「審美」「インプラント」「矯正」には要注意! そう警鐘を鳴らすのは、歯学博士の中村健太郎さんだ。人生100年時代、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)のカギとなるのが「歯の健康」。いくつになっても自分の歯で食事をするには、どんなことに気をつければよいのか? 最新の知見が満載の著書『噛む力』より、重要なポイントを抜き出してみました。
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虫歯菌の大好物「ショ糖」
常在細菌の一つである虫歯菌の急激な増殖を引き起こす最大の原因は、ショ糖(砂糖)です。
糖類にはいくつか種類があります。みなさんおなじみの白い砂糖(上白糖)がショ糖。他には、果物に含まれる果糖や、蜂蜜に含まれるブドウ糖などがあります。
これら糖類の中で、虫歯の菌が優勢となるきっかけを与えるのは、ショ糖だけです。「甘いもので虫歯になる」と言われてきた方も少なくないと思いますが、甘ければ虫歯になるわけではありません。虫歯菌を増大させるのはショ糖の存在。コーヒーの砂糖やクッキー、キャンディーなどのスイーツは、歯にとっては大変危険なのです。
唾液は口腔内全体の粘膜までも覆い、殺菌をして、口の中を一定の状態に保っています。ところが、そこにショ糖が入ってくると、細菌によって口腔内が強酸性となり、唾液による再石灰化が追いつかなくなります。エナメル質に修復しきれていない部分があると、虫歯は一気に進行することになります。
古代人の骸骨には、ほとんど歯が残っています。当然ですよね。その時代にはショ糖がなかったのです。
江戸時代や室町時代にも、すでにショ糖はありました。ただ、当時はきわめて高価で、庶民の口に入ることはまずありませんでした。昭和の初期になっても、まだまだ普及とまではいかず、戦後になって、食生活が豊かになると同時に、ショ糖は一気に普及しました。虫歯になる人が圧倒的に増えたのは、その結果なのです。
命に関わる病気を招くことも
虫歯や歯周病は、「感染症」です。感染症は、非常に恐ろしいものです。歯周病菌が口の中だけでなく血管に入り込めば、糖尿病の他、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞といった重篤な疾病の原因となることもあります。感染症はときに、人の生死に関わる重大な疾病を引き起こします。虫歯や歯周病の細菌も、例外ではないのです。
しかも厄介なことに、一度、虫歯や歯周病になってしまうと、決して「完治」はしません。「歯科で虫歯を削って詰め物をすれば、治るじゃないか」と思われるでしょうか? しかしそれは治癒ではなく、「寛解」という状態にすぎません。「症状が問題のない程度まで軽減された」「消えたように見える」という状態が寛解です。
虫歯や歯周病が、寛解はしても完治はしないその理由は、虫歯菌や歯周病菌のサイズがわずか1ミクロンほどときわめて小さいこと、常に口の中にいる常在細菌であること、さらには「嫌気性細菌」であることにあります。
空気があるところでは繁殖しませんが、空気がないところ、つまり手が届かないところに入り込んだ途端に、増殖が加速する菌なのです。
たとえば虫歯の治療では、虫歯菌に侵された部分を削り、詰め物をします。しかし、感染した部分を残らず削って取り除いたように見えても、ごくわずかに残っている可能性があります。
また、虫歯菌は常在細菌としてずっと口の中に存在しているため、詰め物と歯の間の、目には見えない微細な隙間から侵入することもあります。
虫歯や歯周病は、かかってしまう前に、感染しないよう心がけることが最も重要です。その方法は、
・自然に持つ免疫成分を含む唾液をしっかり出すこと
・ショ糖を食べるのを控えること
・食事は時間を決めて食べ、ダラダラ食べ続けないこと
などが必要とされています。
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