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落語DE古事記

2019.08.22 公開 ポスト

イナバの白ウサギは、実は神様だったんだって!桂竹千代(落語家)

落語家・桂竹千代さんが笑いたっぷりに繰り広げる「古事記」解説。

古事記と言えば、神様の話。
神様と言えば、出雲。
つまり出雲と言えば、神様の国。
そう! 出雲を舞台にした物語に突入です。
みんな大好き「いなばの白ウサギ」も登場しますよ。

*   *   *

(polygonさんによる写真ACからの写真)

第10話「81回目のプロポーズ」

ここからはオオクニヌシが主役の、出雲神話のスタートです。

舞台は山陰地方へ移ります。

ちなみにオオクニヌシは奥さんがたくさんいて、子供が181柱もいたと言われます。

 

子供生むの得意なのは、舞台が山陰(産院)だからかな! たけっちです!

オオクニヌシには名前がたくさんあります。大穴牟遅(オオナムヂ)、葦原色許男(アシハラノシコオ)、八千矛(ヤチホコ)、宇都志国玉神(ウツシクニタマノカミ)。別名たくさん。物語によって性格や立場が変わるので、その都度使い分けているようですが、便宜上オオクニヌシと言っておきます。

ペンネーム、ハンドルネーム、ラジオネーム、リングネーム使い分けてるみたいなもんです(ホントかよ)。

彼には兄弟が80人います(シャケかよ。あ、正しくは「80柱」だね!)。これを八十神(ヤソガミ)と言います。このヤソガミが全員、因幡(いなば。現・鳥取県東部)に住む八上姫(ヤガミヒメ)を好きになります(女ってこの世に1人じゃないんだぜ? )。そして81柱兄弟全員が、同時に八上姫にプロポーズに行きます(こわ!)

ちなみに、八上姫は「八」の上と書くから、つまり「九」です。そこに皆でキュウコンに行くって面白いじゃないですか。

末っ子のオオクニヌシはイジメられてるので、ヤソガミの荷物を全部持たされて、後ろの方から付いて行きました。

ヤソガミ達が岬に来ると、一羽のウサギが苦しんでいます。

 

ヤソガミA「どうしたのウサギさん?」

ウサギ「サメに毛皮剥がされちゃって痛いんです~!」

 

この「サメ」なんですが、『古事記』には実は「ワニ」と書いてあります。

でも日本には元々ワニが生息しないのと、鮫をこの辺りの方言で、「ワニ」と言うらしいので、サメのことだとされています。

 

ヤソガミB「おう、ウサ公、心配すんなよ! 海水浴びて風にあたってりゃ治るぜ」

ウサギ「ほんと? ありがとうございます!」

 

その通りやると、皮膚はもっとただれて痛くなります。そりゃそうですよね。傷口に塩塗っちゃってるわけだから。ちょっとは考えてウサピョン!

こういう間違ったアドバイスというのは、寄席の楽屋でもよくあります。

落語家は弟子入りして入門すると、まず4年間の前座修行があるのですが、まず楽屋入りして、先輩方に教わるのが師匠方への「お茶の出し方」です。

師匠によってお茶の好みがそれぞれ違います。濃いのがいいとか、薄いのがいいとか、熱いのがいいとか、ぬるめがいいとか、冷たいのしか飲まないとか、ノンカフェインじゃないとダメだとか……それを覚えることから始まるわけです。また、お茶を出すタイミングもそれぞれ違います。

ある時、、、でした。ボクが楽屋にいた師匠に「お茶でございます」とお茶を差し出すと、その師匠は「ありがとう」と言ってお茶をすぐ机の上に置きました。これを見ていた某先輩が、

 

Kアニさん「おい、お前ちょっとこっち来い!」

竹千代「はい、アニさん」

Kアニさん「お前な、さっき師匠が、お茶受けとって、すぐに机に置いただろ? あれは飲むタイミングじゃなかったんだよ。飲みたいときは受けとったらすぐに口つけるんだから。お茶出しはタイミングが肝心だぞ」

竹千代「かしこまりました、すみませんアニさん」

Kアニさん「おれが見本見せてやるから、そこで見とけ!」

 

アニさんがお茶を持って別の師匠のところへ行きます。

 

Kアニさん「師匠、お茶でございます」

師匠「そこ置いといて」

 

受け取りすらしない!! ……だって、その師匠着替えの途中だから最悪のタイミング。

 

Kアニさん「見たか? こんなもんだよ」

 

いや、どんなもんだ!!

かわいいアニさんです。

話をウサギ(三遊亭ウサギ師匠っているのよね)に戻します。

さらに痛がっていると、一番最後にいたオオクニヌシが通りかかります。

 

オオクニヌシ「ウサギさん、どうしたんだい?」

ウサギ「サメに毛皮を剥がされちゃって痛いんです!」

オオクニヌシ「どうしてサメに毛皮を剥がされてしまったの?」

ウサギ「実はオキノシマ(島根県の隠岐の島or福岡県の沖ノ島と言われてるよ)に渡りたくて、でもボク泳げないから、いろいろ考えて、サメにこう言ったんです。『キミらの種族とボクらの種族とどっちが数が多いか勝負しよう! ボクが数えてあげるから皆一列に並んで!』って。並んだサメの頭を踏みながら数えて、最後のサメになったとこで『こっちに渡りたかっただけだよ! 騙されやがってバーカバーカ!』って言ったら、サメが怒って、ボクは毛皮剥がされちゃったの……ボク悪くないですよね!?」

 

お前が悪いー! 余計なこと言わなきゃいいのよ。

実はこのウサギ、北海道の釧路から因幡へ渡って来たらしいんです。

釧路は湿原(失言)が多いんでね。たけっちです!

