日本最古の歴史書「古事記」。神様はこうして日本を作り上げた、ということが書かれています。
が、今の私たちが読むと、あまりに奇想天外でびっくりだらけ!
そんな古事記を、落語家・桂竹千代さんが、楽しく解説してくれる人気連載。
今回ついに、絶世の美女・コノハナサクヤヒメの登場です。
ニニギノミコトは彼女に一目惚れするのですが……。
* * *
第22話「ホントに姉妹ですか?」
ニニギが笠沙之岬(かささのみさき。鹿児島県に伝承地あり)を歩いていると、1人の絶世の美女に出会います。
その名は、木花之佐久夜姫(コノハナノサクヤヒメ。以下、コノハナ)
ニニギ「うわっ! めっちゃかわいい! ねえねえ彼女!」
コノハナ「はい?」
ニニギ「キミのことめっちゃタイプなんだけど、付き合ってくんない? オレさ、アマテラスの孫なんだけど」
コノハナ「えー! あのキングオブゴッドの孫なのー!? 一緒になったら生涯安泰だわ! ……ぜひ付き合いたい! ……けど待って。ウチのパパがめっちゃ厳しいの。パパに聞いてからでいい?」
ニニギ「パパ厳しいんだ? ま、アマテラスの孫って言えば大丈夫っしょ!」
コノハナ「いや、パパはそういうブランド志向ないから普通にオトコとして見るんだよね」
ニニギは、コノハナのパパこと大山祇神(オオヤマツミノカミ。山の総親分。以下、オオヤマ)のところへ参ります。
コノハナ「パパー! この人にさっき岬でナンパされてさ~、何かアマテラスの孫なんだってけど、どう? 付き合ってもいい?」
オオヤマ「……何だと? アマテラスの孫だあ?」
ニニギ「(うわっ! 怖そうなオヤジだな。天孫ブランド通用しねーかも)……いや、あの、ただの友達でして……その」
オオヤマ「いいよ」
ニニギ「えー! ……いいんすか? そんなに怖い顔なのにやさしいね!」
オオヤマ「アマテラスさんの孫なんて最高じゃなーい(これでウチも安泰だな)。どうぞこれからは親戚付き合いを!」
ニニギ「あっ……ありがとうございます! (意外と現金だな)」
オオヤマ「ニニギさん、実はこの子に姉がいまして一緒にもらってはくれませんか?」
ニニギ「いやそんな、ついでにポテトいかがですか? みたいな感覚にでもらっちゃっていいんですか?」
オオヤマ「構いません。ウチのお姉ちゃん、いい子なんですがなかなか男に恵まれませんで。おーい! 石長姫(イワナガヒメ。以下、イワナガ)! やっと王子様が現れたぞー!」
イワナガ「ふぁ~い、パパ~!」
ニニギは、心を躍らせます。
ニニギ「こんなに美女のお姉さんだからな、どんだけキレイなんだろー! 一気に美女ふたりゲットだぜ! ありがてぇ!」
……が、やってきたイワナガの顔を見て驚愕します。
ニニギ「うわー!! めっちゃぶさいくー! ……妖怪?」
オオヤマ「何ですと?」
ニニギ「あっ、お父さんすみません、つい本音が……いや、すみません、てか……えー?! えっと、こんなこと言ったらあれですけど……ホントに姉妹ですか?」
オオヤマ「どういう意味ですか?」
ニニギ「いやっ……何でもないです、すみません!」
オオヤマ「どうです、イワナガももらってくれませんか?」
ニニギ「いや、すみません……はっきり言ってタイプじゃないのでお断りさせて頂きます!」
イワナガ「えーん!!! またふられたー!! 何で妹ばっかりモテるんだー! 何でアタシだけブサイクなんだー!」
コノハナ「お姉ちゃんはブサイクなんかじゃないないわ! アタシが美人過ぎるだけなの!」
イワナガ「よく自分で言えるな! くやじぃ~!」
オオヤマ「イワナガは悪くない! お父さんお母さんのいい部分がコノハナに偏ってしまって、お前には悪い部分が偏ってしまっただけだ!」
イワナガ「パパ、それ全然フォローになってない~! うわ~ん!!」
イワナガ、かわいそうですよね。容姿が醜いと言われ、突っ返されてしまったんです(神なのに塩対応! )。
