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暗黒物質とは何か

2019.05.22 公開 ポスト

宇宙の27%を占める「暗黒物質」の正体とは鈴木洋一郎

宇宙の質量の27%を占めている「暗黒物質」(ダークマター)。この空気中にも大量に存在しているが、一切の光、電波を発しないため、見ることすらできない。だが、暗黒物質がなければ、地球も人類も生まれることはなかった。まさに暗黒物質こそが、宇宙創生のカギを握る……。そんな謎の物質に迫った一冊が、『暗黒物質とは何か』だ。研究の最前線に立つ著者の、最新の知見が盛りだくさんの本書から、一部を抜粋してお届けします。

*   *   *

いまも私たちの体を通り抜けている

物理学や天文学の分野では、この十数年のあいだに従来の宇宙観を覆す重大な発見が相次ぎました。たとえば、2011年にノーベル物理学賞を受賞した「宇宙の加速膨張」の発見もそうです。

(写真:iStock.com/pixelparticle)

1998年にそれが発見されるまで、宇宙の膨張速度は徐々に減速していると考えられていました。投げたボールが減速するのと同じで、何らかのエネルギーが加わらないかぎり、膨張が途中から加速することはありえません。

ところが予想に反して、宇宙は加速膨張をしていました。それを引き起こしているエネルギーの正体はまだ不明ですが、研究者のあいだでは「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」と呼ばれています

それが宇宙に「ある」ことはたしかだが、正体がさっぱりわからない──XMASSの検出目標である暗黒物質も、その点では暗黒エネルギーと変わりません。

ただし暗黒物質は、それが私たちの知っている通常の物質(星や空気や私たちの体などを構成する原子や分子)とはまったく性質の異なる物質であることはわかっています。まったく光を発しないので見ることはできず、通常の物質とほとんど反応しないので、あらゆるものをスルスルと通り抜けてしまうのです。

そのため、地球や私たちの体を大量の暗黒物質が通り抜けているにもかかわらず、その存在に気づくことができません。まさに「暗黒」に包まれた物質としか呼びようがないのです。

通常の物質の5倍以上も存在する

現在では、この暗黒物質が宇宙全体に占める割合もわかってきました。

(写真:iStock.com/Natali_Mis)

暗黒物質の存在が明らかになるまで、宇宙にある物質はすべて原子や分子でできていると考えられていましたが、質量をエネルギーに換算すると、それは宇宙全体のエネルギーの約4.9%にすぎません。無数にある星や星間ガスなど、すべてを合わせても、その程度しかないのです。

では残りは何か。もっとも多いのは暗黒エネルギーで、これは約68.3%。残りの約26.8%が暗黒物質です。暗黒物質は通常の物質の5倍以上も存在することになります。

正体不明の物質がそんなにたくさんあるとなれば、物理学者がそれを放っておくはずがありません。物理学の目的の1つは、この世に存在するすべての物質の成り立ちや、物質同士のあいだに働く力の作用を解明することです。

多くの研究者が長年にわたって積み重ねてきた努力のおかげで、原子から成り立っている物質については、かなり深いところまで理解が進みました。原子は原子核と電子からできており、原子核は陽子と中性子からできている。その陽子と中性子にも内部構造があり、物質の最小単位は「クォーク」と呼ばれる素粒子であることまではわかっています。

ところが暗黒物質は原子と異なる性質を持っているため、これまで解明されてきた物質の枠組みではとらえきれません。それだけでも、研究せずにはいられない大テーマだといえます。

しかも暗黒物質は、宇宙そのものの成り立ちを解き明かす上でも、重要なカギを握っています。通常の物質と違うからといって、私たちの存在とまったく関係がないわけではありません。むしろ、私たちがこうして存在しているのは暗黒物質のおかげといっても過言ではありません。宇宙に銀河や星などの「構造」ができたのは、暗黒物質の働きによるものだと考えられているからです。

もし暗黒物質がなければ星は生まれず、宇宙は今のような構造を持たない、ただ原子、分子が飛び交うだけの空間だったかもしれません。その場合、地球も生まれないのですから当然のこと、人類はもちろん、どんな生命体も生まれないわけです。

したがって、暗黒物質を捕まえることができれば、宇宙の「現在」のみならず、「過去」や「未来」を知る上でも重要な手がかりになります。それ以外にも、暗黒物質の正体を突き止めることによって解明されるであろう謎は少なくありません。

だからこそ私たちはXMASSという暗黒物質検出器を建設しました。もちろん、このような研究に大きな意義を見出しているのは私たちだけではありません。すでに多くの国の研究機関や研究者が、それぞれの手法で暗黒物質の検出を目指して実験を進めています。お互いに切磋琢磨しながら激しい競争をくり広げているのです。

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鈴木洋一郎

1949年、東京都生まれ。京都大学理学部卒業。同大学院博士課程修了。専門は素粒子物理学。ブラウン大学研究助教授、大阪大学助手等を経て、96年、東京大学教授に就任。2004年4月から08年3月まで、東京大学宇宙線研究所所長。現在、東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設長、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)副機構長。01年仁科記念賞受賞。スーパーカミオカンデ実験における太陽ニュートリノ観測が高く評価され、10年ブルーノ・ポンテコルボ賞、13年ヨーロッパ物理学会コッコーニ賞を受賞。XMASS実験のプロジェクトリーダーとして、暗黒物質の検出に挑んでいる。

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