人気フードスタイリスト・飯島奈美さんのエッセイ集『ご飯の島の美味しい話』より、試し読みをお届けします。意外と知られていない「フードスタイリスト」というお仕事の裏話をお楽しみください。最後には、レシピも掲載されています。
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梅酢
私の大定番の調味料に「梅酢」があります。初めて出会ったのは、和歌山のトマト農家。そこのおばちゃんが、梅酢を使った料理をいろいろ作ってくれて、その美味しさに感激して帰りに道の駅で買いました。それ以来、取り寄せて使っていました。
そして、ついに、「飯島奈美プロデュース」の梅酢を作ることになったのです。きっかけは、「ほぼ日刊イトイ新聞」のスタッフの方からのご提案。私の定番料理「梅酢の鶏唐揚げ」が美味しくて好きなので、梅酢を商品として「ほぼ日」で売りたいとのことでした。確かに、梅酢の唐揚げはたくさんの人に好評で、みなさんに作ってもらいたい気持ちもあったのですが、梅酢ってなかなか手に入りません。また、実際に梅酢を手に入れても、どうやって使うのか分からない人がほとんどだと思うのです。なので、梅酢をたくさんの人に知ってもらいたい、手に取って使ってもらいたい。そして、せっかくプロデュースするなら、オリジナルの梅酢レシピ本も作りたい。……そう思い、商品作りって大変だろうな、と尻込みする気持ちもありながら、思い切ってチャレンジすることにしました。
初めてづくしの商品作りですが、まずは梅酢をボトルに詰めてくれるメーカー探しからです。梅干しを漬けるとき、梅に塩をして上がってくる水分、それが梅酢です。もちろん水は入っていない、塩と梅の水分だけでできたもの。これは、梅干しを漬けると必ず出てくるので、和歌山の梅干しメーカーや農家にはたくさんあります。どこのメーカーにお願いするかは、以前から親しくさせてもらっている和歌山の方に相談し、「東(あづま)農園」さんをご紹介いただきました。東農園でも商品として販売しているので、はじめは社長さんや商品開発の方に、「どうして?」と不思議がられていた気がします。でも、お話しするうちに、私のオリジナルの商品を作って、「ほぼ日」を通じて売ることで、梅酢がたくさんの人に広まるのではないか、と期待して引き受けてくださいました。
次に、梅酢を入れるボトル探しです。ペットボトルが手軽でいいのではないかと思い、まずはかっぱ橋のパッケージ屋さんへ。よさそうなペットボトルを何種類か選ぶと、サンプルということでただで分けてくれました。耐久性などを調べなくてはならないから、サンプルを東農園へ送ったりしていろいろチェック。結果、出来合いのペットボトルでは中栓がなく、フタの部分の密閉性が弱いので難しいということになりました。次に、ガラス瓶を当たることに。こういうときはインターネット。「瓶 販売」で検索するとガラス瓶の販売サイトがいろいろ出てきました。その中からデザイン、値段、条件などでいくつか比べて、ぽってりと丸みのある瓶に決定。それを東農園に直接発注してもらう段取りを組みました。東農園からは梅酢を注文するとき、例えば百本以上の大量になると、一階じゃないと配達できませんとか、実際には千本単位で発注することになるので、「フォークリフトはありますか?」とか思いがけないことを聞かれたりしました。ほぼ日の倉庫にはフォークリフトはあったので、問題なかったのですが。
中身と容器が決まったら、あとはパッケージデザインです。これは友人のデザイナーさんに相談して作ってもらいました。商品名は「紀州の、うめ酢」。和紙っぽい紙にシンプルで温かみのあるかわいいデザイン。梅酢は身体にいいし、料理も美味しくなるので、使い出したら手放せなくなるし、誰かにプレゼントしたくなると思うのです。だから、日用使いの調味料でなく、贈り物にできるような、ちょっと特別感のあるものにしたいと思っていて、そのイメージ通りになりました。
