「豊島さんが優勢ですね」
「名人が勝ちそうだ」
検討室に詰めかけた棋士たちの形勢判断は、大きく揺れていた。
佐藤天彦名人に豊島将之二冠が挑戦する第77期将棋名人戦七番勝負は、ここまで豊島の2連勝。豊島が勝てば初の名人獲得に大きく近づく。先手番の佐藤にとっては、是が非でも落とせない一戦だ。勝負どころとも言える第3局は5月8日、2日目の夕方になっても均衡が保たれた熱戦になっていた。
岡山県倉敷市の観光スポット「美観地区」にほど近い倉敷市芸文館。その3階にある和室が、今回の舞台だ。2階の検討室では、立会人の淡路仁茂九段や副立会人の畠山鎮七段、大石直嗣七段らが、対局室を映すモニターを見つめている。倉敷に近い、広島県福山市出身の今泉健司四段の姿もある。午後8時半ごろの段階では、佐藤の攻めが途切れそうで、「豊島がリードを奪った」とみられていた。
この時間帯になると、記者は勝敗だけでなく、「いつ決着するのか」が気になり始める。新聞の記事の締め切り時刻が迫ってくるからだ。判断の助けになればと思い、私は手元のノートパソコンにインストール済みの将棋ソフトが示す形勢判断を注視していた。
するとどうだろう。人工知能(AI)は、わずかに豊島側がリードではあるものの、ほぼ互角の「評価値」を示している。あれ? 豊島二冠が勝ちそうだったのでは……
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