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ご飯の島の美味しい話

2019.08.01 公開 ポスト

「かもめ食堂」「ごちそうさん」の人気フードスタイリスト、初めてのエッセイ集。

大きな食パンと、とってもぜいたくなカツ丼飯島奈美(フードスタイリスト)

人気フードスタイリスト・飯島奈美さんのエッセイ集『ご飯の島の美味しい話』より、試し読みをお届けします。意外と知られていない「フードスタイリスト」というお仕事の裏話をお楽しみください。最後には、レシピも掲載されています。

*   *   *

大きな食パンと、とってもぜいたくなカツ丼

ありそうでないものというのは、実はたくさんあります。今回はありそうと思って探してみたら、すぐには見つからなかったもののお話をしたいと思います。

以前あった話です。フライパン一つでパスタができてしまうという食品のCMの仕事で、手軽な商品を作る手軽な道具の象徴として、テフロンのフライパンを用意することになりました。取っ手が黒で外側が赤いフライパンです。すぐにイメージできましたが、探してみると意外なことに全然ないのです。デパートやスーパー、雑貨店、かっぱ橋の道具街など、アシスタントと手分けして何日もかけて見てまわりました。でも、あるのは外側がオレンジや水色、その他の色ばかり……。

そんなとき、たまたま親戚の集まりがあったので、そのことを話すと、みんな口を揃えて「うちの近所には絶対あった。どこにでもあるよ」と言います。期待していると、後日「あると思ったけどないもんだね」。結局、みんなお手上げの様子。その直後、別件の打ち合わせで神楽坂に行ったとき、通り道にあったひなびた日用雑貨店で偶然見つけることができたのです。何十年も前から売れ残っていたのは今日のため? ホコリをキラキラかぶった赤いフライパン。「あった!」思わず叫んでしまいました。まわりから見れば、なんでフライパンでそんなに興奮しているの、と思われたかも。現場に持っていくと、「これこれ! こういう普通のがいいよね」と喜んでもらえました。こんなに探したとは、誰も思わないですよね。今でもMy倉庫に大事に保管しています。

そして食パン。これがまた、盲点だったのです。デジカメのプリンターのCMでのことです。監督の希望は、食パンの耳だけ枠のように残して手に持ち、そこから顔を覗かせたいというものでした。そこで、タレントさんの顔がよく見えるよう、ひとまわり大きめの食パンを用意するよう依頼されました。「分かりました!」と返事をして、パン屋さんをたくさんまわってみると、ほとんどが同じ大きさです。調べてみると食パンの型の大きさは決まっていて、大きい食パンを手に入れるためには、かっぱ橋にあるような専門店で型から作らなければならないことが分かりました。さらに私のオーブンには入らなそうで、焼いてくれるパン屋さんも探さなくてはならなくなりました。結果、無事大きめの食パンを用意することができたのです。ほんの一センチ大きくするだけで、てんやわんやでした。

そういえば、「とってもぜいたくなカツ丼」を依頼されたこともありました。これは、“ぜいたく”な缶コーヒーのCMでした。そのときは一瞬しか映らなかったので、ここでどれだけぜいたくしたか、解説させてください。まずは丼。監督に「金の丼で」と発注を受けました。これもありそうですが、全部が金となると、ないものです。時間もなかったので、またまたかっぱ橋へ。丼の器専門店にかけ込んで、シンプルなカツ丼の丼を金に塗ってもらうようお願いしました。そして、食器のリース屋さんで丼に合うお盆、味噌汁のお椀、漬物を盛る小皿を選びます。こんな作業は結構楽しくて、想像を巡らしながら、これはやりすぎバージョン、少し控えめ上品バージョンと、あれこれ考えました。あとは現場で監督と相談。当日は肉厚のカツを揚げ、割り下で煮て卵でとじて金の丼に盛り、みつば、金粉を散らしました。漬物は大根とにんじんを鶴の型で抜いて、昆布と一緒に浅漬けにして添え、小ぶりの伊勢エビ一尾を丸ごと入れた味噌汁を付けました。監督もぜいたくさに満足してくれたようで、私もホッとしました。

