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とんでもない甲虫

2019.07.17 公開 ポスト

昆虫学者のフンに集まるナミビアの美麗な虫丸山宗利(九州大学総合研究博物館 准教授)

とげとげ、もふもふ、まんまる、くしひげ、くびなが……。昆虫の概念がひっくり返る、279種のおかしな甲虫を厳選したビジュアルブック『とんでもない甲虫』(丸山宗利・福井敬貴著)が好評発売中!
本書でも登場する「砂漠にすむゴミムシダマシ」に長年あこがれていた昆虫学者の丸山宗利さんは、2019年1月、ついに砂漠の国ナミビアへと採集旅行に出かけました。
本書の刊行を記念して、丸山さんのナミビア採集旅行記を連載でお届けします。

*   *   *

出発前にダメ押しで砂漠を歩く。

砂漠を出て、森林地帯へ

2月7日。今日からは北上して森林地帯へと移動する。
早い時間に宿を出たが、小野さんが名残惜しそうなので、ダメ押しで砂漠に寄ってみる。しかし、よい時間になっても、キリアツメはあらわれなかった。残念無念である。

また来ようと誓い、次の場所へと向かうことにした。
後半の最終目的地はツメブという町の近くなのだが、今日の目的地は未定で、とりあえず北上し、行く途中で宿を決めようということになった。
白川さんが気持ちよさそうに眠るなか、小野さんと交替で運転しつつ、あーだこーだと場所を考えながら車を走らせる。

次なる場所へ。

北上するにつれ、だんだんと緑が濃くなっていくのがわかる。
それは地図を見ても明らかで、砂漠と対照的な光景である

緑が濃くなっていく。

そうこうしているうちに、夕方が近づいてきた。
オチワロンゴという町にさしかかる直前、小野さんがネットでよさそうな宿を見つけた。急いで予約し、そこへと向かう。
しかし、到着してみると、宿のゲートが閉まっているではないか
どうしようかと右往左往していると、宿の敷地を整備する使用人がちょうど通りかかり、解錠してもらうことができた。

偶然、使用人が通りかかった。

宿に到着すると、年配の夫婦がやっている新しい施設だった。ネットの予約は見ていなかったそうで、よく入れた、運がよかったとのことだった。
部屋はテントの上にしっかりとした屋根をつけた構造で、テントのなかはきちんとした部屋になっている。
そしてそこからは一面のアカシアの森が見わたせるようになっていた。
これは夜に虫があつまりそうだ。

テント状の部屋。
いかにも虫が集まりそう。

自炊の宿ではないので、奥さんに料理をおねがいした。
暗くなってから宿のまわりを見まわると、灯りの下にいろいろな虫があつまっている。
灯りはどれもLEDで、通常ならあまり虫があつまらないのだが、なにしろほかに灯りがないので、効果がすごい。
また、周囲のサバンナを歩くと、実にいろいろな虫がいた。ゴミムシダマシや大きなスカラベなど、無数の虫である
ここはすごい。たまたま見つけた小野さんのおかげである。

大きなスカラベ。

とくにうれしかったのは、前から見たかったゾウゴミムシダマシというゴミムシダマシで、ゾウのようにずっしりとしてかわいらしい。うごきもにぶい。

ずっしりかわいいゾウゴミムシダマシ。

耳をつんざくような大きな声で鳴いているコオロギもいた。つついてみると、鳴きながら怒って逃げていくのがおもしろかった。

でかいコオロギ。


かわいらしい大きなササクレヤモリも見つかった。

かわいいヤモリ。

ここは1泊だけなので、翌朝、朝食をいただいて出発することにする。すごい虫の量だったので、ぜひまた訪れたいところである。
朝食後、食堂にあるトイレで用(大)をたす。その後、食堂の付近を散歩していると、ものすごい数の糞虫が飛んでいることに気づいた。
ガレッタやギムノプレウルスという属の、緑色や赤の美しい糞虫である。
よくみると、食堂のトイレから、その横にある穴に、そのまま私のしたブツが流れているではないか。そこに集まっていたのだ。

大量の美しい糞虫。

いろとりどりの糞虫に感動。
白川さんにそれを伝えると、私のブツであることを気にせず、夢中で観察していた。都会的な女の人っぽい見た目とのギャップに感心した。

糞虫に夢中の白川さん。

それから宿を出て、さらに北へと進む。
今日の目的地はオタビとツメブという町のあいだにある宿である。
しかし、明日向かう予定の、最終目的地のツメブにある宿がまだ予約できていないので、まずはそのツメブの宿まで予約に出かけることにした。
とはいえ、往復200キロもある。

無事に予約。引き返して、今日の宿泊予定の宿へと向かう。
ここもすてきな宿で、森のある斜面のコテージのようなつくりになっている。
ベランダで光に集まる虫を観察するので、できるだけほかの部屋とは遠いところにしてほしいと事前にたのんでおいたのが正解だった。

森のなかの離れ。

夕食後、玄関に電球をぶらさげて、光に集まる虫を観察する。
言いわすれていたが、ナミビアの森林やサバンナはほとんどが私有地で、しかも多くは牧畜をしているため、柵でかこわれている。
だから、日本で昆虫探しをするような感覚で、適当な森や林道で虫をさがすわけにはいかない。
多くの宿は広大な敷地をもっているので、事前に宿の人にことわりをいれ、私有地のなかで虫を観察させてもらうのである。
これは事前に外国人の研究者たちから念をおされたことだった。
灯火観察は好調で、かっこいいカミキリムシヤママユガなどが飛来した。

