日本人で唯一「YouTube週間チャート世界第1位」を獲得、さらに日本人として26年ぶりにビルボードチャートインした「ピコ太郎」。その再生回数は、なんと累計4億4千万回! 一世を風靡したこのエンターテイナーは、どのようにして生まれたのか? そしてどのようにして一大ブームを巻き起こしたのか? ピコ太郎の「プロデューサー」である芸人、古坂大魔王の著書『ピコ太郎のつくりかた』から、その秘密を探ります。
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積極的に海外へ攻めていこう
僕はピコ太郎が世界でこれだけの人気を獲得するとは最初は思ってもみなかった。
日本語で歌ったCDを日本だけで販売し、ウェブサイトでも動画チャンネルでも英語表記をまったく使わない。これではせいぜい曲が10万ダウンロードされる程度のヒットにとどまる。
1億人の市場を相手に10万ヒットするのなら、10億人の市場では100万のヒットに広がる。50億人の市場へ斬りこめば、500万ダウンロードされるかもしれない。母数を最初から少なく設定するのではなく、どうせなら世界人口を分母に物事を考えたほうがいい。自分で自分の可能性を狭めないほうがいい。今やアメリカでもブラジルでも僕の音楽が聞かれ、アフリカの部族がスマートフォンで僕の音楽を聞く。これこそグローバリズムの醍醐味だ。
僕も世界に出てみて初めて実感したのだけれど、日本人は世界で驚くほどいっぱい活躍している。無論アニメ市場が主であるが。
日本人は検索も日本語でやるから、英語のニュースをほぼ見てなくて、そこに気づかない。
ツイッターで「ピコ太郎、もう日本じゃなくて、海外かどこかでやっていればいいのに」とよく言われたりする。
つまり、日本と海外を別だと思っている。
音楽界も「洋楽ランキング」というふうに、未だ日本と海外を分けている。その昔ならわかるけれど、もうネット時代になって何年経つ??
でも、日本って、海外から見れば海外ですよね。日本も世界の一部なのです。日本も海外も同じなのにとすごく思う。
もちろん日本の伝統文化、さっき書いた「間」や、伝統芸能の歌舞伎などはしっかり守っていかないといけない。
でも、守りながらも攻めないと、伝統が死んでいく。特に今はインターネットで、世界がつながっているのだから。
鎖国政策のように日本語圏内に閉じこもるのではなく、ブロークン・イングリッシュでもまったく構わないから、いきなり世界市場をねらうべきなのだ。翻訳ソフトもアプリもあるし、ユーチューブなんかは勝手に翻訳してくれる。言葉を身につける必要すらない時代もすぐそこだ。
世界の人々は、日本から生み出されるきめ細かく美しい表現、クールな音楽やアニメーションを渇望している。
実際、アニメがオンエアされたその日の夜に、英語字幕がついた海賊版が違法サイトに流れる。
熱量と情熱を燃やせ
世界へ戦いを挑むときに大事なのは、泥臭いようだが熱量と情熱だ。
日本で暑苦しい理想を語ると「なんかダサッ。お前、今超必死じゃん」と嘲笑される。
「そんなダサすぎること、今どき誰もやってないよ。オワコンじゃん」と鼻で笑われる。
世界では誰もそんなことは言わない。みんなハングリーだ。
僕もそんな妥協はカッコ悪いと思うから、人から何を言われようが熱量と情熱を燃やしながら突き進んできた。ピコ太郎と一緒に世界に勝負を挑んだ。
ピコ太郎に恥ずかしさはない。
まずあの格好でまともにしゃべるとは思われていない。
それでも、ちゃんと言わないといけないことは、グーグル翻訳を見て「あなたに会えて光栄です」って何て言うんだろうとか、「あなたのあのプレーは素晴らしかったです」ってどう言えばいいんだろうとか、その場で調べている。
基本としては、「オレなんか」と思っている。だから失うものがない。失うものがない人間は強い。
現在も僕のマネージャーを務めてくれている男は、かつて上司から「古坂大魔王はなんで頭ひとつ突き抜けないんだ。お前は古坂をどうやって売るんだ」と会議室で詰め寄られたことがあるという。
そのときマネージャーは「時代がついてきていないんです。時代がついてきたら絶対売れます」と迷いなく即答した。
まさかそんな答えが返ってくると思わなかった上司も他の同席者も、会議室で大爆笑したそうだ。
マネージャーも一緒になって、
「今に見てろ。オレたちは時代の先を行っているんだ」
そう信じて仕事をしていたら、本当に時代がピコ太郎に追いついて、ドン! と世界に押し出してくれたのだ。
体温を上げ、湿度を上げよう。熱を帯びた体で、世界に飛び出して勝負しよう。