神様のあんな話、こんな話が収録されている「古事記」。
なかなか簡単に理解できない「古事記」ですが、落語家・桂竹千代さんにかかれば、この面白さ!
幻冬舎plusの人気連載をお楽しみください。
「古事記」ではたびたび、神様同士がきょうだいゲンカをしますが、今回もその気配……。
お兄さん(海幸彦)の大事なものをなくしておきながら、お兄さんにいじわるをしようと企む弟の山幸彦。
どうなっちゃうの~! 兄・弟、あなたはどっち派?
* * *
第26話「忘れすぎておめでターイ」
ヤマサチ「いえーい!! ほれいっきいっき!! わー! いいねタコちゃん、いい飲みっぷり! 顔赤いよ! これがほんとのゆでダコだね!」
なんてしょーもないことを言いながら、海底宮殿にて、飲めや歌えやの大騒ぎ。
連日、楽しい宴をして、3年の月日が流れたある日のことです。
魚A「今日も楽しいですね! ヤマサチさーん!」
ヤマサチ「おうよ! ほれ飲めや歌えやー!」
ワダツミ「そういえばヤマサチさんは、どうしてここへ来られたんですか?」
ヤマサチ「……え? 何でここに来たかって? そりゃあよおやっさん……そこに酒があるからだぜー!!」
魚C「いエーイ!!! (多分こいつエイだよね)」
ヤマサチ「あれ? ……でもホントは何で来たんだっけ? ……あっそうそう、兄貴の“お気に”の釣りば……うおー!! (魚だけに)そうだった!! 忘れてた!!」
魚Y(いっぱいいるからね!)「何を忘れてたんです?」
ヤマサチ「兄貴の大事な釣り針無くしちゃったから、探しに来たんだった! 忘れてた!」
魚全員「えー!! 3年も忘れてたのー!!? ぎょぎょぎょー!! (魚だけにね!)」
ワダツミ「それはいけませんな、早く探しましょう(ってもう3年経っちゃてるけど)! おーい、お前たちの中で釣り針を見たヤツはおらんか?」
魚ラ(アルファベットだけじゃ数足りないようだね!)「はーい! そういえば鯛ちゃんが喉に何か魚の骨みたいなヤツが刺さって痛いって言ってましたー! (魚が魚の骨刺さるっておい!)」
ヤマサチ「それだー!!」
鯛の喉を見ると、ウミサチの釣り針が出て来た! (いや、気づけよ鯛! 何ておめでタイやつだ!)
ワダツミ「見つかって良かったですね」
ヤマサチ「良かったよおやっさん! ありがとう!」
ワダツミ「ただねヤマサチさん……ただこれをお兄さんに返してはいけないですぞ。謝ってるのに許してくれないなんてひどいですから、ちょっと懲らしめてやりましょう」
ヤマサチ「……と言いますと?」
ワダツミ「釣り針を返す時に、これは貧乏っちい釣り針だ、ダメな釣り針だって悪口言いながら、後ろ手で渡すんです」
ヤマサチ「子供かよ。そんなことしたら兄貴怒るよ」
ワダツミ「これが呪文なんです。そしてお兄さんが高い所に田を作るなら、ヤマサチさんは低い所に田を作り、お兄さんが低い所に作るなら、ヤマサチさんは高い所に作るんです」
ヤマサチ「要は反対にすりゃいいってこと?」
ワダツミ「私は水を支配している神ですから、それでお兄さんを貧しくさせることができます」
ヤマサチ「そりゃ心強いね。でもやっぱ、怒りそうだな~」
ワダツミ「そんな時のために、この2つの玉を差し上げます。お兄さんが怒って攻めて来たら、この塩盈珠(シオミツタマ)で海を満潮にさせて溺れさせて、お兄さんが助けを求めて来たら、塩乾珠(シオフルタマ)で助けるんです。それでまた攻めて来たらシオミツタマで満潮に……これを繰り返してるうちに、お兄さんはきっと,ヤマサチさんの言うことを聞くようになるでしょう」
ヤマサチ「おっけ! ありがとうおやっさん! ……でもこの玉2つって、もしかしておやっさんの……?」
ワダツミ「そうよ~ん、アタシのタマタマ大事にして~……ってんなワケないでしょ!」
ヤマサチ「おっ、ノリツッコミ」
ワダツミ「今のは水に流して~」
ヤマサチ「いよっ、水の神」
こうしてヤマサチは、ワダツミより呪力の玉を2つゲットします。
この海の親分・ワダツミが祀られる代表的な神社は、福岡県志賀島の志賀海神社(しかうみじんじゃ)です。志賀島と言えば、「漢委奴国王」の金印が見つかったことで有名になりました(金印レプリカのスタンプ買っちゃった! )。志賀海神社のご利益は、海上安全や漁業守護です。
さて、ヤマサチはでっけーサメに乗って、地上へ3年ぶりのリターン!
ウミサチにやっと釣り針を返せるのです。しかも3年も待たせておいて、ウミサチが怒ってきたらお仕置きしちゃおう作戦なんです。
「元々は、釣り針失くしたオマエが悪いだろ!」って誰もが言いたい気持ちはわかります。
でもヤマサチは海底で、強力な武器を得てしまったのです。
ヤマサチVSウミサチ。
まもなくゴング。
落語DE古事記
神社に行けば、私たちは神様にありとあらゆることをお願いしますよね。商売繁盛に合格祈願に延命長寿に縁結びに厄除けに……。
でもちょっと待って。こんなに頼りにしてる「神様」のこと、ちゃんと知ってますか?
神様について書いてあるのが「古事記」です。歴史の教科書でも最初の方に出てくるので、「古事記」について聞いたことのない人はいないと思いますが、でも何が書かれているかまで説明できる人って、少ないんじゃないでしょうか。
そこで、大学院まで古代史を専攻していた落語家の桂竹千代さんに、「古事記」を楽しく解説していただくことにしました。
爆笑注意ですから、静かな場所では読まないようにしてくださいね!
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