日本人で唯一「YouTube週間チャート世界第1位」を獲得、さらに日本人として26年ぶりにビルボードチャートインした「ピコ太郎」。その再生回数は、なんと累計4億4千万回! 一世を風靡したこのエンターテイナーは、どのようにして生まれたのか? そしてどのようにして一大ブームを巻き起こしたのか? ピコ太郎の「プロデューサー」である芸人、古坂大魔王の著書『ピコ太郎のつくりかた』から、その秘密を探ります。
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その時代の「裏面」をやる
パッと見てわかりやすいものでないと、多くの人には伝わらない。
でも、わかりやすいだけで何にもこだわっていないものが、当たることなどない。
絵画にも演劇にも、音楽にもお笑いにも共通することだが、アヴァンギャルド・アート(前衛芸術)的なシュールさを追求しすぎると、自分以外誰にも意味が伝わらない超自己満足のかたまりになってしまう。
かといって大衆受けすることを意識しすぎると、とんがった表現が全部そぎ落とされてつまらなくなる。
ここのバランスが大切で難しい。
「PPAP」はくだらないけれど、超こだわって作っている。
編集だけで2~3週間。1フレームずつ変えて、毎日見て、つまんなかったらまた変えてというのを繰り返し。
「パッと見てわかる」ようにするためにはすごくこだわらないといけない。
やっぱり、こだわらないで作ったものがたまたま流行るほど世の中は甘くなかったりする。似たようなものは世界にいくらでもあるからだ。
僕の場合、ピコ太郎と「PPAP」を作ろうというときに、もともと世界に流行らせようなんて思ってもみなかった。ただ、日本のお笑い、日本の音楽の中にないものを探そうとしていた。
誰もやっていないことを探さないといけない。今の世の中はインターネットでつながっているので探すのが難しいのだが、誰もやっていないことはまだある。
それを探すためには、やっぱり勉強しないといけない。知識がないといけない。そのために、いろんな音楽を聞いて、いろんなものを見て、「あ、これはまだやっていない」「これが今流行っている」と探さないといけない。
お笑い芸人は、音楽ネタで、さらに幼稚園児でもわかるおもしろダンスとバカなネタなんて……基本、誰もやりたがらない。邪道でレベルが低いと思われてしまう。だから、こだわってそこをやる。
その時代の「お笑いの裏面」をやるということ。
「マイナス×マイナス」でプラスになる
その一方で、音楽もとことんマニアックにこだわる。プロの技術を用いながらである。
「PPAP」のバックトラックは、「TR‐808」っていうローランドのリズムマシンを使っている。
所々耳につく「プーン、プーン」という音は、カウベルという音。これは、20~30年ぐらい前にヒップホップ界の人がよく使っていた。もっと言えば、YMOが使って有名になった音でもある。
普通は、コーン! コーン! っていう音がするのだが、電子音で作ったらうまくいかず、この「プーン」という音になったらしい。
カウベルは、テクノ界ではすごく有名で、それをダンスミュージックで使っている音源はあったが、「PPAP」のように使っているものはほとんどなかった。
こういったこだわりは、誰も気にしていないし、誰も知らないけれど、曲を作っている人はわかるもんで。カウベルの音をでっかくして「PPAP」の中で鳴らしたら、やっぱりDJ界でワサッと反応があったのだ。
つまり、「お笑いの裏面」と「音楽の裏面」を掛け合わせた。
マイナス×マイナスでプラスに切り替わると思ったのだ。
裏の裏は表だった。
古坂大魔王単独ライブでゲストのピコ太郎が「PPAP」を初めて披露したとき、客席に配布しておいたアンケートを見ると、ライブ全体の多くのネタの中で、ピコ太郎がダントツの人気だった。ライブのメインだったはずの僕、古坂大魔王を、前座のピコ太郎が完全に食ってしまったのだ。