ほかに誰がいる? わたしの心をこんなにも強くしめつける存在が。憧れのひと、玲子への想いを貫くあまり、人生を少しずつ狂わせていく16歳のえり。玲子――こっそりつけた愛称は天鵞絨(びろうど)――への恋心が暴走する衝撃の物語を、冒頭から抜粋してお届けします。ヤミツキ必至!大注目作家の話題作。
* * *
15
頭のなかがざわめいている。
いっときも休まない。
放熱のために、わたしは動かなければならなかった。
雪が溶けかけたこの季節の道路は、はばが狭まっているうえに、わだちが残っていて、歩きづらい。それは自転車でも同じだ。
日に何度も公園にいった。
もう、天鵞絨と「かれ」にでくわす心配はなかった。天鵞絨と「かれ」は、かれらの場所を見つけていた。それは「かれ」の部屋だ。あるいは「かれ」の車のなかだ。
実にさまざまな考えが、次から次へとわたしの頭のなかのあちこちで同時に浮かんできて、困っている。わたしの頭が、少しずつ膨らんできていた。
わたしは、わたしの頭のなかに、なにかいるぞと目星をつけた。パタパタ、パタパタとかそけき音がする。足音にちがいないと思い、それならとても小さな足だと思った。ネズミだとわかるまで、さほど時間はかからなかった。ネズミたちは、小さな頭に王冠をのせている。そうして、ひどく忙(せわ)しく動き回っているのだった。
わたしの頭のなかで、小さなネズミたちは勝手にそれぞれ王国をつくり、法律を制定しているらしかった。
わたしがそれに対してなにか意見を持とうとすると、たちまち法律を改正する。
わたしの頭が、焼かれたお餅(もち)みたいに熱くなる。ぽん、と、頭皮がやぶれ、ネズミたちが飛びだしてくるのではないかな。
ぽん、ぽ、ぽん。
王冠をのせたネズミたちが、ポップコーンマシーンのなかではじけるコーンのように笑いながら勢いよく飛びだしてくる。なんて癇(かん)に障る声なんだ。それに、あの桃色の鼻の色合いのいやらしいこと。
奥歯をきつく噛み締めるので、わたしは顎がだるくなった。こめかみに青筋が立っている。頭のなかから飛びだしたネズミたちに、そこを齧られ血が噴きだしでもしたら、それこそ一巻の終わりだ。
わたしは、頭から熱を放出しなければならなかった。
頭のなかの熱を、からだの動きで逃がしてやらなければならなかった。
わたしは、だから、疲れていた。
ほかに誰がいる
女友達への愛が暴走し狂気に変わる……衝撃のサスペンス
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