい。ホンネで話せる友だちがいない。イラッとするとツイッターでつぶやく……あなたのまわりにも、こんな人はいませんか? いま、自分のことしか考えられない「自分大好き人間」が急増しています。そんな彼らの心理メカニズムを徹底解明したのが、心理学者、榎本博明先生の『病的に自分が好きな人』。本書の一部をダイジェストでお送りします。

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傷ついていることを知られたくない

病的に自分好きな人は、たえず周囲の視線を気にして、ビクビクしている。理想化した自分のイメージが打ち砕かれる恐れがあるからだ。

(写真:iStock.com/metamorworks)

自己愛過剰で「自分はすごい」と思っている人がもっているのは、実績に裏打ちされた自信ではなく、根拠のない自信であるため、じつは心の中に大きな不安を抱えている。

根拠のない自信は、厳しい現実にさらされると打ち砕かれ、大きな傷を負う。ゆえに、病的に自分好きな人は、現実を直視するのを恐れ、防衛的な構えをとる

自分は特別と思っているのに、特別扱いされないとき、むしろ軽んじられたときなど、大いに傷つく。自分はすごいと思いたいのに、思うように成果が出せずに、自分の無能さを思い知らされるとき、あまりに厳しい現実に目を覆いたくなる。

注目の的でありたいという思いが人一倍強いのに、全然注目してもらえないと、寂しい気持ちになり、ときに自己嫌悪に陥ったり、注目してくれない周囲に対して攻撃的な気持ちが湧いてきたりする。褒められると思っていたのに、褒めてもらえないと、大いに落胆するとともに、恨みがましい気持ちにもなる。

自分がグループの中心になりたいのに、どうしてもそうならないとき、理想像とのギャップに耐えがたいような屈辱を覚える。

そのように期待通りにいかずに傷ついているのを周囲に感づかれたら、さらに立ち直れないくらいに傷つく。自分が傷ついているということは、何としても感づかれないようにしなければならない。

気になることでも気にしないフリを装う。気にしているのがばれないようにかっこつける。友だちに対しても、そうした防衛的な構えを崩さないため、ホンネのつき合いがなかなかできない

友だちになってもホンネを出さずに身構えている感じがある場合は、その背後に傷つきやすく不安な気持ちが潜んでいるとみて間違いないだろう。

まるで「ヤマアラシ」のよう……

自己愛の傷つきを恐れるあまり親密な関係を築けないというタイプは、思うような評価が相手から得られなかったら傷つくという不安に加えて、嫌われるのではないかという不安も抱えている。

(写真:iStock.com/ser-y-star)

心理的距離が縮まると、遠慮がなくなるため、お互いのわがままが出やすい。ゆえに、関係が深まるほど衝突することも多くなる。それは、どんな人間関係にも一般的に当てはまることだ。

とても寒い冬の日、凍えそうになったヤマアラシのカップルが、お互いの身体を温め合おうと身を寄せ合った。そうすることで冷たい風にさらされる部分が減るため、温かくなる。

「これは温かいぞ、もっと近づこう」とさらに距離を縮めると、お互いのトゲが相手に突き刺さり、痛みが走る。「痛っ!」と飛び退く。だが、離れると寒風にもろにさらされ寒くて仕方ない。

そこで再び近づく。温かい。さらに近づく。痛い。飛び退く。寒い。こんなことを何度も繰り返した末に、ヤマアラシのカップルは、お互いに傷つけ合わずに温め合うことができる適度な距離をとることができるようになった

これはヤマアラシ・ジレンマと呼ばれる葛藤状況を描いたものだ。哲学者ショーペンハウエルが描いたエピソードをもとに、精神分析学者フロイトがヤマアラシ・ジレンマという概念を精神分析に導入した。これはまさに、人と人の心理的距離をめぐる葛藤を象徴するものといえる。

自己愛過剰なタイプは、ヤマアラシ・ジレンマでいうトゲが長く強烈であることが多い。

そのトゲがつい相手に刺さってしまう。自分のトゲが相手に刺さり、傷ついたり、腹を立てたり、呆れたりした相手が退いていくといった経験がトラウマとなり、だれかと親しくなると、これ以上近づいたら嫌われるのではないかとの不安、いわゆる「見捨てられ不安」に駆られる。関係が深まり、心理的距離が縮まれば縮まるほど、見捨てられ不安が強まっていく。

そのため、あまり近づきすぎないように距離をおいたつき合いをするようになる。相手に嫌われ、傷つくのを避けるために、一定の距離を保つようにする。

一体感を味わえるほど親密な関係になれたらどんなにいいだろうといった思いがまったくないわけではないが、見捨てられ不安の方がそれにまさる。期待をすると、期待が裏切られたときに傷つく。ゆえに、最初から期待などせずに距離をおこうとする。

どんなに気の合う者同士でも、深くつき合うようになれば、お互いの異質性に気づかざるを得ない。自分大好き人間は、相手に合わせるということができない。自分と相手の異質性を前提に自己コントロールするのが苦手だ。

そこで、期待するような反応を相手が示してくれないといって傷ついたり、わがままが出すぎて相手に退かれて傷ついたりといった経験を繰り返す。それゆえ、関係が深まることを恐れ、表面的なかかわりに留めておこうとするのである。

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病的に自分が好きな人

根拠のない自信がありすぎる。相手の都合や気持ちは眼中にない。プライドが傷つきやすい。ホンネで話せる友だちがいない。イラッとするとツイッターでつぶやく……あなたのまわりにも、こんな人はいませんか? いま、自分のことしか考えられない「自分大好き人間」が急増しています。そんな彼らの心理メカニズムを徹底解明したのが、心理学者、榎本博明先生の『病的に自分が好きな人』。本書の一部をダイジェストでお送りします。

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榎本博明

心理学博士。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、大阪大学大学院助教授などを歴任。現在、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演などを行う。 主な著書に、『病的に自分が好きな人』(幻冬舎新書)、『薄っぺらいのに自信満々な人』『「上から目線」の構造』(日経プレミアシリーズ)、『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)、『「過剰反応」社会の悪夢』(角川新書)、『モチベーションの新法則』(日経文庫)、『<自分らしさ>って何だろう?』(ちくまプリマー新書)などがある。

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