神社のお参りはいつもするのに、日本の神様についてよく知らない私たち。
日本人として、神様のことが書かれた日本最古の歴史書「古事記」をちゃんと読みたいですね!
しかし、難しいので、ここは、落語家・桂竹千代さんの解説に頼ってしまいましょう!
お兄ちゃん(海幸彦)の大事な釣り針をなくしてしまって、やべーぞ! と慌てている弟(山幸彦)の話ですが、つくづく、古事記には不思議な話が載っているものです。
* * *
第24話「お気にじゃなきゃイヤ!」
ニニギとコノハナの間から、三つ子ちゃんが生まれました。
このうち長男のホデリは海の男で、通称を海幸彦(ウミサチヒコ。以下、ウミサチ)と言います。
3男のホオリは山の男で、通称を山幸彦(ヤマサチヒコ。以下、ヤマサチ)と言います。
ここからは、「海幸山幸神話」が始まります。
次男のホスセリは、何故かこの後登場しません(かわいそう! )。
ウミサチは読んで字のごとく海の幸、ヤマサチは山の幸を採っていました。
ちなみに、ウミサチとヤマサチで、ピアノが得意なのはどっちだと思います?
正解はヤマサチです。
だって海派じゃなくて……山派(ヤマハ)だから(どかーん! )。
ヤマサチ「ねえ兄ちゃん! たまにはさ、お互いの道具を交換して獲物獲ってみない?」
ウミサチ「えー! やだよ。これ、お気にの釣り針だもんよ」
ヤマサチ「いーじゃん! 減るもんじゃないし! 貸して貸してー!」
ウミサチ「ダメだよ、お前絶対失くすから!」
ヤマサチ「大丈夫! 絶対失くさないから~! お願い! ちょっとだけだから貸して! ね?」
ウミサチ「わかったよ、しょーがねーな。でも絶対失くすなよ!」
ヤマサチ「ありがとー!」
数時間後。
ウミサチ「おーい、そろそろ返してくれよ」
ヤマサチ「ぎくっ! ……いやっ、その、もうちょっと借りても……いいかなぁ?」
ウミサチ「え~? もう何時間貸したと思ってんだよ。いいから返して」
ヤマサチ「いやっ、あのその、もう少しだけ、ダメかな?」
ウミサチ「何かお前……様子おかしいな? ……ってまさか! 失くしたんじゃないだろうな!?」
ヤマサチ「いやいや! まさか! 失くすわけないじゃん! ただ海に落として見つからないだけだだよ!」
ウミサチ「それ失くしたって言うんだよ!! どあほーーー!!!」
ヤマサチ「ごめーーーん!!! ……てかアレ、全然魚獲れなかったからあんまいいヤツじゃな……いやいや、ホントごめんちゃーい!!」
ウミサチ「あれほど失くすなって言っただろ! 何としても探せ! そして絶対に返せ!」
ヤマサチ「はあい!!」
海は広いな大きいな。
ヤマサチがどれだけ探せど、小さい釣り針が見つかるわけもございません。
仕方がないのでヤマサチは、自分の剣を砕いて500本の釣り針を作って(器用だね! )、ウミサチへ持っ行きます。
ウミサチ「こんなもんいらねーよー! お気にじゃなきゃイヤなんだーい!!」
ヤマサチは、更に1000本の釣り針を作って、ウミサチへ持っていきます(その情熱あったら十分探せそうだな! )。
ウミサチ「何本持ってきてもいらねーってんだよ! あれじゃなきゃダメなんだよ! (どんだけお気になんだよ! )」
ウミサチは一向に許してくれません。
釣りが好きなのに、全く釣れない男です(言うてる場合か)。
ヤマサチは、頭を丸めて謝罪した方がよさそうですね(これがホントのボウズ! )。
ヤマサチ「うわーん!! 許してよー!!」
ウミサチは、とにかくお気にの釣り針が見つかるまでは、と断固許しません(てかお気にの釣り針って何よ)。
ヤマサチは、浜辺に座り込んで泣いてしまいます。
すると、海の中から1人のおじいさんが現れます。
おじいさん「ぷはー!! 地上だ! ……おや? 大の男が泣いておるな……もしもし兄ちゃん、失恋したか? 女ってのは他にいくらでもおるから、くよくよするなって」
