女性から絶大な人気を誇るLiLyさんがはじめて書いた官能小説「SEX」。
マッチングアプリでのワンナイト、泥沼化するオフィスラブ、セックスレスからの不倫、女の子との官能的な同棲生活、SMーー。
女の心情と現代をリアルに切り取った衝撃作が誕生しました。
発売を記念し、特別に全4回の試し読みを行います。
* * *
Lesson01 女の武器を自分の中に探せ。ーーもし、シビアなゲームに参戦するなら。
黒ビキニ、デコルテアイコン。
名前はmomo。年齢は28歳。
Got my MBA in Boston, US.
OK。「登録」の文字を指先でワンタップ! たった今、作成したばかりの私のページが世の男どものティンダー内に一気に拡散されてゆく。
胸の高鳴りに、私は一人息を呑む。男に飢えてウズく身体は深夜のリビング、ソファの上。ここは参戦したばかりのアプリゲーム。
果たして私は自分に課した目的をクリアできるレベルの女なのか。はじまりを告げるゴングの音が、頭の中で響いている。
「ありえない」「いい加減にして」「どういうことなの」
狭い世界に浸かりすぎて、いつの間にか目が肥えすぎてしまったのか。このアプリユーザーの質が圧倒的に低いのか。それともこれが世の平均なのか。
プロフィールに選ぶトップ画像。それは、狙い撃ちしたい大本命の相手に、唯一といっても過言ではない判断材料にされるもの。オーディションの第一次選考のようなものなのだ、これは。
それなのに、そこに、何故コレを?
登録者たちの神経そのものを疑いながら、スマホ画面に映し出される男たちを次から次へと指で弾く。「NO」を示す左方向へと画面をスワイプし続けている。あまりの嫌悪感から、画面を弾く指先に力が入ってしまう。指紋が1本くらいは消えそうな圧レベルでの高速「左」スワイプ。その速度が上がるとともに、男たちのセンスなき写真がぶっ壊れたメリーゴーラウンドのように視界を駆け巡る。
明らかに不自然なツルッツル美肌加工を、男もするのか……。顔立ちが盛れれば良いというわけではないだろう……。いや、ツル肌フィルターや、うさぎ耳のスノーアプリで自撮りする男に発情する女も、多数存在するという何よりの証拠なのかもしれない。わりと高い頻度で出てくるということは……。
性欲そのものが失せてゆくジレンマとともに、深夜は1時をまわっている。
いや、なにも、他人を馬鹿にしようと思ってここにきたわけではまったくない。その逆だ。真逆だ。腰が砕けるほどエロい男を探しにきた。そうだ、そうだった。それなのに……。本来の目的を見失うほどのカルチャーショックに疲れてきた。が、ここで負けてたまるものか。
登録してまだ1時間も経たないが、このアプリが極めてシンプルなつくりになっていることは理解した。左にスワイプが「NO」、ハートマークが「いいね!」、超気に入った時に押すのがスターマークで「スーパーいいね!」。目を光らせながらも光の速さで、左へのスワイプを続けるのみ。
深夜は2時を、まわる勢い。目の中でコンタクトが乾いている。指先の指紋も、1本くらいは消えたかも。実在しているのかも不明な男がテキトーに設定した、工事現場に置かれた真っ赤なコーンの写真を私は深夜のリビングで見つめている。
これをプロフ画像にするなんて、やる気もヤル気もないとしか思えない。スワイプする指すら止まる。唖然となる、とはこういうことだ。
私、なに、やってんだろ。
脱力させられた怒りでスマホを床に投げつけようかと思った次の瞬間、トンガリコーンの次に出てきた男に、すべての意識が釘付けになった。
他撮りの笑顔、生粋のイケメン。
名前はShogo。年齢は33。
青山でバーを、経営しています。
光の速さでスターマークの「スーパーいいね!」をタップしそうになった。が、落ち着け自分。まずは心の中で、芽生えた感情を言葉にする。
─────見つけた。私、この男がいい。