よく読むと、やたら奇天烈な「古事記」を、落語家・桂竹千代さんが、爆笑に次ぐ爆笑で解説している人気連載!
今回は、みなさんもおなじみの神様「恵比寿さん」が出てきます。恵比寿さんてこんな神様だったんですね。
神様同士の国獲り合戦も、なかなかアツイ展開になってきましたよ!
* * *
第18話「エビスさん」
地上世界を治めるために、いくつもの神々を遣わすけど、みーんな誘惑に負けて帰って来ない始末で困っています。
オモイカネ「アマテラスさん、次こそはぜっったいに大丈夫ですんで! お任せください!」
アマテラス「聞き飽きたっつーの! 次ダメならアンタ、智恵の神の称号剥奪よ! 知恵の輪にしてやる!」
オモイカネ「なつかし……いやいや! 次は絶対いけます! タケミカヅチを行かせます! こいつはめっちゃ強いし、マジメですから!」
アマテラス「だったらはじめからそいつ行かせなさいよー! (ごもっとも! ) いけー!!」
タケミカヅチ「アイアイサー!!」
このタケミカヅチは、茨城県の鹿島神宮に祀られている武の神様です。イザナギが火の神カグヅチを斬った時に誕生しました(第2話参照)。剣先から生まれたから、武神というわけですね。
よく、タケミカヅチが大ナマズを従えている絵が残っています。
日本では古来から、地震は大ナマズが起こすものだという信仰があり、鹿島神宮と千葉県の香取神宮には、要石(かなめいし)というのがあります。これは、タケミカヅチが埋めた石だと言われています。2つの要石が地中で繋がっていて、大ナマズの頭を抑えているから、この地方では昔から地震が少ないという言い伝えがあります。
でも2011年3月11日に起きた東日本大震災により、鹿島神宮の鳥居が崩壊してしまいました。
タケミカヅチの御神徳が薄れて来ているんでしょうか。
『古事記』をよく知って、地震の神様タケミカヅチに心を込めて参拝すれば、災害も減ってくれるのかもしれませんね。
またタケミカヅチは、アマテラスの岩戸隠れの時に活躍したコヤネ(第7話参照)とともに、後の時代に権力者となる藤原氏の氏神である奈良県の春日大社にも祀られています。鹿島にいたタケミカヅチが、神の使いである鹿に乗って奈良までやってきたと言われています。だから奈良では、今でも鹿を大切にしているんです。
ちょっと脱線しますが、奈良公園には、鹿がわんさかいますよね。鹿は「鹿せんべい」が大好きで、観光客が鹿せんべいを買って手にした途端に、鹿が群がって来ますよね。
でもあれ、おかしいと思いませんか? 鹿せんべい屋は露店なんです。鹿せんべいが店頭に剥き出しになって置いてあるんです。それに手を出さずに客の手に渡った瞬間に群がるんです。
つまり、鹿は「食べていい鹿せんべい」と「食べちゃダメな鹿せんべい」をわかってるってことですよね?
気になったので、インターネットで調べてみたんです。「鹿せんべい.COM」で(そんなのないって)。
そうしたら昔はよくあったそうです。鹿による、鹿せんべい屋襲撃事件。そんな中、鹿せんべい屋のおばちゃんがお客の見えないとこで鹿を叩いて教育したりして「おばちゃん怖い」のイメージを植え付けたとか書いてましたが、一つ興味深い説がありました。
鹿せんべい屋の売り上げというのは鹿の保護に充てられているそうです。芝を植えたり、傷ついた鹿の治療費だったり……だから鹿は、欲望に負けて鹿せんべい屋の鹿せんべいを食べてしまうことが、後に自分たちの首を絞めるということをわかっているんですって。
すごくないですかこの説。
これが本当だとすると、鹿は頭いいんですね。バカじゃないんですね。バカって「馬鹿」って書きますけどね。
さすが、神の使いと言われるだけのことはあります。
さて、本編に戻ります。
タケミカヅチは、地上世界の親方ことオオクニヌシのいる出雲国(島根県)の稲佐の浜(出雲大社のすぐそばにあるよ)までやってくる。
そしてでっけー剣を抜き、逆さまに波の上に立て、剣先にあぐらをかいて座ります(えっ? ケツ大丈夫? 血出ない? 痔持ちには辛いよ! )。
オオクニヌシをカツアゲします。
この舞台となる稲佐の浜は、いなさ(否、然)。
つまり国を明け渡すのか? イエスかノーかという意味です。
タケミカヅチ「うらーー!! ここの大将、オオクニヌシってのはてめーだな?! この国よこせ!」
オオクニヌシ「うわー!! 何そのポーズ! ……お尻大丈夫ですか?」
