小説家・瀧羽麻子さん、待望の新作長編『虹にすわる』は、海辺の小さな町で椅子職人になる夢を追いかける、若い職人コンビの物語――。
本書に登場するのは、職人気質の先輩・徳井律と、芸術家肌の後輩・魚住光。
10年前に交わした「一緒に椅子工房をやる」という約束を忘れられない魚住が、故郷で修理屋をしている徳井のもとに現れ、そこから2人は、ぎくしゃくしながらも夢に向かっていくことに。
ものづくりの楽しさや、椅子の魅力が、たくさん感じられるはず。
本書はもともと、ハンドメイド作品の販売サイトである「Creema」上で連載されたもの。Creemaは、ものづくりの夢を実現したい人たちを応援するサイトです。
著者の瀧羽麻子さんは、こんなふうに話しています。
「この物語は、若い人がどこでも好きな場所で、自由に好きなものを作って、それで生きていきたいというお話。Creemaも、それに近い趣旨で運営されているようです。お客さんが多い大都市じゃなくても、ネットを上手に利用すれば、どこにいてもものを作れるし売ることもできる。ネットを実店舗の代わりにしながら、本気でものづくりやビジネスをしているんです。クリエーターの身の立て方や生き方の多様性が、現代的だと感じました」(「小説幻冬」8月号より)
瀧羽さんは執筆に先がけ、徳島を訪ねました。山川海と自然に恵まれた、のんびりした地方都市の雰囲気を作品の舞台として参考にするとともに、一番の理由は、徳島に有名な椅子工房があったから。――椅子徳さんと宮崎椅子さんです。
この物語を書くにあたって、その二つの工房と、東京郊外で家具の製作をしながら「Creema」で販売をしているWorkscreator さんの工房に、お邪魔させていただきました。それぞれが、椅子づくりへの情熱を強くお持ちでした。
椅子づくりの魅力とは、どんなことなんでしょう?
作り手の皆さんに語っていただきました!
とても楽しいお話がいっぱいです。
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♦宮崎椅子 社長 宮崎勝弘さん
ひとことで「椅子」といっても、様々な椅子があります。工房作家さんが作る“作品的な椅子”もあれば、大量生産・大量消費を目指した椅子もある。弊社で作っている椅子は、その“中間”の椅子かもしれません。弊社では、高い志と力量を持ったデザイナーと職人が、対等に意見を出し合う開発スタイルで椅子づくりをしています。
10年、20年……と、世代を超えても色褪せない魅力を持つ椅子を、いつの日か“名作椅子”と呼ばれる製品を、創り(そして作り)たいと思っています。
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♦椅子徳 社長 鷺池博行さん
椅子は“小さく凝縮された建築”だと思います。意匠、構造、機能の要素が融合しなければ成り立ちません。実際、多くの“名作椅子”は建築家が手掛けてきたのです。
私たちの仕事は、人々の役に立つと同時に、自然素材を「美しい形」へと変える仕事。「安らぎの機能」と「スタイリッシュな造形」を共存させるのが大切です。
こうして、後世に残るものを造ることに携われていることにやりがいを感じます。
♦椅子徳 井上郁雄さん
椅子は、普段の生活の中に何気なく当たり前にある存在ですが、注意して見ると、シンプルなものであっても、知識や経験、技術がないと簡単には作れないことがわかります。僕はそれを、実際に椅子を作るようになって知りました。
「座る」という目的を果たすのと同時に、見た目の美しさも重要なのが椅子。簞笥などの“箱もの家具”とは違った面白さがありますね。
♦椅子徳 住村直樹さん
今は見習い中なので、わからないことだらけで、作っているときはとてもしんどいですが、出来上がったときは、何ともいえない喜びがあります。椅子は、「たかが座るためだけのもの」です。なのに、世界中にとてもたくさんの形の椅子があり、今もなお、新しい形のものが生み出され続けている。最高に魅力的だなあと思います。
まわりにかっこいい椅子が多すぎて感覚が麻痺してしまっていますが、やはり良いものは良いと感じます。
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♦Workscreator 浜田隆志さん
椅子づくりをしていると、“作り手の思い”が、座り心地や使い勝手の良さとなって表れるものだなあと感じます。椅子は「自分自身が形になって表れる家具」なのかなと。
私は、技術も道具もないところから椅子づくりを始めました。なんとなく始めたのですが、実はとても奥が深い家具であると気づかされました。作っても作っても発見が生まれ、探求を続けさせられる。
そして、試行錯誤して仕上げたものをお客様に届けたときの笑顔とありがとうの一言が何より嬉しい。椅子と出会ったことで、“モノづくりで生きている”と感じるようになりました。
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♦Creema 柴田 恵さん
一つひとつ丁寧に作られたものには、作り手のこだわりと想いが詰まっています。
そんなストーリーのあるものが並ぶ「Creema」を通じて感じることは、ここでの出会いが、使う人の毎日をちょっぴり幸せにしてくれているということです。
ものづくりが持つパワーは本当に凄いと思います。
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虹にすわる
『ありえないほどうるさいオルゴール店』で感動を呼んだ瀧羽麻子さんの新刊が発売となりました。
職人気質の先輩と、芸術家肌の後輩。海沿いの小さな町の椅子工房で、夢の続きをみることにした”こじらせ男子”ふたりの、友情と奮闘の物語。
夢に向かう勇気が湧きます!