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とんでもない甲虫

2019.08.09 公開 ポスト

そもそも甲虫ってどんな虫?福井敬貴/丸山宗利(九州大学総合研究博物館 准教授)

とげとげ、もふもふ、まんまる、くしひげ、くびなが……。昆虫の概念がひっくり返る、279種のおかしな甲虫を厳選したビジュアルブック『とんでもない甲虫』(丸山宗利・福井敬貴著)が好評発売中!
ところで、そもそも「甲虫」とはどんな虫のこと? 今回は本書より「甲虫とはなにか」を、抜粋してご紹介します。

*   *   *

キリアツメ (ゴミムシダマシ科、採集地ナミビア)
過酷な砂漠にすむ。このような逆立ち姿勢で朝霧を浴び、体についた水滴が口のほうへ流れたところで、それを飲む。

甲虫とはなにか

カブトムシを思い出していただければわかるように、甲虫のいちばん大切な特徴は硬い前翅(ぜんし)だ。

みなさんも知っているクワガタムシカナブンも同じ特徴をもっていることがわかるだろう。

もうひとつ大きな特徴をあげるとしたら、とにかく種数が多いことである。そもそも昆虫は100万種あまりが知られているが、その約40パーセントにあたる約40万種が甲虫なのだ。

そしてこの数字は全生物の約25パーセントにあたる。

さらにこの数倍の新種が存在しているといわれており、種がちがえばかたちや暮らしが変わると考えると、じつに底知れない世界といえよう

オオキノコシロアリハネカクシ (ハネカクシ科、採集地ケニア)
巨大な塚を作るキノコシロアリの巣のなかにいる。腹部がシロアリのようにふくらみ、シロアリになりすましている。

実際、生息場所は熱帯から極地のあらゆる陸上環境から水中まで、食性は肉食性から雑食性、草食性、菌食性、寄生性などなど、大きさも0.33ミリメートルから17センチメートル程度までじつに幅が広い。

かたちの多様性に関しては本書『とんでもない甲虫』をめくっていただければ説明の必要はないだろう。

 

じつは、最初に話した「硬い前翅」というのが、その多様性の要因なのだ。

甲虫のもっとも古い化石の記録は約2億7千万年前のもので、その当時から硬い前翅をもっていたことがわかっている。

ナガヒラタムシの一種(ナガヒラタムシ科、採集地ミャンマー)
 約1億年前の琥珀(こはく)に入っている化石で、まだ正式に発表されていないもの(山本周平撮影)。

そのころの甲虫は石の下や枯れた植物のなかなどに隠れて暮らしていたが、硬い前翅は体が傷つくことや雑菌の感染を防ぐ役割をもっていた。

やがて明るい環境に出てくると、こんどは前翅で乾燥や敵の攻撃を防いだり、一部は体に毒をたくわえて、前翅に警告色をもったりするようにもなった。

このような前翅のもつさまざまな役割によって、甲虫はいろいろな環境や食性に特化して、たくさんの種にわかれていったのである。


前翅の下には後翅(こうし)が折りたたまれて収納されており、飛ぶときにそれを広げる。

しかし、後翅が退化して、飛べなくなった甲虫も少なくないし、逆に前翅が短くなってしまった甲虫も多い。

ウサギコンボウアリヅカムシ(ハネカクシ科、採集地インドネシア・スマトラ島)
ウサギの耳のような触角をもち、アリの巣にすんでいる可能性が高いが、生態は不明。

いろいろな進化の妙があって、さまざまな甲虫の姿があるのだ。

 

関連書籍

丸山宗利/福井敬貴『とんでもない甲虫』

とげとげ、もふもふ、まんまる、くしひげ、くびなが……。硬くてかっこいい姿が人気の「甲虫」の中でも、姿かたちや生態がへんてこな虫を厳選。飛べない!? 毛深い!? 眼がない!? おどろきの279種を、美しい写真で楽しめる。

丸山宗利/ネイチャー&サイエンス/構成『きらめく甲虫』

こんな色合い見たことない! 想像を超えた、生きる宝石200 まるで銀細工のようなプラチナコガネ、日本の伝統紋様さながらに多様な柄をもつカタゾウムシ、虹色の輝きが美しいアトバゴミムシ……。硬くて強そうな見かけの甲虫はそのかっこよさで人気があるが、本書では甲虫の中でもとくに金属光沢が美しいもの、珍しい模様を背負っているもの、色合いが芸術的なものを厳選して紹介してゆく。ピントが合った部分を合成して1枚に仕上げる「深度合成写真撮影法」により、甲虫の持つ美しさが楽しめる!

丸山宗利『ツノゼミ ありえない虫』

奇想天外、ユニークすぎる形を特殊撮影法で克明に再現! 世にもフシギなかたちの昆虫「ツノゼミ」を138種類掲載した、日本ではじめてのツノゼミの本。ツノゼミはセミではなく、カメムシ目に属する昆虫。体長2ミリ~25ミリほどの小さな虫ながら、ツノのかたちをさまざまに進化させていて、まるで空想の世界のような姿をしている。深度合成写真撮影法で撮影し、すべての部分にピントがあった写真を掲載。面白い姿をすみずみまで楽しめる一冊。

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とんでもない甲虫

『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』につづく、丸山宗利氏の昆虫ビジュアルブック第3弾!
硬くてかっこいい姿が人気の「甲虫」の中でも、姿かたちや生態がへんてこな虫を厳選。
標本作製の名手・福井敬貴氏を共著者に迎え、掲載数は過去2作を大幅に上回る279種!
おどろきの甲虫の世界を、美しい写真で楽しめます。
この連載では『とんでもない甲虫』の最新情報をお届けします。

●パンクロッカーみたいだけど気は優しい――とげとげの甲虫
●ダンゴムシのように丸まるコガネムシ――マンマルコガネ
●その毛はなんのため?――もふもふの甲虫
●キラキラと輝く、熱帯雨林のブローチ――ブローチハムシ
●4つの眼で水中も空中も同時に警戒――ミズスマシ
●アリバチのそっくりさんが多すぎる! ――アリバチ擬態の甲虫 など

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福井敬貴

1994年福島県出身。2016年、多摩美術大学彫刻学科卒業。2019年、同大学院彫刻専攻卒業。学生時代はおもに甲虫をモチーフとした鋳金作品を制作。幼少期より虫をはじめとする生き物全般に強い興味をもって育ち、採集や標本の蒐集活動をおこなう。昆虫標本の展足技術が高く評価され、コレクターや研究者からの依頼が殺到。今では年間数千頭の標本を展足している。好きな甲虫はオトシブミ。

丸山宗利 九州大学総合研究博物館 准教授

1974年生まれ、東京都出身。北海道大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。国立科学博物館、フィールド自然史博物館(シカゴ)研究員を経て2008年より九州大学総合研究博物館助教、17年より准教授。アリやシロアリと共生する昆虫を専門とし、アジアにおけるその第一人者。昆虫の面白さや美しさを多くの人に伝えようと、メディアやSNSで情報発信している。最新刊『アリの巣をめぐる冒険』のほか『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』『とんでもない甲虫』『ツノゼミ ありえない虫』『きらめく甲虫』『カラー版 昆虫こわい』『昆虫はすごい』など著書多数。『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』『角川の集める図鑑 GET! 昆虫』など多くの図鑑の監修を務める。

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