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病的に自分が好きな人

2019.05.15 公開 ポスト

増殖する「病的に自分が好き」なモンスター消費者たち榎本博明

根拠のない自信がありすぎる。相手の都合や気持ちは眼中にない。プライドが傷つきやすい。ホンネで話せる友だちがいない。イラッとするとツイッターでつぶやく……あなたのまわりにも、こんな人はいませんか? いま、自分のことしか考えられない「自分大好き人間」が急増しています。そんな彼らの心理メカニズムを徹底解明したのが、心理学者、榎本博明先生の『病的に自分が好きな人』。本書の一部をダイジェストでお送りします。

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「お客様は神様」は正しいか?

消費社会の進展も、自分大好き人間の増殖に大いに貢献している。

(写真:iStock.com/airdone)

モノにしろサービスにしろ、商品を購入する側か販売する側かということで、言葉遣いや物腰が決まる。金を払う消費者側は、当然のように丁重な扱いを受ける。

かつては子どもがお菓子屋やプラモデル屋に買い物に来て、買い漁ろうとすると、店員は、

「あまり無駄遣いするんじゃないよ」

「甘いものばかり食べると虫歯になるぞ」

などと大人から子どもに向けての、よい意味での上から目線で、教育的機能を担った言葉掛けをしたものだった。

それが今では、へりくだった調子でお客様扱いだ。ファストフード店でも子どもだけの客を見掛けるが、フライドポテトを注文して百数十円払おうとした小学生に対して、店員は、

「ついでにお飲み物などいかがでしょうか?」

などと商魂たくましい言葉掛けをするのである。しかも、大人の客に対するのとまったく同じ調子の言葉遣いだ。他の場面でかかわる場があれば、

「どうしたの? 大丈夫かな?」

「何かあったらお姉ちゃんに言ってね」

と子ども扱いする小学生であっても、金を払う客の側だというだけで、

「いらっしゃいませ、何に致しましょうか」

「少々お待ちください」

などと、大人に対するのとまったく同じように敬語を用いた応答をする。

こうした子どもに対する態度に象徴されるように、金を払う客の側になれば、年齢も能力も人格も問われずに尊重される。どんなに未熟者でも、勉強をさぼっていても、仕事ができなくても、客だというだけで尊重され、丁重に扱ってもらえる

厳しい売り上げ競争にさらされている企業や店の側は、「お客様は神様だ」とでもいうかのように、ますますお客様扱いの度合を増していく。順番待ちの客に対して、

「○○さん」

という窓口の呼び方が、いつの間にか、

「○○さま」

に変わっていたりする。客を極力尊重した心遣いによって、客の自己愛をくすぐり、引きつけておこうということだろうか。

このように消費社会において極端になりつつあるお客様扱いが、多くの現代人の自己愛を肥大化させていく。金を払ってモノやサービスを受け取るというのは対等な交換であり、双方がメリットを被っているはずなのに、消費社会のいびつな構造がお客様扱いを生み出し、病的に自分好きな社会の進行に貢献しているのである。

そこについに登場したのが、モンスター化した消費者だといえる。

「消費社会」が自己愛を肥大させている

お金を支払う側か受け取る側かということを基準にして、かかわり方を性格づけようとする社会風潮にさらされて、現代人の多くは、

「金を払う側なのだから、当然尊重されるべき」

といった思いを無意識のうちに抱えている。

(写真:iStock.com/gpointstudio)

消費者側の要求は何でも通るもの、通すべきものとでも思い込んでいるかのようなもの言いが目立つようになった。まさに自己愛の過剰である。

思い通りにならないとき、期待通りの対応をしてくれないときは、欲求不満を募らせ、攻撃的態度に出る。心理学には欲求不満―攻撃仮説というのがあるが、まさにその図式通りに店員や会社に攻撃を向ける。

店員に対して、対等な人間なのだといった意識がなく、自分は客なんだから偉いんだとでも言うかのように横柄な態度をとったり、理不尽な要求をしたり、ちょっとしたことで激しくクレームをつける客が急増し、クレーマーという言葉が浸透してきた

もし商品やサービスに欠陥があったのならクレームをつけて、交換や返金を要求すればよいのだが、その言い方があまりに攻撃的で、従業員がかわいそうに思えることがある。今時の若者なのに、よくキレずに耐えてるなあと感心することがある。それに比べて、客の自己チューな幼さに呆れる。

消費者としての権力に取り憑かれ、過剰な自己愛を客としての立場で満たすのがクセになってしまった者は、事あるごとにその権力をふるうことで自己愛を満たそうとする。こうしてクレーマーが誕生する。

窓口でちょっと待たされただけで責任者を出せと大騒ぎする。出された料理が十分温かくないと、交換を要求し、それでも収まらずに料理人の謝罪まで要求する。その場で文句を言っても気持ちが収まらず、家に帰ってからネット上に中傷する内容を書き込んだりするのも珍しいことではない。

このような消費者のモンスター化の背景には、度を超したお客様扱いによって消費者の自己愛が肥大化しているということがある。

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病的に自分が好きな人

根拠のない自信がありすぎる。相手の都合や気持ちは眼中にない。プライドが傷つきやすい。ホンネで話せる友だちがいない。イラッとするとツイッターでつぶやく……あなたのまわりにも、こんな人はいませんか? いま、自分のことしか考えられない「自分大好き人間」が急増しています。そんな彼らの心理メカニズムを徹底解明したのが、心理学者、榎本博明先生の『病的に自分が好きな人』。本書の一部をダイジェストでお送りします。

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榎本博明

心理学博士。1955年、東京都生まれ。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、大阪大学大学院助教授などを歴任。現在、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした企業研修・教育講演などを行う。 主な著書に、『病的に自分が好きな人』(幻冬舎新書)、『薄っぺらいのに自信満々な人』『「上から目線」の構造』(日経プレミアシリーズ)、『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)、『「過剰反応」社会の悪夢』(角川新書)、『モチベーションの新法則』(日経文庫)、『<自分らしさ>って何だろう?』(ちくまプリマー新書)などがある。

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