落語界ではこんな小噺があります。
その(1)
美術館にて。
奥様「ねぇ、この絵はモネでしょ?」
係員「いいえ奥様、こちらはシャガールでございます」
奥様「シャガールね。聞いたことあるわね。その隣は、ゴッホよね?」
係員「いいえ奥様、こちらはゴーギャンでございます」
奥様「ゴーギャンね。あっ、その隣のこれは有名よね、これは知ってるわ。これピカソでしょ?」
係員「いいえ奥様、こちらは鏡でございます」
その(2)
奥様A「ねぇ知ってる? 小林さんの奥様、交通事故にあっちゃって、顔がぐちゃぐちゃになっちゃったらしいわよ!」
奥様B「あら~! お気の毒にね」
奥様A「でも名医の先生がいらっしゃって、すっかり顔が元通りになったんですって!」
奥様B「お気の毒にね」
……ブラックな小噺でした。
そしてこのエピソードは、日本神話のある象徴となっています。
この世に生きとし生けるものが栄えますように……という意味を込めたコノハナ。
その栄華が岩のように永遠に続きますように……という意味を込めたイワナガ。
ニニギがコノハナを得たけど、イワナガを突っ返してしまったことが、万物が栄えてもいずれ死ぬ、散るということの原因になっているそうです。
「上がれば下がる」というのは、何でもこれが原因だというわけです。だから落語会で、ウケる時もあればウケない時もあるのは、ニニギのせいです(オマエのせいだろ! )。
苦情は芸人ではなく、鹿児島県の霧島神宮(ニニギが祀られてます)までお願いします。
そして神々に寿命ができたのも、ニニギのこの行いが原因だと『古事記』では説明されています。
なので、ニニギ以降に誕生した神様には皆、お墓があります。
アマテラスやオオクニヌシには、祀られる神社はあってもお墓は存在しません。イザナミはカグヅチに殺されてしまったのでお墓はありますが、殺害されなければ、神に寿命はなく、死なないのです。
本来は、神々は永遠の存在だったわけです。はかない(墓無い・儚い)存在なんです(拍手~! )。
ちなみにニニギの墓は、伝承地がたくさんあります。鹿児島県の新田神社の裏にある可愛山陵(えのやまのみささぎ)がその一つです。明治時代初期に起こった士族の反乱「西南戦争」の時にリーダーの西郷さんは、明治政府に追われて、このニニギ陵の近くに陣を張りました。天皇陵の近くでは鉄砲も大砲も打つことはできまいと思ったのでしょう。まさに神に助けを求めたんですね。
もう一つ、ニニギの墓の伝承地として有名なのは宮崎県にある「西都原古墳群」の男狭穂塚(おさほづか)です。西都原古墳群は、古墳が約300基もある古墳密集地帯です。この男狭穂塚の隣には、女狭穂塚(めさほづか)があって、ここはコノハナの墓とされています。夫婦仲良く眠っているのでしょうか。
しかし、ニニギはイワナガに対してひどい対応をしましたよね。一説によれば、ニニギはイワナガの顔に唾を吐いたとも言われております(ひどい! トラウマになりそ!)。イワナガヒメは、汚い唾をかけられたので、すぐ風呂入って流したそうです。
これを「ツバとバス」と言います(よっ! 落語家! )。
イワナガヒメは、自分の顔を鏡で見て嘆いて、鏡を放り投げたそうです。その鏡が落ちたところは、白い輝きで照らされたことから白見(しろみ)と言うようになり、やがて銀鏡(しろみ)という地名になったそうです(宮崎県にあり)。
イワナガ、キミがシロミの語源なのね! (ややこしい! )
かわいそうなイワナガですが、物語はニニギ&コノハナ夫婦で進みます。
落語DE古事記
神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね!
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