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銀河で一番静かな革命

2019.05.23 公開 ポスト

一生孤独で満たされないし救われないのに、生きることが希望に思える(佐々木ののか)マヒトゥ・ザ・ピーポー

5月23日発売のマヒトゥ・ザ・ピーポーさん『銀河で一番静かな革命』に寄せて、佐々木ののかさんよりエッセイが届きました。

*   *   *

真夜中のアパートから漏れる光のような安心感

一生懸命に生きていれば、いつかすべてが満たされる日が来ると思っていた。

勉強すれば何不自由ない暮らしができる、声をあげれば社会は変えられる。そう信じて生きてきたけれど、勉強で自由な暮らしが約束されるわけでもなく、声をあげても社会を変えられないし、いつどこで誰といたってずっと寂しい。恋人ができれば、結婚すれば、寂しくなくなると思っていたけれど、恋人ができても、結婚しても、誰と肌を合わせても孤独は消えない。

いくつになっても“終わり”に慣れない。出会えば別れがあるし、生まれれば死ぬ。死も別れもいつも唐突で、終わりが来るなら出会わず、始まらないでいてほしいとさえ思う。

毎日そこそこ楽しいし、別に死にたいわけじゃない。ただ、こんな感情をずうっと抱えて生きていけるのかと不安に駆られる夜がある。正義や絶対解がないと知りながら、都合の良い奇跡や魔法に手を伸ばしたくなる。

そんな孤独や不安に小さな光を照らしてくれるのが、マヒトゥ・ザ・ピーポーさんの小説『銀河で一番静かな革命』だ。

小説の舞台は東京。登場するのは、英会話講師の25歳のゆうき、ミュージシャンの光太、シングルマザーのましろ、その娘であるしっかり者のいろは。接点を持たないはずの4人の生活が折り重なるように物語は展開されていく。切り取られる情景の美しさが圧倒的で、見慣れているはずの東京の目新しさに何度も息を飲んだ。

日々葛藤しながら、ひたむきに生きながらも、何かに向かって大きく舵を切ることのない彼らの毎日だったが、〔通達〕と書かれた1通のメールが変化をもたらす。そのメールの内容とは、十日後の〔世界のおわり〕を告げるものだった。

登場人物は全員、器用に生きられない人たちだ。英会話講師のゆうきは海外に行く勇気を持てない自分にふがいなさを感じながらも、好きなバンドのライブに足を運ぶことを小さな喜びにして暮らしている。ミュージシャンの光太はもう長いこと新しい曲をつくれないまま惰性で音楽を続け、シングルマザーのましろは父親のわからない子を産んだ自分を責め続けている。

小説の中で描かれているのは、〔世界のおわり〕とは真逆の、あまりに平凡な人たちの生活だ。彼らの心情が手をかざしただけで壊れてしまいそうな繊細さで描かれる。壮大な決定のもとその尊さはより際立つ。私とは違う、私ではない、私とは関係のない人たちの、何の変哲もないような話。「そんな話どこにでもあるよ」と一笑に付すこともできそうなものなのに、筆者は読み手にそうさせることを許さない。指の間から零れ落ちてしまいそうな心情までをも見つめ、やさしく掬い上げ、凛とした態度で読み手に差し出し続ける。そして、読み進めるうちに気づく。差し出された感情は、自分の中にもあることを。

痛い。ヒリヒリする。しかし不快ではない。自分とは共通点がほとんどないような人たちの感情が自分に地続きであったことにホッとする。それでいて、普段ならば「どこにでもあって取るに足らない」と切り捨てていた自分の中にある感情が丁寧に扱われていることがあたたかかった。孤独であることには変わりないのに、真夜中にアパートの一室から漏れる光のような安心感を覚える。ひとりではないと思える。

マヒトゥ・ザ・ピーポーさんの歌を初めて聴いたときに思ったけれど、彼のことばは距離をとって受け取れない。能動的に聴いていたつもりが気づけば皮膚に触れられている。嫌な気持ちはしない。弱さと痛みを知っている人のことばだとわかるからこそ、安心して体重を預けられる。その人の痛みへの解像度の高さ、やさしさと強さは今回の小説でも活きている。あちこちに散りばめられたことばが作品全体の照度を上げて、〔世界のおわり〕や孤独をも光り輝かせる。

登場人物同士が交差し、別れていくシーンにも救われるものがあった。彼らの別れには湿っぽさや暗さがない。彼らは絶対に「さよなら」と言わない。その代わりに「またね」と言う。まるでまた会えることを確信しているかのようにお別れをする。また会える根拠なんてないのに、と言うのが野暮に思えるほどの強度を持って。その強さと軽やかさがたまらなく眩しくて、こんな風に人と出会って別れたいなと目を細めた。

祈るような思いで読み進めた先でも、奇跡は起きず、魔法も使えなかった。それでも、最後の一行を読み終えてからしばらく、繭の中の蚕になったような、あるいは羊水に浸かっているような居心地の良さを揺蕩った。

恋人ができても、結婚しても、誰と肌を合わせても孤独は消えない。いくつになっても“終わり”に慣れない。出会えば別れがあるし、生まれれば死ぬ。正義や絶対解、都合の良い奇跡や魔法なんてない。

それでも、この小説を読み終えたら最後、私たちはお土産として手に“希望”を握らされる。
手に握らされた希望は、今を生きているということそのものだ。

「銀河で一番静かな革命」は、私たちの手の中にある。

佐々木ののか(文筆家)
https://note.mu/sasakinonoka

関連書籍

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

海外に行ったことのない英会話講師のゆうき。長いあいだ新しい曲を作ることができないでいるミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自分を責める、シングルマザーのましろ。 決めるのはいつも自分じゃない誰か。孤独と鬱屈はいつも身近にあった。だから、こんな世界に未練なんてない、ずっとそう思っていたのに、あの「通達」ですべて変わってしまった。 タイムリミットが来る前に、私たちは、「答え」を探さなければならない――。 孤独で不器用な人々の輝きを切なく鮮やかに切り取る、ずっと忘れられない物語。アンダーグラウンド界の鬼才が放つ、珠玉のデビュー小説。

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銀河で一番静かな革命

GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーが5月23日に発売するはじめての小説『銀河で一番静かな革命』を紹介します。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー

ミュージシャン。2009年に大阪にて結成されたバンド・GEZANの作詞作曲を行いボーカルとして音楽活動開始。
2014年からは、完全手作りの投げ銭制野外フェス「全感覚祭」も主催。自由に境界をまたぎながらも個であることを貫くスタイルと、幅広い楽曲、独自の世界を打ち出す歌詞への評価は高く、日本のカルチャーシーンを牽引する。
著書『銀河で一番静かな革命』『ひかりぼっち』、絵本『みんなたいぽ』(絵:荒井良二)。映画監督作品『i ai』がある。

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