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ほかに誰がいる

2019.07.18 公開 ポスト

#6 丸い箱…破滅へ向かう少女の恋朝倉かすみ

ほかに誰がいる? わたしの心をこんなにも強くしめつける存在が。憧れのひと、玲子への想いを貫くあまり、人生を少しずつ狂わせていく16歳のえり。玲子――こっそりつけた愛称は天鵞絨(びろうど)――への恋心が暴走する衝撃の物語を、冒頭から抜粋してお届けします。ヤミツキ必至!大注目作家の話題作。
 

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6

大きめの箱を買った。

クリスマスシーズンに見つけた箱は、蝋(ろう)引きの厚手の紙に、オールドローズが描かれている。つばの広い帽子をしまうのにちょうどいいような円(まる)い箱だ。

その箱にノートや写真や天鵞絨からの手紙を入れた。

(写真:iStock.com/chokchaipoomichaiya)

ポスターも入れた。外国の町並みを空撮したものだ。海も空も青い。青は、ここまで青くなければ嘘(うそ)だというような青だった。

ポスターの景色にはオレンジ色の屋根をいただいた石造りの家が並び、白い道が蜘蛛(くも)の巣状にのびている。そこを旧い年式の車が走っている。車は水色だったりミント・グリーンだったりした。あちこちに、こんもりと葉を茂らせた木が立っている。

わたしは、わたしと天鵞絨を、写真から切り抜き、そのポスターに貼(は)った。すると、わたしたちは、空からそのまちへ、いままさに降りていこうとしているようだった。

ここをわたしたちの家にしよう。ポスターのなかの、いちばん大きな家をそう決めた。

そして、わたしたちは、がちょうやにわとりやうずらを飼って、たくさんたまごをかえすのだ。雛(ひな)たちは、ぴいぴい鳴いてやかましいだろうが、わたしたちは微笑(ほほえ)んで顔を見合わせるだろう。

朝倉かすみ『ほかに誰がいる』

ほかに誰がいる? わたしの心をこんなにも強くしめつける存在が……。憧れの“あのひと”への想いを貫くあまり、人生を少しずつ狂わせていく16歳のえり。淡い恋心が暴走する衝撃の恋愛サスペンス。

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ほかに誰がいる

女友達への愛が暴走し狂気に変わる……衝撃のサスペンス

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朝倉かすみ

北海道生まれ。北海道武蔵女子短期大学卒業。二〇〇三年「コマドリさんのこと」で第三七回北海道新聞文学賞、〇四年「肝、焼ける」で第七二回小説現代新人賞を受賞。著書に、『田村はまだか』(第三〇回吉川英治文学新人賞、光文社)、『満潮』(光文社)、『てらさふ』(文藝春秋)、『植物たち』(徳間書店)、『平場の月』(第三二回山本周五郎賞、光文社)などがある。

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