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東京23区の地名の由来

2019.07.16 公開 ポスト

渋谷区道玄坂には山賊が住んでいた金子勤

東京23区内にある、416の地名のルーツを徹底解説した『東京23区の地名の由来』。葦(あし)が生えていたから「足立区」、古墳のある高い場所だから「竹の塚」、一日に千駄も薪を伐り出したということから「千駄木」など、その土地の歴史や地形の変遷が地名から見えてきます。次の休みは本書を片手にお散歩してみては? 一部を抜粋してご紹介します。

*   *   *

渋谷区

昭和七年、渋谷区が成立した。明治二十二年、渋谷村と宮益坂町が合併して渋谷村となり同四十二年、渋谷町。区名は区役所が旧渋谷町に設置されたことによった(渋谷区史)。両岸の迫った、シボんだせまい谷川をいう。同様の由来を持つ地名は、渋沢・渋川・渋谷・渋谷など全国的に分布している。市では群馬県渋川市などあり。

1 幡ヶ谷

伝説によると、永保二年(一〇八二年)に源義家が奥州征伐を終え、白旗を洗い云々という(武蔵風土記稿・渋谷区史)。本町一丁目に旗洗池があったとされる。現在、幡ヶ谷一~三丁目まである。

2 笹塚

由来は甲州街道一里塚にちなむ。元は幡ヶ谷の字(小名)であったが、昭和三十五年に町名として成立。現在、笹塚一~三丁目まである。笹塚跡は笹塚二丁目にあり。

3 初台

由来は徳川二代将軍秀忠の乳母・初台局が自分の菩提寺として、正春寺を建立したことにちなむ。元は代々木初台といっていた。当区成立と共に、代々木初台、昭和三十六年、初台となり現在に至る。現在、初台一~二丁目まである。正春寺は代々木三丁目にある。

4 千駄ヶ谷

当地一帯は昔、萱野であり、一日に千駄の萱を出したことによる(江戸砂子・江府名勝志)。なお、一駄とは馬が萱(茅)を背中で両側に振り分け、三十六貫・約百四十キロ運ぶことをいう。特に六丁目付近に茅場が多かった。現在、千駄ヶ谷一~六丁目まである。

5 上原

由来は文字通り、一段と高い丘陵地帯であることによる。元は「代々木上原」といった。現在でも、小田急線は「代々木上原」という駅名になっている。駅の南口にギター・マンドリンで知られる古賀政男音楽博物館あり。現在、上原一~三丁目まである。

6 代々木

地名由来として二つの説あり。

(1)村民が生産したサイカチの木などが多く繁茂していた。

(2)彦根藩井伊家の下屋敷にあった樅の老木による。

(1)の説は広い範囲の地形名で、(2)の特定の木説より有力といえる。現在、代々木一~五丁目まである。

7 神宮前

明治神宮の前の方であることにちなむ。神宮は大正九年に落成。祭神・明治天皇、照憲皇太后の二柱。現在、神宮前一~六丁目まである。

8 神山町

昭和三年、渋谷町の字である神山・大山・深町などの各一部が合併して、昭和七年、現行の神山町となる。町名由来は神山、大山、神南などから合成した。渋谷区役所(宇田川町)の隣接町で、大使館などが点在している。現在、丁目はなし。

9 松濤

由来は、江戸時代には和歌山県の紀州・徳川家の下屋敷であった土地に、明治になって、佐賀の鍋島家が狭山茶の茶園・松濤園をつくったことによる。松濤とは、茶道雅名で、茶の湯のたぎる音という。現在、松濤一~二丁目まである。二丁目に鍋島松濤公園あり。

(写真:iStock.com/tapanuth)

10 宇田川町

由来は砂・小石まじりの川・田をいう。全国に分布している地名。「歌川」とも書く。当地の宇田川は細流で、渋谷川に注ぐ。大正元年、文部省唱歌となった高野辰之作詩『春の小川』は、当地渋谷川がモデル。区域内で二・二六事件主謀者処刑。同事件の慰霊碑も建立された。単独町名で、現在、丁目はない。

11 神泉町

江戸時代に、空鉢仙人がここの水で不老長生の薬を練ったため、渋谷町神泉谷と呼ばれるようになった(武蔵風土記稿)。昭和七年から渋谷区神泉町となり、現在に至る。丁目はなし。

12 道玄坂

渋谷川から西へ登って行き、宇田川が大きく曲がった所を大和田という。坂の途中の洞窟に大和田太郎という山賊が住み、旅人から金品を奪い取っていた。晩年、大和田太郎は仏門に入り、名を道玄と改め、過去の罪を悔い改め、物見の老木も切り倒したという。現在、道玄坂一~二丁目まである。

13 桜丘町

当町に桜の木が多く植えられていたことにちなむ。昭和七年に渋谷区の町名となる。現在、丁目はなし。

14 鶯谷町

昭和三年、鶯谷といった。昭和七年、渋谷区の町名として鶯谷町となる。小さな谷川の橋(鶯橋)の下を渡り飛びながら鳴く鶯がその由来である。「鶯の谷渡り」とは、橋から見下ろすと、枝から枝へと飛び渡る姿とその鳴き声のことをいう。現在、丁目はなし。

15 代官山町

この地の林が代官所の管理地(お林山・留山)であったことによる。当地は千葉県の佐倉藩主・堀田正信の屋敷があった。また、「宗吾郎松」という松がある。これは佐倉宗吾郎がこの松の下で拷問を受けたという。現在、丁目はない。東急東横線の渋谷駅の一つ手前に「代官山」駅あり。

16 広尾

古くは渋谷村の広尾原と呼ばれる鷹場があったという。由来は鷹場の尾根が続いていた所と推測できる。寛文八年(一六六八年)に町屋ができ、早くから開けた。現在、広尾一~五丁目まである。四丁目の広い敷地に聖心女子大学あり。

17 恵比寿

町名由来は、サッポロビールの商標・トレードマークから来ている。昭和三年、恵比寿通りとなる。サッポロビール株式会社恵比寿工場のある所は、現在はガーデン・プレイスといって、渋谷区恵比寿四丁目から目黒区三田一丁目までの広大な面積である。そのプレイスの中にサッポロビール記念館、三越デパート、恵比寿神社などがある。現在、恵比寿一~四丁目、恵比寿西・南と広範囲。

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金子勤

1929年、神奈川県横浜市生まれ、早稲田大学卒業。関東地方各都県の地名の由来を研究。2008年に『神奈川県の地名』(神奈川新聞社)を刊行。「長津田宿の歴史を活かしたまちづくり研究会」のメンバーとして、長津田十景などを紹介した「長津田歴史探訪マップ」の編算に携わる。他に大山道今昔(神奈川新聞社)、風車の回る異人館(講談社)などの著書がある。

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