CMの撮影のほとんどは、その食材が旬になるだいぶ前に行なわれるので、出まわる前の食材集めに苦労します。殻付きの栗、皮付きの茹でたけのこなどは、冷凍して保管してあり、一年ごとに新しいものと交換しているのです。デパートや雑貨店に並ぶ道具にも旬があり、お弁当箱が充実するのは新入学の時期でもある春、スープカップや土鍋なら、寒くなる秋冬といったところです。
このようにありそうでないもののエピソードは、挙げたらきりがありません。

しらすとチーズのトースト

ありそうでなかったしらすチーズトーストは、イングリッシュマフィンでも美味しいです。パラパラ落ちそうなしらすがチーズでまとまります。上のトッピングは海苔をちぎったものでも美味しいです。

材料(2人分)

食パン 2枚

(釜揚げ)しらす 60g

スライスチーズ 2枚

練りからし 少々

大葉 2枚

作り方

  1. 温めたトースターに食パンを入れ、軽く焼いたら、からしを薄く塗り、しらす、スライスチーズをのせ、チーズが溶けるまで焼く。
  2. 1を皿にのせ、ちぎった大葉を散らす。

簡単カツ丼

ぜいたくなカツ丼にたいして、手軽な茶碗カツ丼です。一つのボウルで衣を付けるので、簡単です。カツはさっと煮て、残りの煮汁に卵を含ませてカツの上からかけます。ありそうでなかったやり方です。カジキマグロなんかもいいですね。

材料(1人分)

ご飯 茶碗1杯分

豚薄切り肉 3枚(今回はロース)

薄力粉 小さじ1

卵 1個

パン粉 適量

長ねぎ(又はニラ) 適量

A

  • 出汁 大さじ3
  • 醤油 大さじ1
  • みりん 大さじ1
  • 砂糖 小さじ1

粗塩 少々

こしょう 少々

油 適量

作り方

  1. 豚肉に軽く粗塩、こしょうをし、端から4つに折りたたむ。ボウルに肉を入れ、薄力粉を全体にまぶす。別のボウルで溶いた卵小さじ1を肉に絡め、パン粉を上からまぶす。
  2. 油を小さめのフライパンに1㎝程度入れ、中温で肉を約3分ほど返しながら揚げ、取り出す。
  3. Aを小鍋に入れ、沸騰したら、長ねぎ、カツを入れ、さっと煮て、ご飯の上にのせる。残った汁に1の残りの卵をまわし入れ、さっとかき混ぜて、火を通し、カツの上にのせる。

関連書籍

飯島奈美『ご飯の島の美味しい話』

映画「かもめ食堂」でフィンランド人スタッフに大好評だった、おにぎり。「夜中にお腹がすいて困るよ」と言われたドラマ「深夜食堂」の豚汁。映画「海街diary」で試行錯誤した、しらすトースト。……どんな現場でも心がけているのは「楽しんで作る」ということ。人気フードスタイリストの温かで誠実でユーモラスな人柄が伝わるエッセイ集。

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ご飯の島の美味しい話

フードスタイリストとして、数々の映画、ドラマ、CMで活躍する飯島奈美さん。映画「かもめ食堂」でその仕事を知られるようになってから、現在まで、様々な現場でどのような思いで料理を作り続けてきたか。その時々の料理の裏話とともに、日々の出来事を綴った、ユーモアと温かさと誠実さに満ちた、初めてのエッセイ集。 揚げバナナ、タイ風鶏鍋、ミャンマーサラダ、深夜食堂の豚汁、トマトカルボナーラ、しらすとチーズのトースト、豚肉のポッサム、梅酢から上げ、白菜の漬物鍋、ネギとお揚げのとろみうどん、豆腐のあんかけご飯 ほか、今すぐ作りたくなるオリジナルレシピ、51品付き。

バックナンバー

飯島奈美 フードスタイリスト

TVCMなど広告を中心に、映画やドラマなどで活動中。映画「かもめ食堂」「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン」「南極料理人」「海街diary」「ねことじいちゃん、テレ ビドラマ「深夜食堂」「パンとスープとネコ日和」「ごちそうさん」「カルテット」など、多数の作品のフードスタイリングを手がける。著書に『LIFEなんでもない日、おめでとう!のごはん』『飯島風』『深夜食堂の料理帖』『おいしい世界の台所』など。

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