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(photography:Kazumi Sato)

逃げてきたんだ。

海を目の前に思っていた。数センチ、体を前に傾けるだけでこの肉体をなかったことにできる、そんな防波堤の端から、金色に照らされた渦を見て思っていた。何から逃げてきたのか、その根源はわからない。ただ直感していた。

防波堤の上では干からびた獣の死体が白骨化している。全体の半分くらい残った皮と牙や爪らしきものも見えるが何の動物かはもうわからない。こうなっては個体から個性は剥奪されている。いいやつも悪いやつも権力も階級もない。死後の世界までプロフィールというやつを持ち込めないであろうことに安心する。そうであればお墓に入ることなどはなから無意味だから、わたしは拒否したいと何故か夕暮れの中で決意していた。

足でつつくとわずかだが生き物特有の鼻を突く腐臭がして、何の感情も高揚することなくわたしは無意味にその獣の骨を海に蹴落とした。金色の渦は大きな口を開け飲み込んで、ものの数分で見えなくなった。

北海道、日高のMKランチには2年前にも来ている。馬小屋で青葉市子と共に生音でライブをし、ホースマンシップという馬とのコミュニケーションを体験した。その時のことは寺尾紗穂さん監修の『音楽のまわり』という本で書いているが、馬の上に乗って過ごした時間は本当に忘れられない経験となった。アースオーブンという消防車を改造した車の後部に設置された釜で焼いたピザの味もよく覚えている。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー『ひかりぼっち

いつ、どの部分を遺書として 切り取ってくれても構わない。 あなたがあなた自身である限り、誰にも負けることはない。 オリジナルでもフェイクでもいい。ただわたしであればそれだけでいい。 GEZANマヒト、時代のフロントマン。眩しいだけじゃない光の記録。本連載に加え、書き下ろしを収録。(写真 佐内正史)

関連書籍

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

海外に行ったことのない英会話講師のゆうき。長いあいだ新しい曲を作ることができないでいるミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自分を責める、シングルマザーのましろ。 決めるのはいつも自分じゃない誰か。孤独と鬱屈はいつも身近にあった。だから、こんな世界に未練なんてない、ずっとそう思っていたのに、あの「通達」ですべて変わってしまった。 タイムリミットが来る前に、私たちは、「答え」を探さなければならない――。 孤独で不器用な人々の輝きを切なく鮮やかに切り取る、ずっと忘れられない物語。アンダーグラウンド界の鬼才が放つ、珠玉のデビュー小説。

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眩しがりやが見た光

GEZAN・マヒトの見た、光、幸福、人生。

バックナンバー

マヒトゥ・ザ・ピーポー

ミュージシャン。2009年に大阪にて結成されたバンド・GEZANの作詞作曲を行いボーカルとして音楽活動開始。
2014年からは、完全手作りの投げ銭制野外フェス「全感覚祭」も主催。自由に境界をまたぎながらも個であることを貫くスタイルと、幅広い楽曲、独自の世界を打ち出す歌詞への評価は高く、日本のカルチャーシーンを牽引する。
著書『銀河で一番静かな革命』『ひかりぼっち』、絵本『みんなたいぽ』(絵:荒井良二)。映画監督作品『i ai』がある。

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