落語家・桂竹千代さんが笑いたっぷりに繰り広げる「古事記」解説。
古事記と言えば、神様の話。
神様と言えば、出雲。
つまり出雲と言えば、神様の国。
そう! 出雲を舞台にした物語に突入です。
みんな大好き「いなばの白ウサギ」も登場しますよ。
* * *
第10話「81回目のプロポーズ」
ここからはオオクニヌシが主役の、出雲神話のスタートです。
舞台は山陰地方へ移ります。
ちなみにオオクニヌシは奥さんがたくさんいて、子供が181柱もいたと言われます。
子供生むの得意なのは、舞台が山陰(産院)だからかな! たけっちです!
オオクニヌシには名前がたくさんあります。大穴牟遅(オオナムヂ)、葦原色許男(アシハラノシコオ)、八千矛(ヤチホコ)、宇都志国玉神(ウツシクニタマノカミ)。別名たくさん。物語によって性格や立場が変わるので、その都度使い分けているようですが、便宜上オオクニヌシと言っておきます。
ペンネーム、ハンドルネーム、ラジオネーム、リングネーム使い分けてるみたいなもんです(ホントかよ)。
彼には兄弟が80人います(シャケかよ。あ、正しくは「80柱」だね!)。これを八十神(ヤソガミ)と言います。このヤソガミが全員、因幡(いなば。現・鳥取県東部)に住む八上姫(ヤガミヒメ)を好きになります(女ってこの世に1人じゃないんだぜ? )。そして81柱兄弟全員が、同時に八上姫にプロポーズに行きます(こわ!)
ちなみに、八上姫は「八」の上と書くから、つまり「九」です。そこに皆でキュウコンに行くって面白いじゃないですか。
末っ子のオオクニヌシはイジメられてるので、ヤソガミの荷物を全部持たされて、後ろの方から付いて行きました。
ヤソガミ達が岬に来ると、一羽のウサギが苦しんでいます。
ヤソガミA「どうしたのウサギさん?」
ウサギ「サメに毛皮剥がされちゃって痛いんです~!」
この「サメ」なんですが、『古事記』には実は「ワニ」と書いてあります。
でも日本には元々ワニが生息しないのと、鮫をこの辺りの方言で、「ワニ」と言うらしいので、サメのことだとされています。
ヤソガミB「おう、ウサ公、心配すんなよ! 海水浴びて風にあたってりゃ治るぜ」
ウサギ「ほんと? ありがとうございます!」
その通りやると、皮膚はもっとただれて痛くなります。そりゃそうですよね。傷口に塩塗っちゃってるわけだから。ちょっとは考えてウサピョン!
こういう間違ったアドバイスというのは、寄席の楽屋でもよくあります。
落語家は弟子入りして入門すると、まず4年間の前座修行があるのですが、まず楽屋入りして、先輩方に教わるのが師匠方への「お茶の出し方」です。
師匠によってお茶の好みがそれぞれ違います。濃いのがいいとか、薄いのがいいとか、熱いのがいいとか、ぬるめがいいとか、冷たいのしか飲まないとか、ノンカフェインじゃないとダメだとか……それを覚えることから始まるわけです。また、お茶を出すタイミングもそれぞれ違います。
ある時、、、でした。ボクが楽屋にいた師匠に「お茶でございます」とお茶を差し出すと、その師匠は「ありがとう」と言ってお茶をすぐ机の上に置きました。これを見ていた某先輩が、
Kアニさん「おい、お前ちょっとこっち来い!」
竹千代「はい、アニさん」
Kアニさん「お前な、さっき師匠が、お茶受けとって、すぐに机に置いただろ? あれは飲むタイミングじゃなかったんだよ。飲みたいときは受けとったらすぐに口つけるんだから。お茶出しはタイミングが肝心だぞ」
竹千代「かしこまりました、すみませんアニさん」
Kアニさん「おれが見本見せてやるから、そこで見とけ!」
アニさんがお茶を持って別の師匠のところへ行きます。
Kアニさん「師匠、お茶でございます」
師匠「そこ置いといて」
受け取りすらしない!! ……だって、その師匠着替えの途中だから最悪のタイミング。
Kアニさん「見たか? こんなもんだよ」
いや、どんなもんだ!!