タケミカヅチ「るせー! ケツ鍛えてあんだよ! いいからこの国よこせっての!」
オオクニヌシ「あなたがひょっとして黄門様ですか?」
タカミカヅチ「そうそうケツだけにコウモン(黄門・肛門)様って、やかましわ! 控えおろう!」
オオクニヌシ「何でこの国欲しいんですか?」
タケミカヅチ「知らねーよ! アマテラスさんに言われて来たんだよ! あのひと怒ると怖えーから、大人しく言うこと聞けや!」
オオクニヌシ「そんなこと言われましても……息子に聞いてみてもらってもいいですか? コトシロヌシってのが今、岬で釣りしてると思うんで」
タケミカヅチ「よーし! 呼べそいつ!」
コトシロヌシは、国作りの時に生まれた神様(第14話参照)です。
コトシロヌシは美保ヶ崎(現・島根県美保関町にある地蔵崎)というところで釣りをしていました。現在、この辺りにはコトシロヌシが祀られる美保神社があります。
ちなみに、コトシロヌシは、後に大陸から七福神信仰が来た時に、エビス様と習合(合体)します。なので、エビス様=コトシロヌシを指すようになります。
そしてオオクニヌシは、「大国主」の「大国」を音読みするとダイコクとなるので大黒様=オオクニヌシとなります。
コトシロヌシはエビス様なので、ご利益は商売繁盛。
また、コトシロヌシは「言代主」とも書きますので、文字通り「言葉を代弁する」神様です。託宣(神のお告げ的な)の神様なので、言葉を扱う商売の人にもご利益があるようです(まさに落語家だね! )。
言葉を扱う神様なので、オオクニヌシはコトシロヌシに答えを委ねたんですね。
そうそう、コトシロヌシは英語も得意なんです。
エービースー(ABC)ってね!
……。
さて、コトシロヌシが呼ばれてやって来ました。
オオクニヌシ「コトシロヌシ、ちょっと話があるんだよ」
コトシロヌシ「何だよ父ちゃん? さっき大物釣れそうだったのにさあ! 呼ばれたからバラしちゃったよ!」
オオクニヌシ「ごめんごめん。ちょっと耳貸して。(ひそひそ声で)この“ケツ大丈夫かおじさん”がこの国くれって言うんだけど、どうする? ヤだよね?」
タケミカヅチ「おい聞こえてんぞ! 誰がおじさんだ! お兄さんと呼べ!」
オオクニヌシ「すみません! (ひそひそ声で)どうする? こんな感じで怖いおじさんだけど」
コトシロヌシ「父ちゃん、このおじさんにこの国あげよう!」
オオクニヌシ「えー!? まさかのこたえ! ……っておいっ! コトシロヌシ! どこへ?」
コトシロヌシは海に飛び込んで、死にました(急な展開)。
エビスさんは弱いんですね。今でもギャンブル好きの漫画家だし!
この部分、『古事記』には、コトシロヌシは天の逆手を打って(手の甲同士で手を叩く呪いの所作)、自分が乗った船を青柴垣(あおふしがき。木で作った垣根の囲い)の中に隠したとあります。青柴垣は一旦入ると出られないものなので、コトシロヌシは自殺したのではないかという見方もあります(諸説あり! )。
このエピソードにちなんで、今でも島根県美保神社では「青柴垣神事」という壮大なお祭りが行われています。
毎年4月、コトシロヌシ役になる人を決めて、コトシロヌシをその人に憑依させて、様々な儀式をして、最後は船上にある青柴垣に入り、秘密の神事をします。それを終えるとコトシロヌシは一旦死んで、生まれ変わることによってまたその年の新たな霊力を授かるそうです。
さあ、息子が目の前で死んだオオクニヌシは驚きます。
オオクニヌシ「えっ? どゆこと? この国あげるにしても何で自殺したの? 意味わかんないないなーい!」
タケミカヅチ「おれも何も死ぬことないのにと思って驚いちゃったよ。命は大切にねって言いたかったよ」
オオクニヌシ「うきゃー!!」
タケミカヅチ「……息子が死んで取り乱してるとこ悪いんだけどさ、お前の息子の遺言では、この国くれるってことでいいね?」
オオクニヌシ「いやいや、おまちください! もひとり息子いますんで! そいつに聞いてからにしてください!」
さて、この息子、一筋縄ではいかないのです。
いよいよ国譲りのクライマックスです。
落語DE古事記
神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね!
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