「審美」「インプラント」「矯正」には要注意! そう警鐘を鳴らすのは、歯学博士の中村健太郎さんだ。人生100年時代、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)のカギとなるのが「歯の健康」。いくつになっても自分の歯で食事をするには、どんなことに気をつければよいのか? 最新の知見が満載の著書『噛む力』より、重要なポイントを抜き出してみました。
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日本人が知らない3つのデメリット
よく言われる、インプラント治療のメリットは、次の4つです。
・両隣の歯を削らなくていいこと
・着脱の煩わしさがないこと
・見た目も非常にいいものになること
・どんな場所の歯でも、骨さえあればインプラントが打てること
このようなことが、メリットとして謳われています。「謳われている」と言ったのは、本来はデメリットもあるのに、いい面しか伝えられていないためです。
では、どのようなデメリットがあるのでしょう?
(1)インプラントにはクッションの役割の歯根膜がない
インプラントは天然の歯に近いというイメージを持たれるかもしれませんが、実はインプラントと天然の歯には、決定的な違いがあります。
天然の歯は、歯根の部分に特殊な構造を持っています。歯根のいちばん外側にあるセメント質と、これが埋まっている歯槽骨の間に、「歯根膜」という組織があるのです。歯根膜は、歯で硬い物を噛む際に、その力を受け止めるクッションの役割をしています。
試しにご自身の歯を、指でつまんで揺すってみてください。クラクラと、わずかに動きますよね。歯を強く噛みしめても、微妙に動くのを感じられるかもしれません。
ところがインプラントには、歯根膜はありません。歯槽骨に直接、「フィクスチャー」と呼ばれる金属製の人工歯根が埋め込まれているだけです。
では、衝撃を受け止めるこの歯根膜がなければ、どうなるでしょう? 歯と歯槽骨という硬い物同士が、直接ぶつかることになります。
天然の歯と同じように見えますが、実はインプラントには、最も重要な構造がないのです。人工的に歯根膜を形成することは、現在の医療技術ではできません。だから、「せっかく見栄えのいいインプラントを入れたのに、うまく噛めない」という人が少なくないのです。
(2)感染への防御システムが非常に弱い
インプラントの場合、先にもお話ししたように、ものを噛んだ際に力を受け止める「歯根膜」がありません。また、天然の歯とは違って、セメント質もありません。そして、本来なら歯と歯ぐきの境目にある「歯肉溝」もないのです。
歯は組織内から組織外へ出ているという、特別な構造をしています。普通なら非常に感染症にかかりやすいところを、歯肉溝から浸出液を出して感染防御をしているのです。
インプラントは、あたかも天然の歯のような見た目をしているため、歯肉溝もあるものと思われるかもしれません。しかし実際は歯肉溝はなく、浸出液も分泌されないのです。
と言うことは、天然の歯に備わっている防御システムがまったくない状態で、無防備な骨に人工物が植えられていることになります。そのため感染が起きれば、容易に骨にまで到達し、骨が溶けます。「インプラント周囲炎」と呼ばれるこの感染症は、近年、大きな問題となり、訴訟にまで発展することもあります。
インプラント周囲炎になると、歯槽骨に埋め込んだフィクスチャーごと、手で軽く引っぱっただけで簡単に抜けてしまう場合もあります。
また、炎症を起こした状態が長く続けば、菌が骨の中の血管に入って血流に乗り、全身に回る危険性もあります。
インプラントを入れた人がすべて感染症になるわけではありませんが、高齢者は特に注意が必要です。その理由は三つあります。
「唾液が減少して、口腔内の免疫システムの働きが弱くなること」「手の感覚が鈍くなり、歯ブラシによる手入れが行き届かなくなること」「全身の免疫力が低下すること」です。介護が必要な状態になると、なおさらリスクは高まります。
(3)トラブルが起きた場合対処が難しい
さて、もし感染によるトラブルでインプラントが抜けてしまったら、どうすればいいでしょう?「そうなったら諦めて、入れ歯に転向する」と言われる方、もちろんそれもできなくはありません。ただ、そこまで炎症が悪化すれば、顎の骨が溶けて、後退してしまっています。
インプラントのデメリットには、このようにトラブルが起きた場合に、容易に次の手が打てないこともあります。
噛む力
「審美」「インプラント」「矯正」には要注意! ほてつ(補綴)治療を知り健康寿命を延ばせ! ほてつ治療では、歯を1本単位で見ず、歯列単位で口の中全体を考えます。その種類は、大きく分けると、歯の一部を失った場合の「クラウン」と、歯そのものを失った場合の「ブリッジ」「接着ブリッジ」「部分入れ歯」「総入れ歯」「インプラント」があります。その最大の特長は、手遅れがないことです。たとえ100歳でも、遅すぎることはないのです!