ヤマサチ「失恋て決めつけんな! オレはこう見えて結構モテるんだー! ……て、アンタだれ?」
おじいさん「ワシは塩椎神(シオツチノカミ。製塩、潮の神様。以下、シオツチ)じゃ」
ヤマサチ「しおじい?」
シオツチ「それだと元財務大臣の塩川正十郎の愛称だから、シオツチじゃ。何故泣いとるのか、ワシにワケを話してごらん。ダテに年食っとらんから、聞いてやるぞ」
ヤマサチ「……初対面のジイさんに話すのもなんだけど……聞いてくれる? かくかくしかじか……」
シオツチ「かくかくしかじかって?」
ヤマサチ「そのまま読まないで! 実は、これこれこういうわけで……」
シオツチ「これこれこういうわけって?」
ヤマサチ「ちゃんと説明しなきゃダメなのね。兄貴の釣り針を借りて釣りしてたら、その釣り針を海に落として失くしちゃって。探しても見つからないし、謝っても許してくれないから、代わりの釣り針を1500本持ってたんだけどそれでも許してくれなくて。どうしてもお気にのそれじゃないとダメだって……」
シオツチ「お気にの釣り針って何? 限定品?」
ヤマサチ「いや、それが全然わからないんだけど……どうしたらいいのかって泣いてたんだ」
シオツチ「なーんじゃ! そんなことかい。ワシに任せんしゃい!」
シオツチが竹籠の小舟を作ると、そこにヤマサチを乗せます。
シオツチ「コイツで海の中へ行ってきなさい。この潮の流れに乗って、しばらくすると宮殿がある。そこに行けば、きっと釣り針も見つかるじゃろう」
ヤマサチ「え? え? 海の中に宮殿があるってどゆこと?」
シオツチ「いいから余計なこと言わずに行けーー!」
こんな話にちなんで、シオツチは道案内・航海の神様でもあります。
彼が祀られる有名な神社は、宮城県の「鹽竈(しおがま)神社」です。全国にある鹽竈神社の総本宮がこちらです。
ちなみにこの鹽竈神社の末社(付属の神社)が、御釜神社です。
この神社の境内に4口の竈があって、これがシオツチがこの地で製塩を伝えた時のものだとされているんです。
だからこの辺りの地名を「塩釜」と言います。
神の世から今に伝わっているというのは、地元の皆様のごセイエン(声援・製塩)のおかげでしょうね(ボクはゴセンエン欲しい! )。
この4口の竈が実に不思議で、天の逆鉾と並ぶ「日本三奇」の一つに数えられています。竈は鍵のかかった建物の中にあります。社務所の方に頼んで100円納めると、鍵を開けて見せてくれます(写真はNG)。
それぞれに水が入ってるのですが、どんなに暑い日でも干上がらず、どんなに雨が降っても溢れないそうです。
この水に異常がある時は、天変地異が起きる前兆とされ、あの東日本大震災を予言したとも言われています。参拝した時に、そのことを社務所の方に伺いましたら、震災の日の朝、普段は赤茶色に濁っている水が透明になっていたそうです。古くは、伊達家に嫡男(跡取り息子)が生まれた時にも水に異変があったそうです。いいことでも悪いことでも変化するんですね。信じるか信じないかはあなた次第です! (キマった! )。
さて、ヤマサチが小舟に乗って、海中宮殿へと参ります。
これ実は、『古事記』には「海の中」に行ったとは明確に書いてません。
でもこの部分は、海の中の出来事と解釈されることが多いです。「海の彼方」という説もありますが、魚達もたくさん出てくるし、海の中の方が、ファンタジーで神話っぽいから「海の中」とさせてください!
さあ、海の中の世界とは果たして……!?
落語DE古事記
神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね!
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