辛いことや苦しいことがあっても私たちは生き続ける。人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。20年の時を経て名著『人生の目的』が新書版に再編集され復刊。いまの時代に再び響く予言的メッセージ。
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金のために身を屈する人間は金を憎む
白状すると、私には自分でコントロールできないほどの浪費癖(ろうひへき)がある。〈癖(くせ)〉という字にはやまいだれがついている。疾(しつ)とか、病(びょう)という字の親戚(しんせき)かもしれない。すると病気の一種だろうか。
そう考えてしまえば気が楽になる。生まれながらの持病(じびょう)と思って、あきらめてしまえばいいのだ。
しかし、私の無駄づかいの激しさは、生来(せいらい)のものではない。いうなれば、もちつけぬものをもった人間の一種の錯乱(さくらん)ともいえそうだ。要するに、金というものに慣れていないのである。貧乏人がもちつけぬものをもったために、それをどう扱えばよいのか、混乱してしまっているとしか思えない。
先日の新聞にアメリカで、籤(くじ)で十数億円を当てた男が、いろんな事業に失敗し、離婚されたあげく何億という借金をかかえて破産したニュースがのっていた。これももちつけぬものをもったための笑えない悲喜劇(ひきげき)といっていいだろう。
しかし、それだけではない。およそ病的な浪費行為に走る人間には、どこか人間らしい正しい感覚が生きているようにも思われる。こういう言いかたは変にきこえるかもしれないが、じつは貧乏人ほど金を無駄に使いちらすのである。
よく聞く話に、風俗の店で働く若い女性たちが、ホストクラブでひと晩に何十万円も散財(さんざい)するというケースがある。いったいどういう感覚だろうとあきれる一方で、私にはなんとなく納得(なっとく)のいくところがあるのだ。
性ビジネスの世界で働くほとんどの女性たちは、必ずしも好きで性を売る仕事をしているわけではない。やはり金を稼ぐことが目的だろう。しかし、不特定多数の男たちを相手に、セックスのサービスをくり返すことは、どんな人間にも大きな無意識のストレスをもたらす。
金のために身を屈する人間は、誰もが心の底で金というものを憎んでいるのではないか。手にした一万円札の束(たば)は、生き甲斐(がい)でもあると同時に、また屈辱(くつじょく)のしるしでもある。
こんなペラペラの紙きれ何枚かのために、自分の精神と肉体とをここまで酷使(こくし)しなければならないのだと思えば、腹が立たないほうがおかしい。
事情はサラリーマンも、自由業者も、ほとんど変わりがない。いったいどっちが主人なんだよ、と、うんざりするのがあたりまえだろう。「金が敵(かたき)の世の中」とは、「金が主人の世の中」であり、「金が人間より偉い世の中」でもあるのだ。
人生の目的
人生に目的はあるのか。あるとしたらそれは何か――。お金も家族も健康も、支えにもなるが苦悩にもなる。人生はそもそもままならぬもの。ならば私たちは何のために生きるのか。
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