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噛む力

2019.06.20 公開 ポスト

死の危険もある「誤嚥性肺炎」を防ぐたった1つの方法中村健太郎

「審美」「インプラント」「矯正」には要注意! そう警鐘を鳴らすのは、歯学博士の中村健太郎さんだ。人生100年時代、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)のカギとなるのが「歯の健康」。いくつになっても自分の歯で食事をするには、どんなことに気をつければよいのか? 最新の知見が満載の著書『噛む力』より、重要なポイントを抜き出してみました。

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真の原因は「食塊形成」ができないこと

近年は肺炎が、日本人の死因の上位として知られるようになりました。そして驚くことに高齢者の肺炎の7割以上が誤嚥性肺炎というデータがあります。

(写真:iStock.com/paylessimages)

誤嚥性肺炎は、食べ物がうまく飲み込めず誤って気管に入ってしまい、その際に口腔内細菌が一緒に入り込んで感染するために起こります。このように、誤嚥性肺炎の主な原因となるのが、うまく飲み込めないことイコール嚥下障害です。

では、嚥下障害を引き起こす原因はご存じでしょうか? さまざまなメディアで、「飲み込むために必要な、喉の筋力が低下していること」が最大原因なので筋力を鍛えようという説が広まっていますが、実はそうではありません。誤嚥を引き起こす最大の原因は、口の中で噛んだ食べ物をひとかたまりにする「食塊形成」がうまくできないことにあるのです。

口の中に食べ物が入ってくると、歯によって食べ物を粉砕し、唾液と混ぜることで、ひとかたまりの「食塊」を形成します。その食塊を喉へと送り飲み込むわけですが、喉はその奥で空気を肺へ送る気管と、食べ物を胃へ送る食道に分かれています。

人間の体はとてもよくできていて、喉の入口部分には、喉頭蓋という弁があり、飲み込む際に喉頭蓋が気管の入口をふさぐことで、食べ物は気管に入ることなく、食道へと流れていきます。このような弁の開閉は、食塊が上顎の奥に当たることによる機械刺激がスイッチとなって、刺激反射として起きるものです。意識的に喉の筋肉を動かすのではなく、無意識の反射によって自動的に通路が開くのです。

では、食塊形成がうまくできないとどうなるでしょう? 咀嚼した物をひとかたまりにできなければ、少しずつダラダラと飲み込むことになりますよね。

ところが喉頭蓋がいつまでも気管をふさいでいると窒息してしまうため、生きるために必要な体の反応として、気管への入口を開け呼吸をしようとします。

このとき口にまだ食べ物が残っていれば、空気と一緒にその一部が気管に送られることになります。すると奥にあるセンサーが食べ物を感知して防御システムが働き、咳き込んで排出しようとしますが、うまく排出できずそのまま奥へ入り込んでしまうことがあります。それが誤嚥というわけです。

つまり誤嚥を引き起こす主な原因は、食塊形成がうまくできないこと。決して「飲み込む力が弱い」からではありません。誤嚥を防ぐために大切なのは、ひとかたまりの食塊にして飲み込むことなのです。

「喉の筋力を鍛えて誤嚥性肺炎を防ぐには、カラオケがいい」という話を耳にされた方もいるかもしれませんが、残念ながら、それは誤嚥性肺炎の予防にはつながりません。

ただ、カラオケに出かけることには、外に出て人と交流し、ストレスを発散して楽しい時間を過ごすという、別の健康増進効果があります。特に高齢の方はどんどん実施して、健康長寿に役立てていただくといいでしょう。

「唾液」の力が欠かせない

食塊が形成できないことが、誤嚥性肺炎の最大原因ですが、では食塊形成がうまくできない原因はどこにあるのでしょうか?

(写真:iStock.com/YSedova)

私たちが何気なく食べ物を噛んでいる間には、「粉砕」と、「一つのかたまりにまとめる」という、二つのことが行われています。

粉砕をする際に必要なのは、歯と舌です。下顎を繰り返し動かして行われる歯の臼摩運動によって食べ物をすりつぶす間には、食べ物は何度も舌によって上下の歯ですりつぶせる位置へと送られ、次第に細かくされていきます。

こうして粉砕した食べ物を一つにまとめるために、なくてはならないものがあります。それが唾液です

食塊は、食べ物自体の粘りによってできると思われるかもしれませんが、そうではありません。ちょうどハンバーグに入れる卵のように、唾液が「つなぎ」の役割を果たすことで、初めて一つにまとまるのです。唾液にドロドロとした粘着性があるのは、粉砕した食べ物をひとかたまりにするためなのです。

このような大切な役割を持つ唾液が、もし必要なだけ分泌されなければどうなるでしょう? もうおわかりですよね。食塊は形成されず、粉砕された食べ物をバラバラの状態で飲み込むしかなくなります。

唾液が減る原因として、特に高齢の方に多く見られるものに、薬の副作用があります。高血圧や、糖尿病などをはじめ、高齢者がかかる病気に対して処方される薬の多くには「口渇」という副作用があり、これが、唾液が出にくくなる原因の場合があります。主治医に相談して副作用の少ない薬に変えてもらうといいでしょう

唾液は年齢とともに減少する場合もあります。薬の副作用かどうかの見分け方は、同時に汗や涙の量も減っているかどうかが目安となります。もし汗や涙まで減っていれば、加齢が原因と考えて、水分を多く取るなど工夫しましょう

関連書籍

中村健太郎『噛む力』

「矯正」も「インプラント」も要注意! 寿命を縮める歯科医療の真実。 ・「マウスウォッシュ」はむやみに使うな ・「いい歯石」と「悪い歯石」がある ・片側だけで噛んでいると「高血圧」になる ・しつこい口臭は「唾液」で直せ 人生100年時代の口腔ケアを歯学博士が語る。

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噛む力

「審美」「インプラント」「矯正」には要注意! ほてつ(補綴)治療を知り健康寿命を延ばせ! ほてつ治療では、歯を1本単位で見ず、歯列単位で口の中全体を考えます。その種類は、大きく分けると、歯の一部を失った場合の「クラウン」と、歯そのものを失った場合の「ブリッジ」「接着ブリッジ」「部分入れ歯」「総入れ歯」「インプラント」があります。その最大の特長は、手遅れがないことです。たとえ100歳でも、遅すぎることはないのです!

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中村健太郎

Shurenkai(修練会)Dental Prosthodontics Institute院長、歯学博士。1962年、愛知県生まれ。89年、愛知学院大学歯学部卒業。同年、愛知学院大学歯学部冠・橋義歯学講座所属。95年、中村歯科醫院開院。2010年、中村歯科醫院終院。現在、愛知学院大学歯学部冠・橋義歯学講座非常勤講師、愛知学院大学歯学部高齢者歯科学講座非常勤講師、公益社団法人日本補綴歯科学会専門医・指導医などを務めながら、公益社団法人日本補綴歯科学会認定研修機関とShurenkai(修練会)を主宰し、全国の歯科医師に向け、ほてつ(補綴)歯科治療の大切さを伝えている。

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