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僧侶、家出する。

2019.12.26 公開 ポスト

第2回

この地球を「寺」にするしかない【2019年自分サイズで生きる記事で人気1位(再掲)】稲田ズイキ(僧侶)

京都のお寺の副住職で、コラムニスト・編集者としても活躍中の稲田ズイキさん。そんな僧侶が、なんと「家出する」と宣言。この連載は、「僧侶」という立場に虚無を、「寺」という場所に閉塞感をおぼえた27歳の若い僧侶が、お寺を飛び出し、他人の家をわたり歩き、人から助けられる生活の中で、一人の人間として修行していく様子をほぼリアルタイムに記録していくというものです。気になった人はどうか、稲田さんをお家に泊めてあげてください。

 

*  *  *

今、家出生活、5日目。神奈川県の伊勢原という町の喫茶店でこの文章を書いています。なんでこんな場所にいるのか、自分でもよくわかりません。

先週から始まった家出生活。出家のち家出。神待ち少女ならぬ、仏待ち僧侶です。

 

前回記事を出したら、たくさんの人が応援してくれました! ありがとうございます。

書きたいことは山のようにあるのですが、今回は前回に続いて「なぜ家出したか?」について。

もしリアルタイムの家出生活を知りたい人は、僕のTwitterをのぞいてみてください(そして、あわよくば今晩泊めてください)。

 

 

お寺で生きる閉塞感

別に一人のときに「孤独だな~~~」と思ったことはない。

孤独はいつも自分が「無力」だと悟ったときに、じんわりと現れる。

仏像の前で念仏を唱えるとき、仏さまから見た自分は、どうしても「孤独」にしか映らなかった。

 

お寺は今、閉塞感に包まれている。

「宗教」という存在への拒否感、「家」制度の解体、地方の過疎化……

 

心のIKKOが「どんだけ~~~!!!!」と叫び出す。挙げていくとキリがない。まぼろし~~~!!! と言ってほしい。

 

そんな課題を背負って、僧侶は生きている。

特に、僕みたいな20代の僧侶は「50年後くらいに親父に代わって住職になるんやけど、そのときお寺なんてあるんやろかワロタ」みたいな世界観だろう。

 

そんなに生きづらいんだったら、僧侶やめれば?

 

そう言われることがある。マジレス感謝。

たしかに、諸行無常の教えの通り、お寺も僧侶も仏教も、時代とともに消えゆく道を選んでもいいのかもしれない。

それでも、僕は仏教ラブだし、2500年の時間をかけて時代とともに紡がれてきた仏教の担い手として生まれてしまった「ご縁」との葛藤がここにある。

対峙しているのは、等身大の「自分」でもあり、仏教という大きな「歴史」。一人一人の僧侶がアナキン・スカイウォーカーなのだ。

この地球を「寺」にするしかない

とある漫画の編集者さんとの飲み会での話。

「いかに若手の僧侶が生きづらいか」を説明していたら「お寺の業界で、もがぎながら人々を救済する道を模索する若い僧侶の物語を書いたら、半沢直樹を超えるドラマになるよ」と言われた。

 

それだけ「抑圧が多く革新に飢えた世界」に見えるんだと思った。

仏教とは、この世にある苦しみと向き合うための教えだ。

だったら「今を生きる人々に開かれたお寺にしたい」と思って、あるべきお寺の姿を模索しようとするも、現実は程遠くチャレンジすらできないことが多い

 

待ち受けるのは、伝統(タブー)・戒律(ルール)・宗派(ブランド)・地域(村社会)・家族(縦社会)のロイヤルストレートフラッシュである。

 

もちろん、これは一側面だけを切り取って語った内容だ。

過去のリスペクトからしか革新は生まれないし、僕が僧侶としてこの社会で生きられているのは、宗派や師僧である父、お寺を支え続けてくださっている地域の皆さんのおかげである。檀家さんからいただいたお米を食べて、僕はここまで育った。