この、商品作りと並行して進めたのが、レシピ作り。最初は、簡単な小冊子でいいと思っていたのですが、あとからあとから、梅酢レシピが湧いてきて、結局立派めなレシピ冊子になりました。レシピは特別なものではなく、普段作っているポテトサラダや卵焼き、酢豚、炊き込みご飯、生姜焼きなどなど、ごく定番のものがほとんどです。もちろん、唐揚げのレシピも入っています。一番簡単なのは「ささみのうめ酢焼き」。事務所でお昼何にしようか、というときにはささみ焼きになったりします。ささみは、塩だけだと物足りないけど、梅酢に絡めて焼くとコクが出てしっとりした食感になります。梅酢のクエン酸が肉を保水する効果があるそうです。焼きすぎない、ぎりぎりに焼いて余熱で火を通すのがコツです。
また、ケチャップ、醤油、マヨネーズなどいろんな調味料との組み合わせ。梅酢、酒、水、みりん、鰹節か昆布で作る「万能かけだしうめ酢」。梅酢を使ったドリンクなども紹介しています。
レシピ冊子のタイトルは『紀州の、うめ酢 難のがれレシピ』。昔から「梅はその日の難逃れ」と言われています。解毒作用があったり、食欲不振によかったり、疲れが取れたり、殺菌作用があったりと、梅の効能はいろいろ。疲れたときや、食欲がないときに、梅酢を使って簡単に作ることができる「難のがれレシピ」なのです。
商品作りは知らないことだらけで大変でしたが、夢中になることができました。梅酢に出会って、こういう機会をいただけて本当によかったです。いつか、みなさんの台所に置かれる定番調味料となることを願っています。
ささみのうめ酢焼き
材料(2~3人分)
ささみ 6本
A
- うめ酢 大さじ4
- 水 大さじ2
サラダ油 少々
作り方
- ささみを調理する10分前に冷蔵庫から出しておく。ささみをポリ袋に入れ、Aを加え空気を抜いて口を閉じ、5分浸す。
- フライパンを弱めの中火で熱し、サラダ油をひく。水分を切ったささみを並べて2分半ほど焼き、いい焼き色がついたらひっくり返し、さらに1分~1分半焼き、皿に取り出す。
トマトとモッツァレラ
材料(2~3人分)
トマト 1個
モッツァレラ 1個
大葉 3~4枚
うめ酢 小さじ1~1と1/2
オリーブオイル 大さじ1~2
作り方
- マト、モッツァレラは食べやすい大きさに切る。
- 器にトマト、モッツァレラ、大葉をちぎりながら盛りつける。
- 全体にうめ酢、オリーブオイルをまわしかける。お好みで、こしょうをかけても。
豚のうめ酢生姜焼き
材料(2~3人分)
豚薄切り肉 300g
新玉ねぎ(又は玉ねぎ) 1/2個
A
- 酒 大さじ2
- うめ酢 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 薄口醤油 大さじ1
- おろし生姜 大さじ1/2
- 砂糖(好みで) 少々
サラダ油 適量
作り方
- ライパンを中火で熱し、サラダ油を入れて新玉ねぎを炒め、少し透明感が出てきたら、豚肉を広げながら焼く。
- Aを混ぜ合わせたタレをフライパンに加え、絡める。煮詰め具合はお好みで。皿に盛り、せん切りキャベツなどを添える。
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ご飯の島の美味しい話
フードスタイリストとして、数々の映画、ドラマ、CMで活躍する飯島奈美さん。映画「かもめ食堂」でその仕事を知られるようになってから、現在まで、様々な現場でどのような思いで料理を作り続けてきたか。その時々の料理の裏話とともに、日々の出来事を綴った、ユーモアと温かさと誠実さに満ちた、初めてのエッセイ集。 揚げバナナ、タイ風鶏鍋、ミャンマーサラダ、深夜食堂の豚汁、トマトカルボナーラ、しらすとチーズのトースト、豚肉のポッサム、梅酢から上げ、白菜の漬物鍋、ネギとお揚げのとろみうどん、豆腐のあんかけご飯 ほか、今すぐ作りたくなるオリジナルレシピ、51品付き。