良く読むと、やたら奇天烈な「古事記」を、落語家・桂竹千代さんが、爆笑に次ぐ爆笑で解説している人気連載!
今回は、神様の葬儀の様子をお届けします。
神様もお葬式をするんですね!
* * *
第17話「神様版粗忽長屋」
アマテラスは、地上に遣わしたワカヒコが8年経っても帰ってこないので、イライラしてます(もはやイラテラス)。
オモイカネ「ではアマテラスさん、今度はキジを遣わせて、ワカヒコが何故戻らないのか確かめて来てもらいましょう!」
アマテラス「キジ? 何でキジ? 大丈夫? きびだんごもらったらそっちになびいちゃいそうじゃない? ま、いいか。じゃあキジに『ワカヒコ早く帰って来いバーカ』って伝言しといて」
今度はキジが、地上へとやって参ります。
そして、ワカヒコ宅の門にある木にとまります。
アマテラスに言われた通りのことづてを、鳴きながら伝えます。
キジ語で。
キジ「ケーンケーン! ケケーン! ケッケケーン!」
ワカヒコ「るせー鳥だなー!」
伝わらず! (そらそうだ! キジだもの!)
ワカヒコ「あーうっせ! ぶっ殺そ! (この方は神です)」
ワカヒコは、高天原から持ってきた弓矢でキジを射殺します。
その矢はキジの胸を貫通して、高天原のアマテラスのところまで飛んで来いきます。
飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで♪(円広志、いや室伏もビックリな飛距離!)。
アマテラス「何この矢? ……血が付いてる……こっこれは! ワカヒコにあげた矢!」
オモイカネ「なんでワカヒコのってわかるんです?」
アマテラス「ここに『わかひこ』って書いてあるのよ」
オモイカネ「幼稚園児みたいですね」
タカミムスビ「よし、この矢に呪いをかけて返そう」
アマテラス「……あら、あんた急に出てきたわね。久しぶり過ぎるから自己紹介して」
タカミムスビ「どうも、一番冒頭に出てきたタカミムスビです(第2話参照)。ずーっと休んでたのにいきなり出しゃばってすみません。さっそくですが、ワカヒコの心を確かめるんで、矢に呪いかけますね」
いきなり出てきたタカミムスビは、この矢に呪いをかけます。
そして、「もし、ワカヒコが悪い神を射抜いた矢ならば、ワカヒコに当たるな。ワカヒコに邪心があるならワカヒコに当たれ」
と言って、地上に矢を投げ返すと、寝ているワカヒコに当たって、ワカヒコ死す! (コントロール良すぎ!)
てかそんなんできるなら、始めからやって~!
キジの立場がねえって! ましてやまともに日本語喋れないのにー!
結局、殺されたキジは帰って来ませんでした。
行ったきり帰って来ない使者たち。というわけで、これがことわざ「雉のひた使い」の語源です……と『古事記』に書いてあるのですが、「『雉のひた使い』なんてことわざ聞いたことねーよ!」という方もいるかもしれません。
ご安心ください。ボクもそうです。
ワカヒコの奥さん(オオクニヌシの子供)は嘆きます。めっちゃ泣きます。すると、この泣き声が高天原まで届きます(ボリュームMAXすげぇな)。
これによってワカヒコが死んじゃったということが、ワカヒコの親戚一同に伝わります。
そして地上に降りて来て、葬式をします。神様の時代にも葬儀があったんですね。第3話でも少し触れましたが、「古代人の死生観」はボクの修士論文のテーマです。「殯(もがり)」という葬送儀礼をここでするわけですね(第3話参照)。8日に渡って儀式が行われます。
ワカヒコ親戚一同「ワカヒコー!! まだ若いのになぜだー! わーん! (命令忘れて遊んでたからだけどね! )」
親類一同が泣いていると、ワカヒコの親友が弔問に訪れます。
この親友とは、オオクニヌシが国作りの時に生んだ子供のアジスキ(第14話参照)です。
アジスキ(ボクはイワシスキ)は、死んだワカヒコにそっくりな顔をしていたそうです。
親戚一同はアジスキを見て、
親戚一同「……お前はワカヒコ? ……間違いない! ワカヒコだ! すごい! ワカヒコが生き返ったぞーい!!」
いや、揃いも揃って、目ぇ節穴ばっかりかい!
お父さんから奥さんまで誰一人気付かずに、皆でアジスキの手足に泣きながらまとわりつきます。
アジスキ「ちょっと待て! おれがワカヒコだとしたら、ここに倒れているワカヒコは一体誰だろう?」
これが古典落語「粗忽長屋」の原型と言われます(ウソつけ! )。
アジスキ「ええい! 離せお前ら! 親友だからわざわざクソ忙しいところに弔いに来てやったのに、こんな穢れた死人と間違えるとはどーゆーことだ! (いや、お前も親友相手に言うことかそれ! )」
アジスキはブチ切れて、持っていた剣を振り回して、ワカヒコの葬儀会場をぶち壊して帰ってしまいます(ホントに親友なの? )。
一方、高天原。
アマテラス「おーもーいーかーねー! どうなってんのよ! やっぱダメだったじゃない!」
オモイカネ「わかりました。では別の神を……」
アマテラス「ワンパターンしかないのかよ! もう次で最後よ! 次のヤツでダメならアンタ、クビー!!」
アマテラスは、ますますイラテラスとなります。
次の神様派遣で、ようやく決着します。
『古事記』上巻・中盤におけるハイライト「国譲り」神話の始まりです。
落語DE古事記
神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね!
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