かわいいアニさんです。
話をウサギ(三遊亭ウサギ師匠っているのよね)に戻します。
さらに痛がっていると、一番最後にいたオオクニヌシが通りかかります。
オオクニヌシ「ウサギさん、どうしたんだい?」
ウサギ「サメに毛皮を剥がされちゃって痛いんです!」
オオクニヌシ「どうしてサメに毛皮を剥がされてしまったの?」
ウサギ「実はオキノシマ(島根県の隠岐の島or福岡県の沖ノ島と言われてるよ)に渡りたくて、でもボク泳げないから、いろいろ考えて、サメにこう言ったんです。『キミらの種族とボクらの種族とどっちが数が多いか勝負しよう! ボクが数えてあげるから皆一列に並んで!』って。並んだサメの頭を踏みながら数えて、最後のサメになったとこで『こっちに渡りたかっただけだよ! 騙されやがってバーカバーカ!』って言ったら、サメが怒って、ボクは毛皮剥がされちゃったの……ボク悪くないですよね!?」
お前が悪いー! 余計なこと言わなきゃいいのよ。
実はこのウサギ、北海道の釧路から因幡へ渡って来たらしいんです。
釧路は湿原(失言)が多いんでね。たけっちです!
ウサギ「そんなとき、さっき80人くらいの団体観光客に言われて海水を浴びたんです。そしたらよりひどくなっちゃったんです! 思えば顔も何か怖そうだったし、うさんくさかった! 何だあいつら!」
オオクニヌシ「ごめん、オレの兄貴達が」
ウサギ「え、全員兄貴? シャケなの?」
オオクニヌシ「弟として、本当になシャケない」
ウサギ「……何か別の意味で、より痛みが増してきた! 助けてー!」
オオクニヌシ「よし、ウサギさん、川で体を洗って、蒲(がま)の穂の花粉の上に寝転がってみて。きっと治るよ」
ウサギ「あの胡散臭いやつらの弟の言うこと聞いて大丈夫かなー」
オオクニヌシ「ウサギさん、心の中の声、出ちゃってるよ」
ウサギ「あ、ごめんなさい。素直なもんで」
オオクニヌシ「素直は時に刃(やいば)となるのよ。だからサメにも余計なこと言っちゃったのね。でもボクを信じてやってごらん」
ウサギがオオクニヌシの言う通りにすると、元通りに白い毛が生えてきた!
これがかの有名な「イナバの白ウサギ」です(物置じゃないよ)。
このエピソードから、オオクニヌシは病気平癒の神様でもあるのです。
ちなみに、このイナバの白ウサギの舞台と言われているのが、鳥取県の白兎海岸です。
実際に行ってみると、近くにウサギが渡りたかったという小島もあります。オオクニヌシとウサギの銅像もあります。
海岸付近にある白兎神社には、このウサギが祀られていて、皮膚病や火傷に効く神様と言われています。境内にはウサギが身体を洗ったとされる池もあります。蒲の穂エキス入りクリームも売ってます(商売上手! )。
ウサギ「やったー! やっぱりあなたはいい人でした! 一目見た時からそうだと思ってました!」
オオクニヌシ「うるせーよ。良かったね。それじゃ」
ウサギ「待ってください! あなたはきっとヤガミヒメを得られるでしょう!」
オオクニヌシ「はいはい、ありがと」
ウサギ「いや、お世辞とかじゃないんす! 私は実は神様なのです! 今、あなたの未来を予言したのです!」
オオクニヌシ「神様はサメを騙したりしないから」
ウサギ「いやっ……そこ言われるとアレなんだけど、とっ、とにかく! あなたがヤガミヒメを得られると予言します!」
オオクニヌシ「はいはい、ありがと」
ウサギ「デジャブ! 信じて~!!」
この予言は的中!
ヤガミヒメはオオクニヌシの妻となります。
このことから、イナバの白ウサギは縁結びの神様でもあります。
白兎神社の売店で売っている「結び石」という石を、境内の鳥居の上に投げて、のっかると縁が結ばれると言われています。
ボクもやってみました。そしたら何と! 石が鳥居の上に乗りました!……でも代わりに、先に乗ってた誰かの石が何個か落ちたのはここだけの話です(ごめんなさい! )。
さあ、こうなって面白くないのはフラれたヤソガミ達です。
ヤソガミ一同「オーオークーニーヌシィ~!」
次回、オオクニヌシ殺神事件。
落語DE古事記
神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね!
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