 

ウサギ「そんなとき、さっき80人くらいの団体観光客に言われて海水を浴びたんです。そしたらよりひどくなっちゃったんです! 思えば顔も何か怖そうだったし、うさんくさかった! 何だあいつら!」

オオクニヌシ「ごめん、オレの兄貴達が」

ウサギ「え、全員兄貴? シャケなの?」

オオクニヌシ「弟として、本当になシャケない」

ウサギ「……何か別の意味で、より痛みが増してきた! 助けてー!」

オオクニヌシ「よし、ウサギさん、川で体を洗って、蒲(がま)の穂の花粉の上に寝転がってみて。きっと治るよ」

ウサギ「あの胡散臭いやつらの弟の言うこと聞いて大丈夫かなー」

オオクニヌシ「ウサギさん、心の中の声、出ちゃってるよ」

ウサギ「あ、ごめんなさい。素直なもんで」

オオクニヌシ「素直は時に刃(やいば)となるのよ。だからサメにも余計なこと言っちゃったのね。でもボクを信じてやってごらん」

 

ウサギがオオクニヌシの言う通りにすると、元通りに白い毛が生えてきた!

これがかの有名な「イナバの白ウサギ」です(物置じゃないよ)。

このエピソードから、オオクニヌシは病気平癒の神様でもあるのです。

ちなみに、このイナバの白ウサギの舞台と言われているのが、鳥取県の白兎海岸です。

実際に行ってみると、近くにウサギが渡りたかったという小島もあります。オオクニヌシとウサギの銅像もあります。

海岸付近にある白兎神社には、このウサギが祀られていて、皮膚病や火傷に効く神様と言われています。境内にはウサギが身体を洗ったとされる池もあります。蒲の穂エキス入りクリームも売ってます(商売上手! )。

 

ウサギ「やったー! やっぱりあなたはいい人でした! 一目見た時からそうだと思ってました!」

オオクニヌシ「うるせーよ。良かったね。それじゃ」

ウサギ「待ってください! あなたはきっとヤガミヒメを得られるでしょう!」

オオクニヌシ「はいはい、ありがと」

ウサギ「いや、お世辞とかじゃないんす! 私は実は神様なのです! 今、あなたの未来を予言したのです!」

オオクニヌシ「神様はサメを騙したりしないから」

ウサギ「いやっ……そこ言われるとアレなんだけど、とっ、とにかく! あなたがヤガミヒメを得られると予言します!」

オオクニヌシ「はいはい、ありがと」

ウサギ「デジャブ! 信じて~!!」

 

この予言は的中!

ヤガミヒメはオオクニヌシの妻となります。

このことから、イナバの白ウサギは縁結びの神様でもあります。

白兎神社の売店で売っている「結び石」という石を、境内の鳥居の上に投げて、のっかると縁が結ばれると言われています。

ボクもやってみました。そしたら何と! 石が鳥居の上に乗りました!……でも代わりに、先に乗ってた誰かの石が何個か落ちたのはここだけの話です(ごめんなさい! )。

さあ、こうなって面白くないのはフラれたヤソガミ達です。

 

ヤソガミ一同「オーオークーニーヌシィ~!」

 

次回、オオクニヌシ殺神事件。

関連書籍

桂竹千代『落語DE古事記』

日本の神様は、奔放で愉快でミステリアス! 海をかき混ぜて日本を作ったかと思えば、一目惚れしたり、嘘ついたり、嫉妬に燃えたり。女の取り合いで大蛇と喧嘩する神様も、娘の恋人をイタズラでいじめ抜く神様もいる。さらに神同士の殺し合いも度々勃発。壮大すぎて難解と言われる日本最古の歴史書を、落語家が爆笑解説でスラスラ読ませる。

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落語DE古事記

神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね! 

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桂竹千代 落語家

落語家。千葉県旭市出身。1987年3月17日生まれ。2005年千葉県立匝瑳高校卒業。2009年明治大学文学部史学地理学科考古学専攻卒業。2011年明治大学大学院文学研究科古代日本文学専攻修士課程修了。元ニュースタッフエージェンシー所属漫才師、ゴーギャン職人。2011年7月、桂竹丸に入門、前座「竹のこ」。2015年9月、二ツ目昇進、「竹千代」。2019年3月、第18回さがみはら若手落語家選手権優勝。

新宿末広亭や浅草演芸ホールなどの寄席を中心に、全国各地で落語会に出演。その他、イベント・結婚式司会、温泉ツアーガイド、古代史講座、大学講師、社会教育講演など幅広く活躍。旭市観光大使も務める。

エンタの神様(日本テレビ)、爆笑オンエアバトル(NHK)、メレンゲの気持ち(日本テレビ)、グリコポッキーCM、どうする東京(MXTV)、50ボイス(NHK)、BS笑点特大号(BS日本テレビ)、ミッドナイト寄席ゴールデン(BS12)、夕やけミッドナイト寄席(BS12)SHARP・アクオス落語(全国の家電量販店にて放映)、日曜バラエティー・レギュラー出演(NHKラジオ第一)2018年4月~2019年3月、桂竹千代のJAGARAKU(FM帯広)2018年4月~2019年3月、OH! HAPPY MORNING「Today’s Focus」(JFN)※古代史専門家としてニュースコメント、春風亭昇太のピローな噺(dtvチャンネル)、竹千代の風土記(CS寄席チャンネル)などに出演。

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