「審美」「インプラント」「矯正」には要注意! そう警鐘を鳴らすのは、歯学博士の中村健太郎さんだ。人生100年時代、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)のカギとなるのが「歯の健康」。いくつになっても自分の歯で食事をするには、どんなことに気をつければよいのか? 最新の知見が満載の著書『噛む力』より、重要なポイントを抜き出してみました。
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歯並びが悪くたってかまわない
すばらしい遺伝のメカニズムによって作り出される咬み合わせには、ちゃんと食事ができるための条件がそろっています。「どんなに見た目の歯並びが悪くても、食べ物を噛めない人はいない」のです。
せっかくちゃんと食事ができる歯があるというのに、「歯並びが悪いから」というだけで歯列矯正に走るほど恐ろしいものはないことが、おわかりいただけるでしょう。歯並びはその人が持つ固有の遺伝情報で、そこにはちゃんと咀嚼ができるための条件がそろっています。それを見た目が良くないというだけで、咬み合わせが悪いと決めつけ、変えようとしているのですから。
残念なことに、現在はそういった理由による矯正治療がまかり通り、治療を受ける患者さんもそれが正しいと信じているのが実状です。
中には歯列を変えたために、これまで問題なく食べていたものが食べられなくなった人もいます。
見た目にばかりこだわり、「咬み合わせ」という言葉が、本来の意味では理解されていないように思えてなりません。最大の問題は、ご飯を食べることができるかどうかなのに、です。
ちなみに、歯列矯正によって見た目の歯並びを良くしようと思ったことのある方は、「審美歯科」にかかられたことや、あるいは診療を検討されたことがあるかもしれません。
審美という言葉を英語に訳すとaesthetic(エステティック)となり、aestheticをまた日本語に訳すと「美容」となります。「審美」というと治療の一つに思えるかもしれませんが、見た目上の歯並びを良くするのは、あくまで美容です。
美容を追求するあまり、おいしくご飯が食べられ健康を保てる機能が損なわれてしまっては、意味がないですよね。歯列矯正を考えるのであれば、そのことをよく理解したうえで決めていただきたいと願ってやみません。
欧米人と日本人ではこんなに違う
噛むという動作について、こんなことを言う人がいます。
「欧米人はもともと狩猟民族だから、肉食動物と同じように激しく上下に口を動かして食べ物を噛み、日本人を含む東洋人は、もともと農耕民族だから歯を横に動かして食べ物をすりつぶしている」
実は欧米人と日本人で、食べ物を噛む時の口の動きに差はありません。ただ一つ、両者を比べて大きな違いがあるとしたら、食生活ではなく、言葉を発する際の口の動きです。舌を噛む「th」や、唇を噛む「f」「v」のような、日本語の五十音にはない音が、欧米の言葉にはあります。
そこで欧米の人々は、少しでも舌や唇を噛む音を発音しやすくするために、前歯を矯正し内向きにします。美しく完璧な発音ができなければ、ディベート(討論)に支障を来すためです。ディベートができなければ、ビジネスの場で勝っていけず、昇進や出世に影響します。欧米人の子供で矯正をしているのが目立つのはそのせいです。
ところが、先にも述べたように、歯はもともと食事ができるように並んでいます。発語の機能を優先して歯の向きを変えれば、当然、弊害も出ます。実際、歯列矯正をした欧米人には、本来ならできるはずの、前歯で噛み切ることができない人が多いのです。
それでも欧米人は、歯列矯正によって普段の食生活で困ることはまずありません。なぜなら食事の際にはナイフとフォークを使うのがマナーであるため、前歯で噛み切る必要がないのです。だから発音しやすいことを優先して、歯列矯正をするのです。
対してお箸の文化である私たちは、すべてを一口大に切って食べるわけではなく、前歯で噛み切る場面が多々あります。生まれつきの歯並びなら、それも容易にできます。また、日本語の発音には、生まれ持った歯並びでも、まず支障はありません。
欧米人と我々日本人では、歯列矯正の必要性も、弊害も、まったく異なるのです。
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