しかし、そうした居心地の良い、完璧な「生態系」ができあがっているがゆえに、新たな変化が避けられることが多いのはたしか。企業勤めの人はよくわかると思う。

 

実際に、修行仲間や同世代の若手僧侶に話を聞けば、

「新しいことをやりたいけど、住職がダメだと言う」

「企画立てたけど、檀家さんがいい顔をしないので諦めた」

もちろん、さまざまな要因があるのだろうが、そんな苦労話しか聞かない。

 

僕の場合は、よく住職の父と衝突した。解像度を低くして語れば「保守 VS 革新」。

でも、細かく見ていけば、父には父の立場があり、父の生きる「正しさ」を持ってお寺を運営しているのだった。

そこに僕の「正しさ」をぶつけたとしたら、どうしてもアンハッピーな人が現れてしまうのも事実。

(家族・檀家総出演で撮影した寺主制作映画。衝突しながらも最終的に出演してくれたのは「父」としての立場だろう。今では感謝しかない)

 

だとしたらもう、僕が僕の仏道を実践する「別の場所」を自分で作り出すしか道はなかった。

 

立ち返って見れば、昔の僧侶は「遊行(ゆぎょう)」といって、全国を旅して修行していて、定住なんてしていなかった。

そう思った瞬間、スルスル~と閉塞感が解けていったのを覚えている。

 

「寺に定住する」なんて、実は固定観念に過ぎないんじゃないか? 

もしかしたら、街全体が「寺」なのかもしれない。

いや、日本全体が、いやもう、地球が「寺」なのかもしれない。ラテン語で地球って「terra」だし! 

 

仏教は、物語を解体し、固定観念を打ち崩すための思想だ。

だとしたら、僕は、今あるお寺の常識を乗り越えたい。

 

つまりは、第1回で書いた「僧侶としての虚無感」を脱するため、そして、「お寺に生きる閉塞感」を打ち破り、新しいハッピーな仏教の世界を探るために、僕は家出を決意した。

僧侶、町に出る。

(家出すると「居場所」のなさに気付く。自然と公園に来る機会が増えた。)

草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)。

この世界のあらゆるものが仏になる可能性を秘めていて、自分に「法」を説いてくれるというお経の言葉だ。

 

そう思えば、世界は異なって見えた。

 

場末のスナックのママが、公園で虚空を眺めるジイさんが、Twitterのフォロワーが、道端に落ちている片手袋が、1時間に1本のバス停が、30分25000円の過ちが、僕にとってのブッダなのだ。

 

劇作家の寺山修司は「書を捨てよ町へ出よう」と言った。

今、僕の心に浮かぶのは「経を捨てよ町へ出よう」の言葉だ。

 

僕がこれからこの連載でやることは、説法でも何でもない。ありがたい話なんて絶対にできやしない。

これは、一人の人間として、他者のために何ができるのか、もがく修行

 

仏教とは永遠の愛の形だと信じ、人の愛に触れ、できる限りの愛を返したいと思う。

 

とにかく今は暖かいお風呂に入りたいので、小田原に住む従兄弟の家(20年ぶりくらいに連絡した)へ向かっている。

 

*  *  *

次回からは、ほぼリアルタイムで旅での出来事が綴られていきます! 稲田さんは来週どこにいるんでしょう? もし泊めてあげてもいいと思った方は、稲田さんのTwitterにDMを送信してみてくださいね。

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僧侶、家出する。

若手僧侶がお寺や僧侶のあり方に疑問を持ち、「家出」した!

さまざまな人に出会うこと、それ自体が修行となると信じ、今日も彼は街をさまよう。

(アイコン写真撮影:オガワリナ)

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稲田ズイキ 僧侶

僧侶。1992年京都のお寺生まれで現・副住職(※家出中)。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、仏教を楽しむコラム連載など文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、煩悩浄化トークイベント「煩悩ナイト」などリアルイベントを企画。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。

Twitter:@andymizuki

過去の執筆・出演記事はこちら

(写真撮影:オガワリナ)

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みなさんありがとうございます!

 

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