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猫を撫でて一日終わる

2019.06.06 公開 ポスト

居心地の良さに安住しすぎない

【居場所を考える】シェアハウスに飽きてきた〔再掲〕pha

幻冬舎plusフェスまであと7日!!

いわゆる家族とは違ったかたちで他人と暮らすシェアハウス。長年、ヌシとして暮らしてきたphaさんが、シェアハウスを旅立つ決意をしたこの回はとても反響がありました。ちょうどいい距離感で、いろいろな人とつながっていた拠点から、なぜ離脱を? ゆるやかなつながりを絶って向かう、次の場所とは。

* * *

かれこれ10年くらい、シェアハウスを自分で運営しながら住み続けてきた。

シェアハウスのような人の集まる場所に住んでいると、ぼーっとしているだけでいろんな人が住んだり遊びに来たりするので退屈はしなかった。まあ人が集まるとときどきはトラブルもあったりはするのだけど、基本的には楽しく暮らしていた。だけど、そんな生活に最近少し飽きてきた気がする。

いや、飽きてきたというか、シェアハウスに住み続けることが、自分の何かをだめにしている部分があるんじゃないかという気がしてきた。

それは、待っているだけでいろんな人がやってくるから、それに甘えてしまって、自分から他の人に声をかけるのがすごく下手になってしまったのではないか、というようなことだ。シェアハウスに住まないような人、シェアハウスに遊びに来ないような人と、どうやって仲良くなればいいのか、全然わからなくなってしまっている自分に気づいたのだ。

 

そんな風に人と仲良くなるやり方を覚えたのは、大学生の頃に寮に住んでいたときのことだった。

 

 

高校までの自分は人と仲良くなるのがすごく苦手で、ほとんど友達がいなかった。会話に入っていくのが苦手で、教室の中ではいつも一人で本を読んでいて、そうでないときは机に突っ伏して眠っているふりをしていた。本当は寂しかったのだけど、自分から人に話しかけることができなかったし、話すきっかけがあったとしても何を話せばいいのか全くわからなかったので、しかたなかった。

だけどそんな自分でも寮に入ると、特に頑張って人に話しかけたり会ったりしようとしなくても自然と周りに人がいるので、強制的に人と交流することができたのだった。

僕は人と会っているとすぐに「自分はここにいていいのだろうか」「相手は飽きてないだろうか」「そろそろ帰ったほうがよいだろうか」と不安になってしまうほうなのだけど、寮で人と会っているときは、「ここは自分の家だから自分はいてもいい」「他に帰る場所もないし」と自然に思えるので、そうした不安に襲われることがないのがよかった。

寮に住んで二年目くらいの頃、寮の玄関ホールの一角に新しいスペースができた。

そこはそれまでは粗大ごみが雑然と放置されているスペースだったのだけど、寮生の有志が粗大ごみを全部片付けて掃除をして、コンクリートの上に畳屋から貰ってきた中古の畳を敷き詰めて、こたつを置いて、交流するスペースを設置したのだ。

僕はその場所に入り浸った。そのスペースは玄関ホールにあるので、外に出かけていく寮生や外から帰ってくる寮生が絶え間なく目の前を通り過ぎていってあまり落ち着かないのだけど、そんな行き交う人を気にしないふりをしながら、一人でこたつに入って、ひたすら本を読んだりしていた。

本当は暇だったり寂しかったりして人と話したかったのだけど、自分から人に声をかける勇気がないので、わざと人目につく場所でこれみよがしにだらだらすることで、誰かに声をかけてもらうのを待っていたのだ。

その戦略はうまくいった。こたつに入ってぼーっと座っていると、通りがかる人が立ち寄ってくれて会話をしたり、メシを食おうとか麻雀を打とうとか誘ってくれるようになった。

そうして僕はそんなやり方に味をしめてしまった。交通量の多い場所で蜘蛛のように巣を張って、そこに誰かがかかるのをひたすら待ち続けるような人間関係の作り方に。今のシェアハウスでやっているのも基本的には同じことだ。

 

だけど、そのやり方があまりにもうまく行ってしまったために、それ以外のやり方がわからなくなってしまった。自分から人に声をかけて仲良くなるのって、どうやったらいいんだっけ。

今は家でごろごろと寝て過ごしているだけで、自動的にいろんな人がやってくる。それは寂しくないし、うれしいことだ。だけど、来る人はみんなそれぞれ面白くて魅力的な人なんだけど、どの人ともそんなに深いつながりはないような気もする。家に来てくれたら話をするけど、そうでなければわざわざ自分から出かけて行ってその人と会おうとするかどうかはよくわからない。自分が本当に会いたい人ってどういう人なのか、そもそもそんな人がいたのかどうかもよくわからなくなってしまった。

あと、場の主催者というのはとりあえず一段上に見られるようなところがあるので、自分は家にいる限り、みんなからそれなりの扱いを受けることができる。そんな風にホームで戦うことに慣れすぎてしまって、アウェイな場所にその他大勢の一人として参加するのが怖くなってしまった。そんなことを続けていると自分の世界がどんどん閉じていきそうだ。

ひょっとして自分は、一見人に囲まれているように見えて、すごく寂しい人間なのかもしれない。一生こんな感じで生きていくのだろうか。そろそろ一人暮らしをしてみるべき時期なのかもしれない。

 

イベント情報

幻冬舎plus presents
「人生の居場所をどう作る?
~つながりの見つけ方、孤独との付き合い方~」

出演:山口真由/カワムラユキ/松永天馬/矢吹透

日時:2019年6月13日 OPEN 18:30/START 19:30

場所:LOFT9 Shibuya
(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 1F)

チケット:前売¥2000/当日¥2500(税込・要1オーダー500円以上)

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猫を撫でて一日終わる

人と話すのが苦手だ。ご飯を食べるのが面倒だ。少しだけ人とずれながら、それでも小さな幸福を手にしたっていいじゃないか。自分サイズの生き方の記録。

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pha

1978年生まれ。大阪府出身。京都大学卒業後、就職したものの働きたくなくて社内ニートになる。2007年に退職して上京。定職につかず「ニート」を名乗りつつ、ネットの仲間を集めてシェアハウスを作る。2019年にシェアハウスを解散して、一人暮らしに。著書は『持たない幸福論』『がんばらない練習』『どこでもいいからどこかへ行きたい』(いずれも幻冬舎)、『しないことリスト』(大和書房)、『人生の土台となる読書 』(ダイヤモンド社)など多数。現在は、文筆活動を行いながら、東京・高円寺の書店、蟹ブックスでスタッフとして勤務している。Xアカウント:@pha

 

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