日本人で唯一「YouTube週間チャート世界第1位」を獲得、さらに日本人として26年ぶりにビルボードチャートインした「ピコ太郎」。その再生回数は、なんと累計4億4千万回! 一世を風靡したこのエンターテイナーは、どのようにして生まれたのか? そしてどのようにして一大ブームを巻き起こしたのか? ピコ太郎の「プロデューサー」である芸人、古坂大魔王の著書『ピコ太郎のつくりかた』から、その秘密を探ります。
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みんなに知られることが大事
みんなにウケたければ、まずはみんなに知られること。
わかりやすい例で。
高校時代に同じ部活だった仲間と1年ぶりに会えば、お互いに顔と名前を知っているどころか、相手の性格や趣味、癖までわかっているから、余計な説明なんてしなくてもすぐにわかり合える。前振り無しでギャグへと突入できる。で、ウケる。
初対面の人だらけの場では、こうはいかない。自己紹介から始まり、お互いのことを理解するまで時間がかかる。
場が温まる前に焦って笑わせよう笑わせようとすると「この人何なの?」「この人だけ熱量が違いすぎる」とスベり続ける。
つまり、その場にいる人が、お互いリラックスしていなければ、笑いは生まれにくい。
僕の持論に「転校生の原理」がある。
クラスに転入生が入ってきた初日、人間関係ができ上がっていない状態では、その人の情報もないし周りが慣れていないから、その人のギャグが馴染まない。
そんな場所で、たとえおもしろいことを言っても笑いは起きない。
かたや、クラスの人気者が同じことを言えば、すぐさま笑いに包まれる。
クラスの人気者のことはみんな知っている。みんながリラックスして見ていられる安心感がある。クラスのみんなが心を開いているからだ。
単純だけれど、ある程度有名なほうがウケる。笑いは、その技術よりも周囲の空気が生み出すものだったりする。
若手芸人時代、「転校生の原理」に気づく前の僕は、場の空気を読み間違えて外してしまうことがあった。
では、どうやって知ってもらうか?
テレビに出始めたばかりのとき、僕のことなんか誰も知らないのに、10万円自腹を切って全身NASAの宇宙飛行士の格好で登場し、クラッカーをパーン! と鳴らしたことがある。
僕の好きな予定調和を壊す笑い「のつもり」だった。
しかし、こんなことを若手芸人がやったところで……ウケるわけがない。
テレビの前の視聴者や共演者から「お前誰なの?」と顰蹙を買っただけだった。
でもたけしさんがこういうことをやれば、みんな無条件に笑う。
それは、たけしさんという存在、キャラクターを、誰もが認識しているからだ。たけしさんはムチャクチャをやる人だ! おもしろい人だ! ということをみんな知っている。だからリラックスして笑えるのだ。
つまり、ウケるためにはみんなに知られていないといけない。
「マス」に認知されるようになれば、世間にとって「転校生」ではなくなる。
どこに行っても「あそこにいるのはピコ太郎じゃないか」「お? Pの古坂大魔王だな」とリラックスしてもらえるようになればこちらのものだ。
「ピコ太郎? 知ってるよ? でも、単純すぎておもしろくない」とSNSに投稿する人もたくさんいた。でも、ポイントはそこじゃない。世界中の人に知られることこそが、世界中の人におもしろいと思ってもらうためにとても重要なことなのだ。
「PPAP」の動画しか見たことがない人には意外かもしれないが、ピコ太郎はフリートークになると理解できない言葉を連発する部分もある。
たとえば、テレビの真面目なインタビュアーとのやり取りはこんな感じになってしまう。
「最近何やってるんですか」
「噴水、出た瞬間に乗って遊んでます」
「え、それ本当ですか」
「どういうバイトしてるんですか」
「カナブンに角つけてカブトムシと言って売ってます」
こんな笑いは、なかなか理解されない。
僕が好きで、僕の「好きなタイプ」が詰まった「ディープ」な笑いをピコ太郎が見せようとすると、きっと客はつかないだろうと思った。
僕は周りから理解されない笑いを、誰よりもやってきたからこそわかるんだ。いや、それしかできなかったというのが正解であるが。
知られるということ。その方法を考えることが大切だ。
転校生の立場じゃ、誰も笑ってくれない。