「ほんとに、どうかしてるんですよあの人」
と、彼は言った。渋谷の地下の、信じられないほど安い窓のない居酒屋で。
「おかしいのはどう考えても彼女のほうなのに、俺のことおかしいって言いはって、俺に精神科に通うよう言ってきましたからね」
まあ、面白そうなんで行ってみましたけど、精神科。と言いながら、彼は何杯目かのレモンサワーをぐびぐびと飲む。わたしは彼の隣でまだ一杯目の薄いビールをちびりちびりと飲みながら、うんうん、とただ頷く。ビールは一杯二百円だ。
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愛の病
恋愛小説の名手は、「日常」からどんな「物語」を見出すのか。まるで、一遍の小説を読んでいるかのような読後感を味わえる名エッセイです。