玄関で灯火観察。

翌日は宿の敷地を歩きまわる。しかし、昼前には猛烈に暑くなり、予想外に虫が見つからなかった。

いまひとつだった昼間の調査。

それでもフトタマムシを見つけたり、私の大好きな多肉ガガイモ(植物)も発見することができてたのしい。

フトタマムシをつかまえた白川さん。
ガガイモの一種。

コテージのある斜面の下はサバンナが広がっていて、その晩は3人でそこを歩くことにする。
しばらくすると、目の前で巨大な動物が立ちあがった
「あああああ!!! バッファローだ!!!」
バッファローはサバンナでいちばん危険な動物のひとつである。3人で一目散に逃げた。
だが、その後にいろいろな動物を観察するうち、あの動物はじつはヌーだったのではないかというはなしになった。
あまりよく見えなかったのと、びっくりしたのとで、あわててしまったのだった。
しかしヌーであっても、近くを歩いているのはちょっとこわい。

翌朝は北部最後の目的地であるツメブに向かって移動である。
筒井さんがドローンを置いていってくれたので、撮影してみようということになった。
すこし練習してみると、案外できそうだ。


しかし、しかし……!
調子にのって操縦していたら、私の操作ミスで、ドローンが墜落してしまった。以下、その映像をおたのしみください。

果たしてドローンは壊れた。しかし、この墜落がなければ、あとで大変なことになることを、われわれは知る由もなかった。
気を取りなおして、さらに北へと向かった。

 

★うみねこ博物堂・小野広樹さんによるナミビア旅行記をこちらで同時公開! あわせてご覧ください。

関連書籍

丸山宗利/福井敬貴『とんでもない甲虫』

とげとげ、もふもふ、まんまる、くしひげ、くびなが……。硬くてかっこいい姿が人気の「甲虫」の中でも、姿かたちや生態がへんてこな虫を厳選。飛べない!? 毛深い!? 眼がない!? おどろきの279種を、美しい写真で楽しめる。

丸山宗利/ネイチャー&サイエンス/構成『きらめく甲虫』

こんな色合い見たことない! 想像を超えた、生きる宝石200 まるで銀細工のようなプラチナコガネ、日本の伝統紋様さながらに多様な柄をもつカタゾウムシ、虹色の輝きが美しいアトバゴミムシ……。硬くて強そうな見かけの甲虫はそのかっこよさで人気があるが、本書では甲虫の中でもとくに金属光沢が美しいもの、珍しい模様を背負っているもの、色合いが芸術的なものを厳選して紹介してゆく。ピントが合った部分を合成して1枚に仕上げる「深度合成写真撮影法」により、甲虫の持つ美しさが楽しめる!

丸山宗利『ツノゼミ ありえない虫』

奇想天外、ユニークすぎる形を特殊撮影法で克明に再現! 世にもフシギなかたちの昆虫「ツノゼミ」を138種類掲載した、日本ではじめてのツノゼミの本。ツノゼミはセミではなく、カメムシ目に属する昆虫。体長2ミリ~25ミリほどの小さな虫ながら、ツノのかたちをさまざまに進化させていて、まるで空想の世界のような姿をしている。深度合成写真撮影法で撮影し、すべての部分にピントがあった写真を掲載。面白い姿をすみずみまで楽しめる一冊。

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とんでもない甲虫

『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』につづく、丸山宗利氏の昆虫ビジュアルブック第3弾!
硬くてかっこいい姿が人気の「甲虫」の中でも、姿かたちや生態がへんてこな虫を厳選。
標本作製の名手・福井敬貴氏を共著者に迎え、掲載数は過去2作を大幅に上回る279種!
おどろきの甲虫の世界を、美しい写真で楽しめます。
この連載では『とんでもない甲虫』の最新情報をお届けします。

●パンクロッカーみたいだけど気は優しい――とげとげの甲虫
●ダンゴムシのように丸まるコガネムシ――マンマルコガネ
●その毛はなんのため?――もふもふの甲虫
●キラキラと輝く、熱帯雨林のブローチ――ブローチハムシ
●4つの眼で水中も空中も同時に警戒――ミズスマシ
●アリバチのそっくりさんが多すぎる! ――アリバチ擬態の甲虫 など

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丸山宗利 九州大学総合研究博物館 准教授

1974年生まれ、東京都出身。北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。国立科学博物館、フィールド自然史博物館(シカゴ)研究員を経て2008年より九州大学総合研究博物館助教、17年より准教授。アリやシロアリと共生する昆虫を専門とし、アジアにおけるその第一人者。昆虫の面白さや美しさを多くの人に伝えようと、メディアやSNSで情報発信している。最新刊『アリの巣をめぐる冒険』のほか『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』『とんでもない甲虫』『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』『カラー版 昆虫こわい』『昆虫はすごい』など著書多数。『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』『角川の集める図鑑 GET! 昆虫』など多くの図鑑の監修を務める。

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