神社でうっかり神様に失礼なことしてるかも!?願い事する前に『古事記』を学ぼう！桂竹千代（落語家）

神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いします。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてるのに、神様のこと、ちゃんとわかっていますか？
日本の神様について書いてあるのが「古事記」です。
「古事記」って、歴史の教科書でも最初の方に出てくるし、知らない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないのではないでしょうか？
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を笑いたっぷりに解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね！

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はじめに

ボク、桂竹千代は大学・大学院(修士)で古代史を専攻していました。

そして落語家になりました。
 

歴史はロマンに溢れてます。

歴史というものは遡るほどに謎が多いもの。

特に古代は、史料がないから何とでも言えちゃう……ってところがあります。

ヤマトタケルが白鳥になったとか、聖徳太子が10人の訴えを1度に聞き分けたとか、3本足のカラスがいたとか、今だったらあり得ないことが書かれていても、「昔のことだからホントにあったかもしれないなー」と0.0000001%の可能性を、思わず信じてしまうのです。

現代に生きる我々にとってはでたらめに思えることでも、古代人にとってはそれが現実として受け入れられていたのかもしれません。

日本最古の歴史書と言われるのが『古事記』です。

ここには人間以前の歴史、つまり神々の歴史も記されているのが大きな特徴です。

『古事記』という名前は聞いたことがあっても、具体的にどんなものかと言われたら説明できない方も多いことでしょう。

ということで、少しご説明します。

『古事記』は、上・中・下巻の3巻セット。

このうち上巻が神々のお話で、他2巻は天皇中心のお話です。

中巻は、初代の神武天皇(じんむてんのう。3本足のカラス、ヤタガラスがここで登場。あのサッカー協会のマーク)から15代目の応神天皇(おうじんてんのう。全国にある八幡宮に祀られている八幡神！)まで。

下巻が、16代目の仁徳天皇(にんとくてんのう。日本一、いや面積的には世界一大きな古墳！　祝世界遺産！)から33代目の推古天皇(すいこてんのう。日本初の女帝！)まで。つまり中～下巻は人間のお話となります。

こんな風に3巻セットになってるわけですが、一般的な『古事記』のイメージって、この上巻部分のことだと思います。そして、こここそ『古事記』のハイライト、一番面白いところと言っても良いでしょう(出オチとか言わないで！)。

神々によって天地が作られ、日本列島が作られ、自然が作られ……。

とんでもなく壮大な話です。

で、あの世に行ったり、怪物と闘ったり、自分が生んだ息子殺しちゃったり、ウサギがしゃべったり、ウン〇撒き散らしたり、海の中で普通に生活できたり……。

「イヤ何言ってんだよ！」

「んなわけねーだろ！」

ってツッコミどころが盛り沢山です。

これが国の歴史書なの？

ホントにこれでいいの？

って思っちゃう人もたくさんいるでしょう。

とは言っても、実は世界を見ても、神話ってのは破天荒なものが多いんですよ。例えばギリシャ神話の最高神・ゼウスは絶倫過ぎてガチョウまで口説くんですが、その時わざわざ白鳥に化けて口説きます(谷啓もビックリだ！　ガチョ～ン)。絶世の美女と言われるアフロディーテ(ビーナスともいう)は、天の神様の息子が天の神様（つまりお父さん）のチン〇を切って海に投げたら生まれます(いや～ん！)。神話というのは、現代人にとってみれば、はちゃめちゃなことばかり起こります。科学の発達した世の中で、こんなことを真に受けたら、変人扱いされてしまうでしょう。

「じゃあ、こんなでたらめの歴史は読まなくていいや！」……って思ったそこのあなた！　ノンノンノン！！

こんな神話が、ボク達の生活の中に今でもしっかりと生きています。

実際、日本にはたくさんの神社があって、そこに祀られているのは、ほとんどが『古事記』に登場する神々です。そんなはちゃめちゃな神々に、あなたも手を叩いて拝んでいますよね。

こんなに文明が進んだ世の中でも、最後はみんな「神頼み」しているんです。

我々の心の中に、いつだって神はいるのです(何か怪しいセミナーみたいになってきた)。

 

日本には八百万(やおよろず)の神様がいると言われています。多神教ですね。キリスト教やイスラム教は一神教で、神様は一人だけ（「ひとり」って数えてていいかどうかはさておき)。

『広辞苑』によれば、八百万というのは、無限を意味する表現のようです。日本神話にはよく「八」という数字が出てくるんですけど、これは実数としての「8つ」ではなくて、数が多いということも意味します。それでいうと、八百万はというのは、すげーいっぱいってことになります。

どこにでも神が宿ります。

山にも海にも木にも石にも神様はいるし、トイレの神様だっている(©︎植村花菜)。

日本ではこうして、ありとあらゆる神様を認めてきたので、過去に外国から仏教が来てもキリスト教が来ても最終的には受け入れられてきたのでしょう。

 

結婚したら教会で式あげて。

お葬式ではお経読んで。

初詣は神社で。

……こんな節操がない国は他にないです。これは根底に、八百万の神の思想があるからだったんですね。

 

そんな身近な神様なのに、皆さんは神様のことを何も知らずに拝んでませんか？

神様だって、いきなり自分のことを知らない人がパンパン手を叩いて「学業成就」なんて願われたら、ビックリしますよ。

そこに祀られてるのが大国主命(オオクニヌシノミコト)さんなら、「おれ、縁結び専門なんだけどー」って言いたいはずです。

誰かに頼みごとをしに行くときに、相手のことを全く知らずには行きませんよね？

きっと相手のことを調べてから行くはずです。それが礼儀ってものです。

同じように、神社にお願い事をしに行くのなら、神様のことも知っておくべきですよね。

21世紀の今も、古代の神々は生きているのです。

「じゃあ神々の歴史を勉強しよう！」と言って早速『古事記』を読もうとしたあなた、かなりの確率で早々に挫折します。神様の名前がひっきりなしに出まくるので(まさに八百万！)、ややこしいのは間違いありません。読み始めでやんなっちゃうでしょう。

大学院で古代文学を専門として学んだボクですら、全ての神様の名前は覚えてませんから。

でもご安心ください。主役となる神はほんの一部です。他はエキストラです(神様ごめんなさい)。

というのも、一度しか登場しない神がとっても多いんです(混乱しないように、本書では、そういう神は省いていきます！)。

だから、主役となる神だけを捉えられれば、神々の時代が見えて来ます。

日本人としてこんなオモシロイものを知らないともったいないと思ったので、こうして筆を執りました。

『古事記』を全部解説したら長いです。

ただただ神々の名前が羅列されていて、退屈な部分もあります(寿限無みたい！)。

なので、『古事記』を全て読んだ私が、上巻(神々の巻だよ)のオモシロトピックだけを引っこ抜いて、時にはツッコミながらお話しします。ツッコまないと到底理解できない神様の物語がそこにあります。

エロもあります。そこは省きません。

落語家という特性を生かして、わかりやすく、楽しんでもらえるように書きました(中には想像の会話もあるし、脱線も多いけど許してね！)。

では早速「古事記」の成立からお話ししましょう。